角田裕毅選手は「ファンに期待感を抱かせてくれるドライバー」と語る堂本光一
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE34
今週末でF1のサマーブレイクは終わり、シーズン後半戦は第15戦オランダGP(決勝8月31日)と第16戦イタリアGP(決勝9月7日)の2連戦でいよいよ幕を開ける。チャンピオン争いはマクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリのふたりに絞られた格好だが、それ以外も見どころはたくさんある。
マクラーレン以下のランキング争いは大接戦となっていることに加え、ドライバーたちの2026年シーズンのシートをかけた戦いもある。
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■今年のマクラーレンはスキがない
今週末のオランダGPから後半戦がスタートしますが、チャンピオン争いはほぼマクラーレンのふたりに絞られたと言ってもいいでしょう。前半戦でオスカー・ピアストリ選手が6勝を挙げて(獲得ポイント284)チャンピオンシップをリードし、チームメイトのランド・ノリス選手は9点差でランキング2位につけています。
ドライバーズ選手権の5連覇を目指すマックス・フェルスタッペン選手(獲得ポイント187)はすでにマクラーレンのふたりに大差をつけられていますし、今年のマクラーレンはスキがありません。
昨シーズンのフェルスタッペン選手は、ノリス選手とピアストリ選手がやりあっている間隙をついて何度か勝利したことがありましたが、今年のマクラーレンはドライバーふたりをうまくコントロールしています。チームメイト同士で争ってポイントを失うということがほとんどありません。
それにマシンが圧倒的に速いこともあり、フェルスタッペン選手が残りの10戦でマクラーレのふたりをポイントで逆転するのは不可能に近いと思います。
コンストラクターズ選手権でもマクラーレン(獲得ポイント559)はランキング2位のフェラーリ(獲得ポイント260)にダブルスコアをつけています。こちらもほぼタイトルは決まりと言ってもいいかもしれません。
現代のF1において、カスタマーが膨大な予算と人員を擁するワークスを成績で上回るのはものすごいこと。
もちろんメルセデスやフェラーリなどのワークス勢がすでに新しいマシンレギュレーションが導入される2026年の開発にエネルギーを割いているのが背景にはあるとは思いますが、今シーズン前半戦のマクラーレンの圧倒的な強さには驚かされました。
■王座争いは"セナプロ"のようにはならない
これから始まる後半戦の最大の見どころはノリス選手とピアストリ選手のチームメイトによるチャンピオン争いです。マクラーレンのチームメイト対決といえば、1980年代後半から90年代前半にアイルトン・セナ選手とアラン・プロスト選手が繰り広げた熾烈なチャンピオン争いを連想する人が多いかもしれません。
F1では過去にセナプロだけでなく、1970年代のジェームス・ハント選手対ニキ・ラウダ選手、ミハエル・シューマッハ選手対ミカ・ハッキネン選手、フェルスタッペン選手対ルイス・ハミルトン選手など、その時代ごとにライバル関係がありました。
過去のチャンピオン争いでは、ライバル同士がコース上でマシンをぶつけ合うほどの激しいバトルを演じ、マシンを降りても舌戦を繰り広げることもありました。でもノリス選手とピアストリ選手は、そんな殺伐としたライバル関係にはならなそうな気がします。
ピアストリ選手はいつも冷静ですし、ノリス選手は温厚な人柄が垣間見えます。お互いにリスペクトしあっています。
最近は、ほかのスポーツ界でもライバル同士がバチバチにやり合うのは少なくなってきましたが、それは僕らのエンターテイメントの世界も一緒です。時代の空気が変化し、ファンの心理も変わってきたと思います。
僕自身、勝つためにはコースの内外でなんでもやるというセナプロの熾烈なバトルを楽しんできた世代です。
でも今シーズンのチャンピオン争いを「セナプロの再来か!?」と、ライバル関係や対立をあおるのには違和感を覚えます。現代のファンは、コース上の勝負を純粋に楽しむように変わってきていると思います。
■ピアストリは新しい時代のスター
