バイクや軽自動車の配達員があまり近寄らない「自転車配達員のサンクチュアリ」を紹介します
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第119回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
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自転車で配達をしている私が言うのもなんですが、ウーバーイーツ配達で稼ぐのであれば、自転車ではなくバイクを使って配達するのがベストです。以前「収入差は2倍以上! 自転車より稼げるバイク配達員の実態は?」でも触れた通り、私がよく配達する東京都心部のエリアでは、自転車のおよそ2倍の稼ぎがあります。
私は医師に運動しろと言われており、運動不足の解消とライターとしての仕事が少ない時期の生活資金稼ぎを兼ねて自転車で配達しているので、バイクに切り替えてガッツリ稼ごうという気はありません。ですが、雑誌の合併号やウェブサイトのお盆や正月休みによる更新休止などの期間が重なり、書く仕事がグッと減る時期は配達でガッツリ稼がなければなりません。
そんな時に行くのが自転車配達員に有利な場所、バイクや軽自動車の配達員があまり近寄らない「自転車配達員のサンクチュアリ」です。
世田谷区や杉並区の住宅地にあるのが「一方通行サンクチュアリ」。
道が縦横に通っていない上、あらゆるところで道路が一方通行のこの地域は、入る道を一本間違えるだけで目的地から遠く離れた場所へと飛ばされてしまう、初心者のバイク配達員にとっては配達がきつい場所。ですが、ほとんどの一方通行の道は「自転車を除く」と書かれており、自転車は逆走可能。そのため配達先まで最短距離で運ぶことができ、道に迷うこともありません。
ただ、このエリアは注文数が多いため、周囲の一方通行の情報を熟知している配達員が多く、また、世田谷区の住宅地は坂道も多いので、自転車配達員の優位性は「少しだけある」という感じです。
歌舞伎町や大手町など、都心の繁華街、オフィス街にあるのが「駐車禁止サンクチュアリ」。
このエリアは自動車だけでなく、歩道や車道の脇に停めたバイクも駐車監視員が取り締まるケースが多いところ。ランチやディナータイムの混雑する時間帯に店へ料理を受け取りに行くと、まだできあがっていないこともしばしばです。
でも、私が使っているドコモバイクシェアは歌舞伎町、大手町ともに自転車の貸出、返却のターミナルがあるので、駐輪禁止の地域でもそこに自転車を置いて、一旦返却の手続きを行なえば違反にはなりません。
そんなわけで、私のようなレンタル自転車を使う配達員にとっては優位性のある場所ですが、おいしい思いができるのはランチタイムだけ。オフィス街で働く人がターゲットの大手町の飲食店街は20時前には店じまい。歌舞伎町も夜になると駐車監視員の姿がほぼ見られなくなるので、バイク配達員がたくさんやってきます。
時間限定で現れるのが「タワーマンションサンクチュアリ」。
「ゲットしないと収入的に厳しい手当。ウーバーイーツ配達の『クエスト』の変遷」でも書いたように、配達員は一定の期間内に所定の回数を配達するともらえるクエストと呼ばれる手当があります。これをもらえるかどうかで、配達員によっては万単位の収入差が出るので、所定の回数の達成を目標に配達を行ないます。
自転車配達員の場合、バイクと比べて運ぶ距離の短い依頼が優先的に回される傾向があるので、注文が殺到する時間帯は普通に配達していても1時間に4回ほどは配達することができます。ですが、バイク配達員の場合は距離の長い依頼が来ることが多いため、注文の多い時間でも配達回数は1時間に2回ほどとなります。
距離の長い配達の方が1回あたりの配達単価は高い傾向にあるので、自転車配達員よりバイク配達員の方が稼げますが、クエスト手当は「配達回数」の縛りがあるので、自転車配達員の方がクエスト手当を手にしやすい環境となります。
タワーマンションは、高層階であればあるほどマンションに入ってから商品を届けて、元の場所に戻ってくるまで時間がかかるもの。場所によっては15分ほどかかるところもあります。
自転車と比べて1時間あたりの配達回数が少ないバイク配達員にとって、このタワーマンション内での15分は、クエスト達成の大きな障壁となります。そのためタワーマンションが多く立ち並ぶ地域はバイク配達員が近寄らなくなります。
ただ、この現象が起こるのはクエストの期限が近づいた時だけ。常に発生するサンクチュアリではないのが私にとっては残念なところです。
常に自転車配達員のサンクチュアリとなっているのが「東京都荒川区」。
下町の面影を色濃く残す荒川区は、一方通行の道はもちろん、クルマでは通れないような狭い道があちらこちらにあります。さらに、バイクを手で押さなければ通れない路地も多いので、バイク配達員が敬遠しがちなところです。
その上、南千住のエリアにはタワーマンションがあり、タワーマンションの並ぶ駅の東側と飲食店の多い駅の西側を行き来する場合、自転車なら駅の脇の通路を手押しで通れば大丈夫ですが、バイクは道路を大きく迂回する必要があります。迂回が多い上、行き先が入ってから出てくるまで時間のかかるタワーマンションとなれば、クエスト手当達成を最優先とするバイク配達員は近寄りません。さらに、平坦な土地なので、自転車を漕いでいても負担になりません。
そんなわけで、飲食店が多い荒川区の南千住、三ノ輪、町屋あたりは自転車配達員が優位となる条件が重なった、都内随一の自転車サンクチュアリとなっています。ちなみに私は、このサンクチュアリを南千住、三ノ輪、町屋の頭文字をとって「荒川3M」と呼んでいます。
自転車配達員がガッポリ稼ぐのに最適のエリアですが、私が使っているドコモバイクシェアの自転車は荒川区に貸出、返却のターミナルが設置されていないので、ダイチャリなど他社の自転車を借りて配達。レンタル料がいつもの自転車より高額なので、10時間以上連続で配達する時だけこのサンクチュアリを訪れています。
文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明