世界バレーで予選敗退となった日本男子。キャプテンの石川をはじめ、中心選手に対する各国のマークが厳しく後手に回った
フィリピンのマニラで開催されたバレーボール世界選手権(世界バレー)男子で、日本代表は一敗地にまみれた。
世界ランキング5位(大会開幕前時点)の日本は、同16位トルコ、同11位カナダにセットカウント0-3のストレートで連敗。同75位リビアに勝利して意地を見せるも、あっけなく予選ラウンド敗退が決まった。
東京五輪前後から右肩上がりで、国際大会では予選ラウンド敗退がなく、ベスト8以上が通例だっただけに失意の結果だった。
ただ、大会前から不穏な気配は漂っていた。世界バレー壮行試合のブルガリア、イタリア戦はコンディション面で調整中の相手にもたつき、競り負けるシーンも多かった。
「このチームはまだ強くない」
キャプテンで、エースである石川祐希は警鐘を鳴らしていた。現地取材で見えた〝失意のマニラ〟の真相とは――。
マニラの会場は、赤いユニフォームを着たファンによる日本の応援一色だった。石川、髙橋 藍を中心にしたバレーは、海を越えても人々を魅了していた。選手たちのアイドル顔負けの容姿もあるが、小柄ながら技術とコンビネーションで紙一重の戦いを制する姿が、東南アジアでも共感と憧れを呼んでいるのだ。
「『ハイキュー!!』の実写版みたい!」
フィリピン人の女性は言った。『ハイキュー!!』(集英社)は大人気バレーマンガだ。
日本のサーブのたびに、ファンは選手の名前を連呼していた。石川は大会で一番人気の選手で、髙橋、宮浦健人も人気だった。審判の判定を巡っても、フィリピンの人々は日本びいきだった。
「毎年、フィリピンで試合をやっているので。日本戦もたくさん応援に来てくれて、今日もホームのようでした」
ミドルブロッカーの小野寺太志もそう語っていた。
ミックスゾーンでは、選手たちが現地記者に英語で取材を受け、負けたチームとは思えない人だかりだった。SNS系配信者か、動画を回す人も多くいた。日本はどの国よりも集客力があったし、熱い声援を受け、優位だった。

会場のファンと記念撮影をする髙橋(中央)。日本への声援も大きかったが、勝利につなげることはできなかった
では、苦戦の正体はなんだったのか?
「『対策されているな』って感じます」
完敗だったトルコ戦後、石川はそう振り返っている。
「今日はブロックのつき方に関しても、『僕たちのことを見ているな』って思いました。自分たちが追われるチームになった展開。
石川、髙橋の両エースには常に2枚以上のブロックがつき、振り切れなかった。苦しい状態でスパイクを打っていた。高さのあるブロックに後手に回って、狙いすぎた一撃はアウトになった。
「間違いなく(ブロックディフェンスが)ストレスになっていました」
髙橋も、石川と同じ意見だった。
「それでも決め切ることができたり、リバウンドを取れたりもあったんですけど......。決め切れなかったポイントもあったので、それを得点につなげられないと厳しいですね」
トルコ戦後にそう語った髙橋は、次のカナダ戦でチーム最多得点を叩き出し、見事なリカバリーを見せた。しかし、チームとしては乗り切れなかった。
「今日のカナダ戦はトルコ戦よりは良かったですが、カナダもいいプレーをしました。われわれはこうした経験から学ばないといけない。今はチームを構築中で、ロサンゼルス五輪という長いゴールに向かっている途中です」
日本のロラン・ティリ監督はそう言って、長いスパンの始まりであることを強調した。確かに焦るべきではない。東京五輪でフランス代表を金メダルに導いた名将の言葉には重みもある。
ただ、相手もオリンピックに向けた1年目というのは同じ。ゆえにストレート負けの連敗は検証の余地がある。
日本は、単純な高さやパワーでの勝負になれば勝ち目はない。「サーブで攻め、ブロックを優位にし、しつこく拾い、何度でも攻撃を仕掛ける」というディテールの精度で上回って躍進を遂げてきた。
そこにズレが生じた原因はメンタルの問題か、個々の実力か、チームのコンビネーション不足なのか。ひとつ言えるのは、「ロス五輪に向けた1年目」という旗印はまっとうだったが、その意識で世界に挑んだ選手たちが〝受け〟に回っていなかったか、ということ。
日本は世界ランク5位にふさわしい実績を積み、人気も世界的に急上昇してきた。だが、コートでは「ボールを落としたほうが負け」という原則は変わらない。〝強者の受け身〟がつけ入る隙を与え、〝失意のマニラ〟につながったのではないか。

今年のチームは、宮浦(右)や永露元稀(左)ら代表での出場機会が多くなかった選手も多く、発展途上の部分もあるだろう
予選敗退が決定した後、髙橋はこう答えている。
「それぞれ考え方はあると思うんですが......自分は、そこ(次の五輪に向けた1年目だということ)は関係ないなって思っています。日本代表としての責任、覚悟は常に持っているべき。
今、男子バレーでは〝地殻変動〟が起きつつある。世界バレーでも、ランキング下位のチームが上位チームに勝つ例が多かった。トルコ、カナダ、ベルギー、ポルトガル、ブルガリアが次々に大番狂わせを演じた。
フィンランドが五輪王者フランスを下し、ベスト16に勝ち上がったことは最大の波乱だった。日本、フランス、ブラジル、ドイツという世界10位内の強豪がベスト16に進めず、姿を消した。
「イタリアやポーランドの強いリーグで結果を残した選手たちが各国の代表に戻って活躍し、強くなっているのを感じます。そうした選手が自信を持ってプレーしたとき、日本が勢いで負けてしまったり、逆にこちらの勢いが通用しなかったり......」
石川は言った。群雄割拠、もはや各国の差はない。そもそも、日本も下克上を成し遂げてきた。
「この経験をプラスに強くなれたら」
キャプテンの再起の言葉だ。
取材・文/小宮良之 写真/アフロ