1913年、神奈川県で創業。ブロッコリーやトマトなどの野菜事業と、トルコギキョウなどの花事業が主軸の大手種苗メーカー
『週刊プレイボーイ』で連載中の「坂本慎太郎の街歩き投資ラボ」。
今週の研究対象
農作物の種苗(サカタのタネ)
今年の殺人的な猛暑をはじめとした気候変動は農業をも直撃している。しかし危機は裏を返すとビジネスチャンスでもある。種苗メーカーに目をつけた!
助手 所長、ゴーヤーをどうぞ。
坂本 どうしたんです、これ?
助手 ホームセンターで買った苗から、やっと収穫できたんですよ。
坂本 家庭菜園ね。確か、ナスも育ててなかった? そっちはないの?
助手 実は、ナスはいつの間にかしおれて消滅してしまいまして。
坂本 まぁ、ナスとかトマトみたいなナス科の野菜は暑さに弱いから。
助手 そうらしいですね。連日35℃超えの東京の環境は無理があったのかもしれないです。各地でも酷暑や水不足が続いてるっていうし、農家は大変でしょうね。「夏野菜」って言葉が死語になるかもですね。
坂本 なら今回は「気候変動が追い風になる農業関連銘柄」で決まりだ。
助手 農業自体が立ち行かなくなるかもって心配してるのに、そんな銘柄ありますか?
坂本 ある。深刻な問題だけに、解決策の研究は企業でも盛んですよ。
助手 うーん、水不足が深刻らしいから灌漑設備のメーカー。あるいは高温で病気が発生するなら農薬メーカーもありそうです。
坂本 そういう企業にも追い風だろうけど、一番期待できるのは種苗メーカーなんですよ。灌漑設備や農薬の導入は農家にとってコストが高いし、環境負荷も大きい。一方で、品種改良で高温耐性や耐乾性を獲得した苗は、一度普及すれば農家は追加コストなしで持続的に利用できる。国連食糧農業機関も気候変動対応のカギは品種改良にあるとみています。
助手 なるほど。本命は種苗メーカーですか。僕がホームセンターで買った苗は、確かカネコ種苗って会社のものでした。
坂本 カネコ種苗は種苗以外に水耕栽培システムや温室設備、農薬、肥料など幅広い商材を取り扱う"農業総合商社"的な企業なんです。つまり商品を売る仕組みである商流や流通力が強みで、種苗の売上比率は比較的低いんだよね。
助手 となると、ほかに有望な種苗メーカーがあるんですか?
坂本 サカタのタネが有望だと思います。自社で品種改良した苗や種子の販売が中核事業で、中でもブロッコリーやトルコギキョウの種子は世界シェア約70%にもなる。
助手 まさにドンピシャですね! にしても、農業関連の世界的企業が日本にあるなんてちょっと意外です。
坂本 同社は世界中で買収を繰り返して成長してきたんです。近年でもヨルダンやオランダのキュウリ種苗会社やアメリカのレタス種苗会社など、得意分野が異なる世界各地の企業を買収しています。買収を繰り返したことで、13ヵ国に21ヵ所の研究所を持ち、世界中に生産農場を構えるグローバル企業になったわけ。
助手 13ヵ国で研究って非効率なんでは? 集約すればいいのに。
坂本 いや。それが競争力の源泉ですよ。例えば、北半球と南半球の気候条件を相互に活用すれば、効率的に育種や生産が可能になる。
助手 実際、気候変動に対応した種苗は開発できてるんですか?
坂本 高温期でも結実するトマトなどを開発しているし、ブロッコリーやキャベツは耐暑性が評価されて昨年の業績を押し上げました。気候変動に対応できる苗は高値でも売れるから、同社は長期で収益性の向上を期待できると思います。じっくり取り組める銘柄ですよ。
今週の実験結果
自動車メーカーよりも自動車部品メーカーのほうが今回の恩恵は大きそうです!

構成/西田哲郎 撮影/榊 智朗