新時代のF1を象徴するドライバーがチャンピオン争いをリードするピアストリ選手です。まだデビュー3年目の24歳ですが、感情を露わにして戦う従来のドライバーとは一線を画す存在です。優勝しても冷静で、「どうだ! やったぞ!」と自分の力を誇示することもありません。
2001~21年までフェラーリやマクラーレンなどで活躍したキミ・ライコネン選手は"アイスマン"と呼ばれ、普段はクールで無口なドライバーでしたが、言いたいことがあるときははっきりと言いますし、レース中にエンジニアと無線で激しい口論をすることもありました。
ピアストリ選手が、無線で感情的になっているのを聞いたことがありません。ノリス選手もあまり感情を表に出さないのですが、彼の場合はチームの指示に不満があるときは感情が少し漏れ出てくることがあります。でもピアストリ選手はいつでも淡々としています。
もちろんマクラーレンは他チームの追従を許さないほどのマシンに仕上がっているので、いろんな意味で余裕があるというのも大きい。チーム全体が余計なプレッシャーを感じることなく戦えているという側面もあると思います。
とはいっても、チャンピオンになれるのはひとりだけですし、F1ではチームメイトが最大のライバルと言われるので、お互いに負けたくないはず。それでもふたりがバチバチに火花を散らさないのは時代が変わったなと思う反面、この関係のまますんなり行くのかな......と感じています。
ただ後半戦に入って、本当にギリギリの勝負になったときにどうなるのか? いまの得点差が続いていたら、激しいバトルになるかもしれません。決してあおるわけではありませんが、マクラーレンのチームメイト同士のタイトル争いがどういう結末を迎えるのか、シーズンの最後まで目が離せません。
■やっぱり角田選手に頑張ってほしい
角田選手が所属するレッドブルはコンストラクターズランキング4位で前半戦を終えましたが、レッドブルのマシンがここまで競争力が落ちているとは予想もしていませんでした。
角田選手だけでなく、エースのフェルスタッペン選手もマシンの性能を引き出すのに苦労していますが、さらに角田選手に関してはエンジニアとのコミュニケーションがうまくいっていないことも気になります。
それでも角田選手は夏休み前のベルギーとハンガリーでポイントこそ獲得できませんでしたが、フェルスタッペン選手に迫るパフォーマンスを発揮。少しずつ調子が上がってきているように見えます。

第9戦スペインGPでF1出走96戦目を迎え、片山右京の95戦を抜いて日本人の最多出走記録を更新した角田選手。鈴木亜久里、小林可夢偉に続く表彰台獲得が期待される
それにチームの体制変更があり、レーシングブルズ時代から角田選手を高く評価しているローラン・メキーズがレッドブルの新代表に就任しました。これで流れが変わって、角田選手のレースが好転してくれることを期待しています。
レーシングブルズ時代から角田選手は浮き沈みがありましたが、ここぞというときに速さを発揮し、結果を残してきました。ファンに期待感を抱かせてくれるドライバーなんですよね。
今はレッドブルで苦しい時期を過ごしていますが、多くのファンがいまでも角田選手に期待を寄せています。もちろん僕もそのひとりです。
後半戦はオランダのザントフォールトとイタリアのモンツァの2連戦で始まりますが、来年に向けたシート争いも過熱していきます。角田選手には逆境をはねのけて結果を残し、来年のシート獲得につなげていってほしいです!
☆取材こぼれ話☆
シーズン前半戦はドライバーズランキング19位(獲得ポイント10)で終えた角田裕毅選手。10位でフィニッシュした第7戦のエミリオロマーニャGP以降、入賞から見離されている。
「今シーズン、レッドブルは苦しい戦いが続いていますが、姉妹チームのレーシングブルズは安定したパフォーマンスを発揮しています。
開幕から好調な走りを見せるアイザック・ハジャ選手(ドライバーズランキング13位)だけでなく、角田選手と入れ替わる形でレッドブルからレーシングブルズに移籍したリアム・ローソン選手(同ランキング15位・獲得ポイント15)もいつの間にかドライバーズ選手権で角田選手を抜いてしまいました。
でも今年のレーシングブルズのマシンは角田選手が中心になって開発してきたんです。角田選手は速さだけでなく、開発能力もある。そこは是非わかってほしいなと思います」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