2016年に発生した熊本地震では、19万棟以上の住宅が被害に遭った
先日、ロシア・カムチャツカ半島沖で大きな地震が発生した。南海トラフ地震も迫っているという。
* * *
■人口100万人超都市の地下に活断層がある!
7月30日に発生したカムチャツカ半島沖地震(M8.8)は、太平洋プレートと北米プレートの境界で起こった海溝型地震だった。
また、今後30年以内の発生確率が80%程度といわれている南海トラフ地震(M9クラス)も、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で起こる海溝型地震だ。
海溝型地震は規模が大きく揺れが広範囲に及ぶ傾向がある。また、海域で発生するため、震源が遠くても津波による被害が出ることがある。
一方で、昨年発生した能登半島地震(M7.6)などの活断層地震(内陸直下型地震)は、人々が生活している内陸が震源となるので、規模が小さくても大きな被害につながる可能性がある。それが大都市の直下で起こればなおさらだ。
政府の地震調査研究推進本部(以下、地震本部)が今年1月に公表した、発生確率の高い「Sランク」と「Aランク」の活断層には大都市を通るものも多い。
そのひとつが、大阪府の「上町断層帯」だ。京都大学防災研究所の西村卓也教授が解説する。
「上町断層帯は大阪府豊中市から大阪市の中心部を通り、岸和田市に至る南北約42kmの断層帯です。
大阪の地理に詳しい方はわかると思いますが、大阪城の周辺は少し高くなっていて、それより海側(西)の淀屋橋駅や大阪(梅田)駅周辺はちょっと低いんです。その間が坂になっていますが、そこが断層だといわれています。本当に大阪のど真ん中を通っているので、上町断層帯で地震が起こると大きな被害につながるでしょう。
ただ、最近の研究では上町断層帯は、これまで考えられていた時期よりも新しい時期に地震が発生したという報告もありますので、断層評価も今後、見直されるかもしれません。
また、上町断層帯の近くには、もうひとつ『大阪湾断層帯』があります。これは神戸市沿岸から、大阪湾南部に至る約39kmの断層帯です。
名前は大阪ですが、どちらかというと神戸に近く、一部はポートアイランドなどの埋め立て地の真下まで続いています。ですから、ここで地震が起こると神戸に大きな被害が及びます。
断層評価はZランク(今後30年以内の発生確率が0.1%未満)と低いのですが、海底にある断層なので、まだまだ未知の部分が多いです」
大阪市の人口は約280万人だ。地震本部によれば、上町断層帯はM7.5程度の地震が発生すると推定されている。また、神戸市の人口は約148万人。大阪湾断層帯もM7.5程度の地震が発生すると推定されている。
これは能登半島地震と同程度の規模だ。大阪や神戸などの下には、危険な活断層があることを忘れないでほしい。
そして、九州にも危険な活断層帯がある。
「福岡県には『警固断層帯』があります。玄界灘から博多湾を経て、福岡市内や太宰府市を通り、筑紫野市に至る約55kmの断層帯です。
2005年に『福岡県西方沖地震』(M7)が発生していますが、この地震は警固断層帯の北半分で起こったといわれているんです。ですから、まだ南半分が割れ残っていて、南側で地震の発生する可能性が高いと考えられている断層です」
福岡市の人口は約167万人だ。警固断層帯南東部はSランクで、M7.2程度の地震が発生すると推定されている。九州にはもうひとつ心配される断層帯がある。それが熊本県の「日奈久断層帯」(Sランク)だ。
「上益城郡益城町木山付近から、八代海南部に至る約81kmに及ぶ断層帯です。16年の熊本地震(M7.3)で、日奈久断層帯の北側の一部がずれたと思われていて、警固断層帯と同じように南側の3分の2がまだ割れ残っていると思われています。
また、断層帯としては約81kmと長いので、これが動いてしまうとかなり大きな地震を起こすのではないかと心配されています」


福岡市の天神駅のそばには「警固神社」がある。警固神社には市民を災いから守ってくれる神様が祭られている
熊本市の人口は約73万人だ。日奈久断層帯の南側3分の2は最大M8.0程度の地震が発生すると推定されている。
福岡や熊本の方は、地震の備えを忘れないでほしい。
■活断層があることを知らない市民は多い!
東北最大の都市である仙台市にも危険な活断層がある。宮城県利府町から仙台市内を抜けて、柴田郡村田町に至る長さ約21~40kmの「長町-利府線断層帯」(Aランク)だ。
東北大学の遠田晋次教授が解説する。

