日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。70年代の傑作映画の裏側で何があったのか?社会に問いかける問題作!* * *『タンゴの後で』
評点:★2.5点(5点満点)
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2024 © LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S'IL VOUS PLAIT / FIN AOUT
再現ドラマが現実を矮小化するとき

役者から「本物の」感情、「素の」反応を引き出すため、という名目で、たとえば予告なしに血糊をぶっかけるだとか(『エイリアン』)、暴れる鳥を何羽も女優に投げつけるとか(『鳥』)、撮影中に銃をぶっ放してびっくりさせたり、監督がいきなり出演者にビンタを食らわせたり(どちらも『エクソシスト』)というようなことは、映画史を通じて繰り返されてきた。

演技と現実の差、というのは実はかなり複雑な問題で、歩く芝居、座る芝居と実際に歩き、座ることの差を厳密に示すことは難しかったりもするのだが、しかし、本人の意思におかまいなく「本物の」強い情動や反応を「引き出す」ようなことは当然ながら虐待行為と見なされ得る。

中でもベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の現場で20歳になったばかりのマリア・シュナイダーに対して行われた行為は特に悪名高い。

本作は若きマリアの視点を通してそのことのおぞましさと、被害者をさらにスティグマタイズする世間の無神経さを描くものだが、ことのあらましを再現したドラマ以上のものを提示できていない。

劇映画にする都合上仕方がないのかもしれないが、単純化は矮小化にも繋がるのだ。

STORY:19歳のマリアは気鋭の若手監督ベルナルドと出会い、『ラストタンゴ・イン・パリ』に出演したことでトップスターに駆け上がる。しかし48歳のマーロン・ブランドとの過激な性描写シーンの撮影は彼女の人生に大きな影を落としていく


監督・脚本:ジェシカ・パルー
出演:アナマリア・ヴァルトロメイほか
上映時間:102分

全国公開中

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