【#佐藤優のシン世界地図探索126】「獣時代」の戦争の終わら...の画像はこちら >>

カワウソは、お互いに牙を見せ合って、争いを避ける。一方、人類は......(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――トランプにしてみればウクライナ戦争は「バイデンの不良債権」だという佐藤さんの評価に感動しました。トランプはNYの不動産屋。要するに、ヤクザが債権を握っている土地。手を出したらまずいと。

佐藤 そうです。だから、トランプはマイナスのミニマム化です。下手に介入してもプラスにならず、あくまで最小のマイナスで済ますことが大事だということです。

――ウクライナに提供した武器は、NATOに代金を支払わせる。トランプは一貫して、きちんとした商人。ヤクザが利権を握る塩漬けの土地には手を出さない。

佐藤 変なのが入居してしまっていますからね。

――そこに渡すミサイルという武器に関しても、総本部・モスクワに届くのものは売らないということを徹底しています。

佐藤 ウクライナは間が抜けているんですよ。「モスクワに攻める気は毛頭ありません。うちらは防衛一本でやっとります」と言っておけば、獲れるものは獲れるんです。

――いまロシア軍は、一晩で数百の無人機を使って空爆しています。

佐藤 ウクライナのロシアに対する敵対心は強くなっています。しかし、これで戦争が中途半端に終わると、ウクライナはアメリカも嫌いになるでしょうね。

――ロシアと欧州に挟まれた場所に国がありますからね。

佐藤 でも、こんな戦争をしたらいけないんですよ。本当にゼレンスキー大統領は、東条英機の雰囲気になっています。戦争継続を固持して、降伏もできずに追い詰められているように感じます。

――確かに、ゼレンスキー大統領と東条さんは重なりますね。ゼレンスキーはアメリカにトマホークを要求していますが、もし供与されてロシアに撃ち込まれたら「ロシアは『やられたら必ずやり返す』というルールでアメリカに対抗する」と。

これ、ゼレンスキーはわかっているんですかね?

佐藤 わかってないと思いますよ。

――このウクライナ戦争はヤクザの仁義から考えると、力の均衡点までやらせて手打ち、ですか?

佐藤 そうですが、その均衡点を決めるのはウクライナではなく、ヨーロッパです。

――アメリカは武器を渡すが、金はNATOが支払うようになりましたからね。

佐藤 その支援しているヨーロッバ、特にドイツがどこまで本気か、ですね。

――独仏英には金はないです。

佐藤 金もないし、内政も不安定です。しかも、ドイツはウクライナ支援に関して「ドイツのための選択肢」と「左翼党」、さらに国民はやる気ありません。

――これは手打ちは早いですか?

佐藤 今年の冬は越えられないんじゃないですか。もし冬を越えられるとすれば、国民によるゼレンスキー政権の打倒、というシナリオかもしれません。

それに、ウクライナに若い国民はいますが、みんな家の中に隠れています。彼らに十分な訓練ができると思いますか?

――できないと思います。ウクライナ戦争はヤクザの代理戦争で読み解けますが、普通の戦争はどうやったら終わるのですか?

佐藤 以前、キューバ危機とタコの戦いが似ていると分析したグレゴリー・ベイトソンのについて触れましたが、それです。

(参照:【#佐藤優のシン世界地図探索122】「動物園の飼育係」と「サーカスの猛獣使い」の使い分け)

タコの争いは、お互いにグッと組み合って、相手を絞め殺せる直前まで持っていきます。そして一度離れると再び組み合い、弱いタコが逃げます。

――「あなたより弱いです、理解していますよ」と示して、逃げるわけですね。戦いを避けてますね。

佐藤 キューバ危機も、ソ連がキューバに核ミサイルを置いて、その後、米軍がすべての船舶を臨検して戦争直前になりました。しかし、ソ連はキューバから核ミサイルを撤去して、アメリカから離れます。これとそっくりなので、キューバ危機はタコの戦いだとなったわけです。

――確かに、米ソは二匹のタコになっています。

佐藤 それから、カワウソはすれ違う時にお互いに牙を見せて「シャー!」と威嚇します。その牙で噛みついたら、どれくらい怖いかを見せて理解させるんですね。そして、お互いの安全を確保します。

当時の米ソは核ミサイルを撃ち合えば、両国とも確実に破壊されて滅亡する状況でした。

そんな相互確証破壊を認識して、核戦争を避けたのです。

以前も言いましたが、言葉が信じられない国家間の行動は動物に近くなるというのが、ベイトソンの定義です。だから米露も、イスラエル・イランも、言葉が信用できないから動物の喧嘩に近くなってくるということです。

――話は変わりますが、佐藤さんがハンガリーについて語っている記事を読みました。そこで『情報をできる限り集めて、リアルに現実を捉えつつ、強さと柔らかさを併せて押し引きで相手と向き合う』と、小国の生き残り方を話していました。これ、日本に必要ですね。

佐藤 ハンガリーにはハンガリー動乱という過去があります。

――1956年にソ連からの脱却と民主化を求めてハンガリー国民が蜂起。ソ連軍が介入したため3000人が死に、20万人が国外に逃れました。

佐藤 ハンガリーは絶対に勝てないにもかかわらず、ソ連相手にあれだけの戦いをやりました。

――それ以降、ソ連はハンガリーをある程度リスペクトするようになった。

佐藤 そのハンガリーと同じように、日本は太平洋戦争末期であそこまで戦いました。

だから、追い詰めると何をするかわからない国だ、とアメリカもロシアもわかっています。

――弱くても強いタコに神風特攻はするし、万歳突撃で玉砕する。最後に核兵器をアメリカに叩き込まれた、と。

佐藤 だからなぜ、いまの世界の戦争がやくざ映画、もしくは動物の喧嘩なのかというと、そこにリングはなく、むき出しの力と力がぶつかり合う戦いだからです。

そこに完全な仲裁はありません。だから、これ以上やれば互いに痛いことになるので、そこで手打ちとなるわけです。獣が速やかに退避するのと変わりません。

――人と獣、どちらが賢いのでしょうか......。

佐藤 どちらでしょうかね、動物と同じことをしていますからね......。ちなみにゴリラは喧嘩をしないそうです。喧嘩しようとすると、必ず別のゴリラが仲裁に入ります。しかし、ニホンザルは本気で喧嘩するそうです。

なぜだと思いますか?

――ゴリラは本気で喧嘩すると死ぬからですか?

佐藤 そうです。だから、仲裁が入ります。動物でも賢い種はいるんですよ。

――人間社会では米露の他に、もう一匹ゴリラが必要であります。それが国連ではないことは明らかですが、そのゴリラとは中国になるのですか?

佐藤 中国の可能性が高いです。

――恐ろしい世の中になって来ましたが、以前の話にも出てきた『君主論』は素晴らしいですね。マキャベリは15世紀の人なのに、現在の21世紀のことを深く理解しています。以前、佐藤さんが引用された言葉、「加害行為は一気にやってしまわないといけない」「愛されるよりも、恐れられるほうがはるかに安全である」はまさに今の世界を表しています。

この人は王様との付き合いが深いから、これだけわかっているのでしょうか?

佐藤 マキャベリ自身は外交官として戦争に敗れた人ですからね。敗けたから、勝つ人のことをよく見ていたんですよ。

次回へ続く。次回の配信は2025年9月19日(金)予定です。

取材・文/小峯隆生

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