ネットフリックス「150億円で独占配信」決定に列島激震! 見...の画像はこちら >>

故障などのアクシデントがなければ大谷は第6回大会にも出場する見込み

王 貞治代表監督が自らイチローを口説き、初代王者に輝いた2006年の第1回大会から、大谷vsトラウトで幕を閉じた23年の第5回大会まで、WBCは日本にとって"国民的行事"であり続けた。その大会の放送権を、ついに地上波テレビが喪失。

水面下で何が起きていたのだろうか?

* * *

■読売側にも言い分はある。でも、もう......

【(WBCの運営会社である)WBCIが当社を通さずに直接ネットフリックスに対し、(読売新聞社が主催する)東京プールを含む全試合について、日本国内での放送・配信権を付与しました】

米動画配信大手ネットフリックスが、来年3月に開催される第6回WBCの日本国内における独占放送権を獲得したことについて、読売新聞社が発表したコメントだ。

野球の国際大会取材経験が豊富な某新聞社の運動部記者はこう語る。

「相当頭に来ている感じですね。読売は『MLB(メジャーリーグ機構)に裏切られた』という思いでしょう」

150億円といわれる巨額契約、そして「地上波中継なし」という事態は、野球ファンのみならずメディア業界にも大きな波紋を呼んだ。

状況を整理しておこう。第6回WBCは、準々決勝までを4都市で行なわれる各プールで消化し、準決勝・決勝は米マイアミで開催される。読売は東京プールの主催者であり、運営・興行の権利者。その中には中継局選定の権利もあるはずだった。

「そのため、特定のメディアから大会全体の主催者であるMLB側に対して放送権に関する打診があれば、窓口として読売に回すのが筋であり、少なくとも情報提供があってしかるべき―読売はそう考えていた。

ところが今回は、いわば〝上位権者〟であるMLBとネットフリックスが、頭越しに独占契約を結んでしまったわけです」

ネットフリックス「150億円で独占配信」決定に列島激震! 見通しが"大甘"だった読売新聞、打つ手なしの民放テレビ......WBC「地上波消滅」は必然だった!!
ネットフリックスによる独占配信が発表された8月26日、MLB JapanのXアカウントが投稿した画像。NHKも速報として報じた

ネットフリックスによる独占配信が発表された8月26日、MLB JapanのXアカウントが投稿した画像。NHKも速報として報じた

日本はWBCが立ち上がった当初から、イチローをはじめメジャーリーガーも精力的に招聘し、大会の価値向上に貢献してきた。

前回の23年大会では大谷翔平の活躍もあり、日本戦7試合の視聴率がいずれも40%超。まさに〝国民的行事〟となっていた。

「今年に入り、読売とMLBとの交渉は滞っていました。過去の貢献と実績から、最後にはなんとかなると読売側は考えていたでしょうが、その見通しは〝大甘〟だった。MLB側はあくまでもスポーツビジネスとしての拡大を狙っていたのです」

某民放局のスポーツ部門で国際大会の中継を手がけるプロデューサーはこう話す。

「MLBとネットフリックスが交渉に動いているという話は、去年から流れていました。東京で開催されたMLB開幕戦興行が大成功を収め、日本でのWBC中継にもさらなる〝うまみ〟を感じて、MLBが本腰を入れたようです」

なお、19年の第4回大会の放送権料は10億円、23年の第5回大会は30億円程度だったといわれる。

「23年は30億円をテレビ朝日とTBSが折半しましたが、今の民放局にとってはこれが精いっぱい。収益に関しても『なんとか黒字で終われた』というのが実情です。今回の150億円というのはオリンピックレベルの金額で、正直、手も足も出ませんよ」

■ネットフリックスと交渉の余地はあるか?

暴騰の背景には、もちろん大谷翔平という大スターの存在もあるが、国際的なスポーツコンテンツの放送権の高騰は野球に限った話ではない。

「大型スポーツコンテンツの放送権料は、もはや日本の民放局にとって〝手が届かないもの〟になりつつあります。サッカーのW杯しかり、ボクシング井上尚弥戦しかり。

ゴルフの全英オープンも、すでにテレビ朝日が撤退してU-NEXTが中継していますし、世界卓球を放送しているテレビ東京も、U-NEXTに日本人選手の試合を〝切り売り〟することでなんとか賄っています」

ちなみに、オリンピックに関しては現状、NHKと民放各社が資金を拠出して立ち上げた「ジャパンコンソーシアム」という組織が放送権を獲得し、競技種目を各局に配分している。NHKが全体の約半分に当たる70億円程度を負担し、残りを民放各社で負担するという座組みだ。

そのオリンピック並みに放送権料が高騰した今回のWBC。もちろんネットフリックス(現在は「広告つきスタンダードプラン」で月額890円)に加入すれば問題なく見られるのだが、「地上波なし」の影響を危惧する声もある。前出の某紙運動部記者が言う。

「視聴機器や時間の選択肢が広がる有料配信は確かに便利です。ただし、お金を払ってまで見ようという視聴者層は、どう考えても従来よりも〝マニア寄り〟になっていく。大会中もスポーツバーなどでは盛り上がるでしょうが、あくまで局所的になる。老若男女がリアルタイムで試合内容を共有し、メディアの壁を越えて盛り上がる形が失われるのは、やはり野球界にとって怖い面もあります」

なお、読売新聞社からは【今後も東京プールの主催者として、多くの方々に本大会を楽しんでいただけるよう引き続き努めてまいります】、NPB(日本プロ野球機構)側からも【できるだけ多くの方に見てもらいたい。一番いいのは地上波ですが、できないのならばネットの無料配信】といったコメントが出ている。日本戦だけでも〝切り売り〟してもらえるよう交渉するつもりだ、という意思表示にも受け取れるが......。

前出の民放キー局プロデューサーはこう語る。

「ネットフリックスは〝全試合独占中継〟をうたっていますが、この〝独占〟というのは極めて訴求力のあるワード。まして大谷がいる日本戦はキラーコンテンツです。そう簡単に応じるとは思えません」

これまでドラマや映画をウリにしてきたネットフリックスは、日本での会員数が約1000万人とみられているが、一方で新規加入が頭打ちとの指摘もある。そこで新たなブースト策として、WBCの独占配信に150億円の投資価値を見込んだわけだ。

「ネットフリックスは『ニュース映像は提供する』としています。つまり中継はさせない、でもニュースでは取り上げていい、と。要は宣伝してほしいわけです。

そうでなくとも、おそらく大会直前には加入者が急増するでしょう。結局、われわれ日本メディアにとってもWBC関連の話題はキラーコンテンツで、大会前から大いに取り上げるでしょうから......」

ビジネスの交渉では望み薄。もう大谷さんに「地上波でやってほしい」と言ってもらうくらいしか手はない......?

取材・文/木村公一 写真/時事通信社

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