ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? ...の画像はこちら >>

最前線でどれだけ戦死者を出そうが、次々と新兵を繰り出すロシア軍(以下、露軍)。今、ウクライナ戦争は"人命消費戦争"となっている。

人口比からすればロシアの勝利は確実だ。しかし、ウクライナ軍(以下、ウ軍)はこの危機に人命消費をできる限り抑えるため、ついに空飛ぶドローンに加え、地上戦でもロボット兵の投入を開始した。

*  *  *

ウクライナ国防省情報局(GUR)は、ウ軍ロボット軍団がロシア兵100人一個中隊を殲滅したと発表した。

その作戦は、爆薬を満載した見つかりにくい地上ドローン、つまり"ロボット兵"が露軍陣地に突入し、自爆して始まった。おそらくその奇襲爆発で、大騒ぎになった露軍兵士たちは塹壕に隠れようとしたはずだ。

しかし、上空を飛ぶ偵察ドローンからの指示によって、Mk19自動榴弾銃を搭載したロボット兵数台が、その露軍の隠れた塹壕に40mm榴弾、48発メタルリンクを連射。その有効射程は1500mで、着弾した半径15mの敵兵を殺傷。毎分400発の曲射弾道は、塹壕に隠れた敵兵を頭上から攻撃したと思われる。それは塹壕の屋根をぶち抜く威力があり、人体に直撃すれば一瞬で霧散させる。

もちろん、隠れていた露兵は塹壕から外に飛び出すが、そこを無人車両「TerMIT(テルミット)」に搭載された機関銃で次々と狙撃。その連射狙撃は、ほとんど同じ地点に着弾するすさまじい集弾性能を誇る。狙撃から生き残った露兵は次々と降伏する。

地上のロボット兵と空飛ぶドローンの連携の成果だ。ウ軍がラジコンで操るロボット兵のおかげで、味方兵の犠牲はなかったはずだ。

捕虜となった露兵は武器を捨て、両手を高く上げて空を見上げながら移送開始。空からウ軍偵察ドローンが見張っている。逃げても随伴して飛行するドローンが、その露兵に瞬時に接近して爆殺となる。

この作戦、もし生身の兵士が露軍100人相手に戦闘していたらどうなるのか? また、ロボット兵の存在がどれほどの味方の命を救うのか。そして、無人ドローンやロボット兵がなかった場合、陸上自衛隊普通科連隊だったらどう戦うのか――。元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)にシミュレーションしてもらった。

「まず、揃える兵力は"攻撃3倍の法則"に従い、三個中隊300名。一個中隊は予備中隊として残し、二個中隊200名で攻撃。塹壕内の敵を梱包爆薬により減殺し、掃討する夜間の隠密攻撃の場で考察します。

陸自ではMk19は車載が基本なので、このシミュレーションでは夜間隠密攻撃に81mm迫撃砲を三個小隊12門、兵力60名を帯同することになります」(二見氏)

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
陸自81mm迫撃砲小隊発射準備よし(写真/柿谷哲也)

陸自81mm迫撃砲小隊発射準備よし(写真/柿谷哲也)
戦闘員は200名。
ウクライナ軍であれば、最初にロボット兵で露軍の軍地を爆破してから奇襲にかかるはずだ。

「その代用として、普通科連隊ではAクラスの一個小隊30名を充てます。10kgの爆薬1~3個を担いだ潜入爆破班20名と、それを支援する一個分隊10名です」(二見氏)

戦闘兵は170名となる。

「サーマルナイトビジョンのような暗視機材を露軍が保有していない場合、露軍陣内に接近し、爆薬を設置することが可能です。

しかし、暗視機材があれば、潜入爆破班は発見されて攻撃され、10名はやられるでしょう。さらに残りの10名がやられそうならば、予備隊の一個中隊100名を投入する必要が出てきます」(二見氏)

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
潜入爆破班。写真では車両移動だが、シミュレーションでは徒歩移動となる(写真/柿谷哲也)

潜入爆破班。写真では車両移動だが、シミュレーションでは徒歩移動となる(写真/柿谷哲也)
この場合、まず10人の命が失われ、さらに100名が戦場に投入される。

「爆破班が発見された場合は、作戦は隠密攻撃から火力を発揮した強襲に移行します。迫撃砲三個小隊が12門の81mm迫と、後方に展開している155mm榴弾砲により砲撃します」(二見氏)

この強襲が失敗し、潜入爆破班20名もやられた場合、予備隊一個中隊の損耗はどうなるのか。

「そのときは一個中隊の30%が損耗します」(二見氏)