東京方面から仙台に新幹線で向かうと左手に見えてくるのが「大年寺山」。地震によって隆起した山だ
「長町-利府線断層帯は仙台市の真下を通っている断層帯です。JR仙台駅から東に20分くらい歩いていくと、野球場の『楽天モバイルパーク宮城』に着きます。途中までは平坦なんですが、最後の球場の入り口に向かうところが下り坂になっています。実は、そこが断層です。
また、新幹線で東京から仙台へ向かうときに、仙台駅に近づくと左手に見える、鉄塔が3本立っている大年寺山という小さな山があります。これは、かつての活断層地震で隆起した山です。
そして、この大年時山を隆起させた断層の延長線上には楽天の球場があります。ですから、本当に仙台市の真ん中を通っている断層帯です。
この断層帯の長さは、21kmから40kmといわれていて、明確にはわかっていません。仮に40kmの断層帯が動くとするとM7.5くらいになるので、数字上は能登半島地震と同じくらいの規模になります。それより小さかったとしても熊本地震と同程度の地震が起きる可能性があります。
長町-利府線断層帯は3000~4000年間隔で地震が発生していると推定されるのですが、仙台は都市化が進んでいて正確な調査ができないんです。
ですから、最後に地震が起きたのが4万年前と古い時期かもしれませんし、最近のことかもしれません。実際はよくわかっていないんです。
宮城県は1978年に宮城県沖地震(M7.4)がありましたし、2011年の東日本大震災(M9)でも大きな被害を受けているので、耐震化率はかなり進んでいます。
しかし、宮城県が公表した被害想定ではM7.5、最大震度7で、死者が約1100人という結果が出ています。
実は、仙台市に住んでいる人でも、市内のど真ん中に活断層帯があるということを知らない人は多いと思います」
仙台市の人口は約109万人。仙台で暮らしている人は、この機会にさらに防災意識を高めてほしい。
遠田教授は他県にも都市部で危険な活断層があると指摘する。そのひとつが東海地方の「養老-桑名-四日市断層帯」(Aランク)だ。
「養老-桑名-四日市断層帯は、岐阜県垂井町から三重県桑名市を経て、四日市市に至る長さ約60kmの断層帯です。
この断層帯は濃尾平野(岐阜県、愛知県、三重県に広がる平野)の西側にあります。濃尾平野は木曽川や長良川などから流れてきた土砂などによって形成されたとても軟らかい地盤です。ですから、この断層帯が動くととても大きな揺れになるはずです。当然、近くにある名古屋市にも大きな影響を及ぼすでしょう」
名古屋市の人口は約233万人だ。養老-桑名-四日市断層帯では、M8程度の地震が発生すると推定されている。
もうひとつが甲信地方の「糸魚川-静岡構造線断層帯」(S~Aランク)。
「糸魚川-静岡構造線断層帯は、長野県北部から山梨県南部にかけて延びる約158kmのとても長い断層帯です。長野県の白馬村や松本市、山梨県韮崎市などを通っています。
この断層帯の調査はかなり進んでいて、北部、中北部、中南部、南部と4つの区分に分かれていますが、最後に活動したのは、新しいもので約800年前(中北部)、古いもので約2500年前(南部)と、かなりの年月がたっています。ですから多くの活断層研究者が、地震が起こる可能性が非常に高い場所だと指摘しています」
松本市の人口は約23万人。韮崎市は約2万7000人。糸魚川-静岡構造線断層帯は、4つの区分でそれぞれM7.4~7.7程度の地震が発生すると推定されている。
さらに、関東平野の西にある「立川断層帯」(Aランク)。
「立川断層帯は、埼玉県入間郡から東京都青梅市、立川市を通って府中市に至る長さ約33㎞の断層帯です。関東の場合、特に都市部は火山灰層や厚い堆積層(土砂などが水などで流されてたまっている層)に埋もれているので、地下の様子がわからないんです。ですから、まだ知られていない活断層があるかもしれません」
青梅市の人口は約13万人、立川市は約18万人。立川断層帯では、M7.4程度の地震が発生すると推定されている。
最後に前出の西村教授が、地震本部のランキングとは別に独自のGPSによる歪みの調査から、伊豆半島の地震を警告する。
「伊豆半島は日本でも特に歪みがたまりやすい場所で『石廊崎断層』や『伊東沖断層』(共にXランク)など多くの断層があります。Xランクの断層は、データが不足しているため、今後30年以内の地震発生確率が不明です。今後、詳しい調査が必要です」
石廊崎断層は、伊豆半島南端部を東西に横切る約8kmの断層ですが、地下の部分を含めると約20kmの長さになり、M7程度の地震が発生すると推定されている。
また、伊東沖断層は、静岡県伊東市の沖合に南北方向に延びる長さ約13kmの断層帯で、M6.7の地震が発生すると推定されている。
「伊豆半島は、昔は島だったといわれています。南のほうからフィリピン海プレートに乗って島がやって来て、日本列島にぶつかって半島になりました。今でもプレートの衝突は続いていますから、地殻変動が活発で、地震が非常に多い場所です」

最近は日本でも大きな地震が多い。今年に入ってからは、鹿児島県のトカラ列島で震度6弱の地震が発生した。また、日向灘(宮崎県)や会津(福島県)、長野県北部でも震度5弱の地震を観測している。
注意すべき地震は南海トラフ地震だけではない。あなたの住む街のそばにも、大きな地震を起こす活断層があるかもしれないのだ。ぜひ、大地震への備えをしてほしい。
取材・文・撮影/村上隆保