1969年に人類初の月面着陸を果たしたアメリカの宇宙船アポロ11号が「実際には月面に着陸しておらず、映像や写真はフェイク」というのは、世界的に有名な陰謀論
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。
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私が中学生のころ。ゆうむはじめ氏の著作『宜保愛子・霊能力の真相』を愛読していた。日渡早紀氏のマンガ『ぼくの地球を守って』にも熱中した。いわゆるオカルト・前世もの。雑誌『ムー』も大好きだった。最高でしょ。
高校から大学に進学して以降も熱はおさまらず、ベンジャミン・フルフォード氏の『日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日』、武田邦彦氏の『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』、副島隆彦氏の『人類の月面着陸は無かったろう論』などを愛読した。
彼らの書籍はいま読んでも面白い。とくにフルフォード氏の『ヤクザ・リセッション』はもはやミステリー小説と思えるほどにスリリングで、あやうい魅力を放つ。
しかし私はこれらで語られる"陰謀論"を一切信じていなかったし、いまも信じていない。
もちろん一部は正しかったり、指摘が鋭かったりするんだろう。ただし陰謀論を支持する理由はたくさんあっても、それを否定する証拠もたくさんある。
片方だけを一方的に採用するのはフェアではない。特定の組織が世界を支配していたり、誰も知らない隠された巨大な真実があったりする、なんてことがあるはずはない。
以前、電通の方と話したら、「電通が闇の支配者だとかフィクサーだと話す人がいるけど、他社とのコンペにも負けるくらいですよ」と笑っていた。「世界を思いのまま操れるなら、なぜ業績不振が続くのか」と。そういえば電通グループは3期連続の赤字となる見通しだ。
私は職業柄、企業のトップと話す機会が多い。彼ら・彼女らのもつ情報は特別ではなく、一般の雑誌やネットから得ている。
それどころか日本の総理大臣経験者のXの投稿を見て、その情報と分析の浅さに驚いた経験のある人は多いだろう。日本の最大権力が持てる機密はほとんどないのか、と幻滅するほどだ。
人類がじつは月面に着陸しておらず、映像はスタンリー・キューブリックが撮影したフェイクだとの疑いがあるらしい。それが本当なら、ただちに組織の誰かから事実が漏れるはずだ。官僚機構か政治結社の誰かが筋書き通りに物事を運べるほど世界は単純ではない。
みなさんが働く会社を想像してみればいい。組織はもろく、一枚岩ではない。秘密を隠せない。ショッカーだって、あれだけ構成員がいたら悪の秘密を『週刊文春』に売る奴(やつ)が出てくるはずだ。
ところで、ちゃぶ台返しするようだが、私は陰謀論が価値ある存在だと信じている。書籍が売れるとか、人を集められるといった経済的な意味だけではない。
陰謀論は大衆の不満の表れだ。生活での不幸や不条理を何ものかの責任にしたい想い。それがわかりやすい犯人を作り上げる陰謀論に惹(ひ)きつけられていく。
ただ、たとえ妄想でも、陰謀論があるからこそ、ときの権力や官僚機構に自制が生じる。陰謀論を支持する極端な現状否定勢力が出てくると、ジャーナリズムによるさまざまな検証が行なわれ、それが権力暴走の抑止にもつながる。
陰謀論は社会として適度に使いこなすものだ。『ムー』などは「うむー」と感想をもらすくらいの距離感がちょうど良い。
写真/時事通信社