なんと100名中30名が戦死!! 計50名の損耗となる。

「もし地上ドローンがあれば、失敗しても残りを全て稼働させて、突撃自爆させます。うまくいかなければ撤収しますが、味方の人命の損害はゼロです。

これがロボットの強さです」(二見氏)

ウ軍ロボット軍団では、空に無人偵察ドローンと攻撃用自爆FPVドローンが飛んでいる。この陸自普通科連隊にはそれがない設定だ。さらに兵が必要だ。

「陸自は、音を立てずに敵を倒せる偵察兵を2名1組で4組、放ちます。

その8人の偵察要員が露兵にやられれば情報は入らず、潜入爆破班の誘導、戦場監視が難しくなります。許容可能なのは一個組の損害までですね」(二見氏)

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
放たれた偵察班2名1組。だが、写真のように発砲は最後の手段。静粛と発見されないことが大事だ(写真/柿谷哲也)

放たれた偵察班2名1組。だが、写真のように発砲は最後の手段。静粛と発見されないことが大事だ(写真/柿谷哲也)
ここまでの任務失敗想定でのシミュレーションで、普通科隊員は最大で52名戦死。

「そして、ロボスナイパーTerMITの代わりは、人間狙撃兵とスポッターの計8名で、四個狙撃班を配置します」

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
陸自狙撃班は800m先の標的に一発で命中させる凄腕だ(写真/柿谷哲也)

陸自狙撃班は800m先の標的に一発で命中させる凄腕だ(写真/柿谷哲也)
「狙撃兵の任務は、情報収集、塹壕掃討部隊の前進を阻止する機関銃などの火点の撲滅、そして掃討されて塹壕を飛び出した露兵の狙撃です。

特に、塹壕掃討部隊がどこまで進んだか、ケミカルライトや暗視装置で見られるスプレーの散布位置を突入部隊や指揮官に伝え、敵味方識別が可能となる重要な役目があります。

なので、露兵にやられにくいですが、やられてしまえば攻撃作戦の直射火器による支援が成り立たなくなります」(二見氏)

陸自狙撃班はそれほど重要な役割を担っているのだ。

「しかし今の戦場では、上空から無人偵察ドローンが飛び交い、夜でもサーモ迷彩が不十分な狙撃班なら発見される確率が高くなります。

さらにFPVドローンならば、10km先の狙撃兵を適確に爆殺可能です」(二見氏)

狙撃兵が戦場で最強だった時代は、すでに終わっている。だから、今回のシミュレーションでも、作戦失敗すれば50名を超える死傷者が発生するのだ。

■陸自普連の作戦成功した場合の展開と兵の損耗数は

もし潜入爆薬設置班が爆薬をセットすることに成功し、露軍に発見されず離脱できた場合はどうなるのか。全12門の81mm迫撃砲が火を噴き、一分間に240発の迫撃砲弾が豪雨のように降り注ぐのだろうか。

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
写真は120mm迫撃砲だが、このシミュレーションでは81mmが炸裂する(写真/柿谷哲也)

写真は120mm迫撃砲だが、このシミュレーションでは81mmが炸裂する(写真/柿谷哲也)
「いいえ、弾薬車両が必要となり発見されやすくなるため、そんな大量の弾薬は持ち運びできません。1門5発、全部で60発撃ち塹壕への突入の機会を作れば砲撃終了です」(二見氏)

ウ軍が投入しているMk19搭載ロボは、一台で40mmグレネードを48発打てる。6台投入すれば、288発の火力を発揮可能だ。

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる

また、最新配備の無人地上戦闘ロボ「Lyut」は、PKT7.62mm機関銃と550発の弾薬を搭載し、800m先まで正確に狙撃可能だ。40mm榴弾の大量砲撃に続いて、Lyut1台で三点射狙撃が約183回可能、つまり183名の敵兵を倒す戦力を持っている。

「普通科中隊は、60発の81mm迫撃砲の猛射の後、露軍塹壕に向けて塹壕内に突入です」(二見氏)

ウクライナ軍のロボット兵は、人命消費戦争に貢献できるのか? 陸自普通科連隊を最前線に投入し、シミュレーションを試みる
陸自普通科隊員の塹壕への突入開始!!(写真/柿谷哲也)

陸自普通科隊員の塹壕への突入開始!!(写真/柿谷哲也)
総勢160名で陸自、突入!!

「81mm迫撃砲弾60発だけでは露兵を全員倒すことはできないので、70名は残っています。とはいえ、あくまで狙いは敵の混乱。露軍は突然の大爆発に続いて、81mm迫撃砲でバカスカ叩かれ、陸自普連に塹壕に突入されています。

それだけでも慌てふためいて、降伏する兵たちが出ます」(二見氏)

その際は全員、捕虜にするのだろうか。

「捕虜として取れるのは30名とすると、40名を無害化しないとなりません」(二見氏)

相当、怖しくて過酷な戦場がそこにある。

「人間の兵同士の戦闘は非常に恐ろしいです。塹壕に飛び込んだら、一方向に押していきます。同時に数ヵ所から塹壕内に飛び込んでの掃討は、友軍相撃する可能性も高い。

掃討して安全化したら、地面にナイトビジョンから見えるケミカルライトか、可視化能なペンキをスプレー掃射して、狙撃班に味方到達地点を知らせます」(二見氏)

敵塹壕への突撃。ここからは塹壕の横穴にフルオートで一斉射撃を加え、手榴弾を投げ込みひとつずつ潰していく。ウクライナ軍もよくやっているが、陸自普通科中隊も同じだ。何名ぐらいの損耗が出るのだろうか。

「一個中隊10名ぐらいの損耗ですね」(二見氏)

もし、これがロボット兵ならばどれほど損耗を抑えられるのか?

「Mk19の40mm榴弾の砲撃と、Lyutの機関銃狙撃。さらに横穴に逃げ込めば、FPVドローンを突っこませます。このロボット攻撃方法であれば、味方兵の人命損失数はゼロです」(二見氏)

塹壕の中から30名が降伏して出てくる。

「両手を後ろ手に縛り、全員を一列に繋いで、支援中隊から来た一個小隊30名で後方の味方陣地まで徒歩で運びます。15kmを5時間かけての移動です。

夜間のため、人数が多くなると武装解除も確実にしなければならず、危険が伴うとともに時間を要します。捕虜はいないほうが次の作戦に迅速に移行できるのです」(二見氏)

この移動中、露軍の攻撃はないのだろうか。

「露軍はすぐにこの後方地帯に人員を回すのは難しいでしょう。捕虜輸送でしっかりとした体制をとっていれば、露軍にやられるのは数名以下になります。

ただ、無人偵察ドローンとFPV自爆ドローンがあれば、歩兵の損害はゼロですみます」(二見氏)

作戦が成功しても掃討作戦で計20名の損害が発生する。

「ロボット兵団による作戦は素晴らしいのです。ロボット兵を使わない理由はありません。危険なことは全て無人兵器によってできるからです。

これからの戦闘は、危険な場面を人がやってはなりません。ロボット部隊が担当して、普通科連隊は支援する形をとるでしょう。

もうひとつ、ロボット兵団の戦闘で大きなメリットがあります。それは、味方人間兵を第一線に持って行っていないので、友軍相撃がないことです」(二見氏)

「ブルーオンブルー」と呼ばれる味方撃ちだ。

「ロボット兵団だと射撃統制が最小限となり、銃弾、砲弾を必要なだけ撃ち込めます」(二見氏)

指揮官の心労が著しく減ずる。

「ロボットや機械を使って、どう効率的に敵を潰していくかを考えられるようになって、多くのことが実現できる可能性があることがわかりました。

そして、ウクライナ最前線では、露兵の質が落ちていますから、各種作戦・戦法を試し、作戦を練り上げていくいい機会となります」(二見氏)

地上無人ロボは、ドローンオペレーターならば3日も訓練すれば使える。一人前の歩兵になるには、陸自普通科ではどのくらいかかるのか。

「入隊して2年で使えるようになり、4年を経て、やっと頼りになる兵士になります」(二見氏)

しかし、その隊員の命は一度の交戦だけで数十人単位で失われる。ロボット兵軍団は、ウ軍の人名損失を減らすことができる。

今、最前線を挟んで25km地帯は、ドローンの活躍で戦死確実地帯になっている。そこでこのロボット兵団が露軍占領地を奪還し、ウ軍の戦死者数をなくせるのか。それは喫緊の課題となる。

そして、気になるのは露軍の今後だ。ウクライナでこの戦闘を学んだ露軍が、北海道、青森県に来襲する時、このロボット兵団を駆使して、侵攻してくるのであろうか。

「当然ありますね。自衛隊はそれに備えなければなりません。地上戦闘を含め、戦争のやり方は根本的にウクライナ戦争から変わりました」(二見氏)

露軍の日本来襲の時までに陸自普通科連隊は、ロボット兵団の戦闘を支援する戦闘形態に変わっていなければならないのだ――。

取材・文/小峯隆生 写真/柿谷哲也、「テレグラム」投稿動画

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