都市部でも油断できないのが冠水被害。突然の豪雨でクルマは立ち往生
台風や豪雨が街を襲い、排水しきれない道路が次々と冠水。
「うちの愛車は大丈夫だよ!」。そんな油断が、命取りになるかもしれない。知って損なし! "水没カー"のアレコレを徹底解説する。
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■水没車は"再生"できるか?
9月12日夜、三重県四日市(よっかいち)市を記録的豪雨が襲い、市中心部の地下駐車場では274台もの車両が水没。ネット上では「水没車は修理できるのか?」という疑問が広がっている。
「屋根まで水に浸かった車は、基本的に"全損"です」
そう語るのは、自動車評論家の国沢光宏氏。仮に修理できたとしても、電気系統を中心に深刻なダメージを受けている可能性が高く、走行中に突然エンジンが停止するなど、予測不能なトラブルが起こりやすいという。
「スマホを水に落としたら壊れるのと同じ。現代のクルマはコンピューターチップだらけで水との相性は最悪です」

三重県四日市市の地下駐車場が豪雨で水没。クルマは屋根まで泥に覆われた
では、エンジンの高さまで水が達した場合はどうか?
「エンジンルームの部品は防水構造ですが、水没までは想定していません。浸水した状態でセルを回すと、内部が破損する可能性もあります」
さらに、水がバッテリーやエアクリーナーまで達していた場合は、絶対にエンジンをかけてはいけない。
「最善の対応は、販売店やJAF(日本自動車連盟)に連絡すること。すぐ来てもらえない場合は、バッテリーの端子を外すのが鉄則です。水没後も電気が流れているため、ショートすれば火災につながる危険性があります」
水没車が火災を起こす原因の多くは、12Vバッテリーの外部端子。水に浸かった直後は正常に見えても、外部端子にゴミや泥などが付着し、電気系統がショートして、やがて発火するケースもあるというから注意が必要だ。
自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏は、水没車の修理についてこう語る。
「修理方針は業者によって大きく異なる。ユーザーが明確な判断を下すのは難しい。ケースバイケースなので、複数の修理業者に相談すべきです」
■水害で保険は使えるのか?
修理を検討する際、保険の問題も避けて通れない。ネット上では「水没車に保険は使えるのか?」という声も。
「自賠責保険では補償されません。任意保険(車両保険)の加入率は5割を切っていますが、自然災害時の味方になるので、加入を推奨します」

新車販売店の関係者はそう語る。ただし、任意保険に加入していても、すべてのケースで補償が受けられるわけではないという。桃田氏はこう指摘する。
「任意保険のポイントは"特約"です。加入時に自然災害への補償内容を確認する必要があります。特約がついていても、災害の状況によって補償額が変わることもある。保険会社によって対応は異なり、契約内容次第で補償の可否が分かれます」
保険加入時には、販売店や代理店に「水害対応の特約の有無」を必ず確認すべし。見落とせば、いざというときに補償ゼロ――そんな事態もありえる。

ゲリラ豪雨や台風による水没被害が全国で相次ぐ今、「車両保険」の中身を知らずに契約していると、いざというときに補償ゼロ──そんな事態もありえる。水害補償の有無を左右するのは、補償範囲の種類と特約の有無。以下のポイントを押さえておこう!!
■水没車が中古市場に!?
水没して廃車となったクルマの行方について、中古車関係者はこう語る。
「ネット上には水没車の買い取り業者がすぐ見つかります。海外で修理されて再販されるケースもあります。盗難車ではないため、正規輸出も可能です」
桃田氏もこううなずく。
「水没車が安値で買い取られ、部品取り用として海外に輸出されるケースは少なくありません。特にアメリカでは、台風被害で水没した日本の高級車が、水没履歴を隠したまま流通した事例もあります」
一方、自動車誌で連載を持つ、関西出身の金髪ベテランカメラマン・山本佳吾氏は、過去の経験をこう振り返る。
「昔、名古屋で水没車が大量に出たことがあってな。ちょうどその頃、イタリアの希少車の"出物"の話が舞い込んできたんや。ただ、えらい安かったから、ワシも"これは怪しい"と勘が働いた。よくよく聞いたら、案の定、水没車やったっちゅうわけや。ほんま、うまい話には気をつけなあかんで!」
見た目は魅力的でも、実は水没歴あり――そんなクルマが日本市場に出回ることは珍しくない。特に希少車や高級車は、価格の安さに目を奪われがちだが、クルマの背景をしっかり確認することが重要なのだ。
■豪雨時の運転、どうすべきか?
豪雨時の道路には、見た目以上に危険が潜んでいる。冠水した場所では車が浮き、制御不能になることも。
山本氏はゲリラ豪雨に遭遇した際の実体験を語る。
「ワシの家の周りで、1時間に100㎜のゲリラ豪雨が降ったことがあってな。どうしても車で出かけなあかんかったんや。1ヵ所、くぼ地になってる所があるんやけど、前を走るタクシーがその冠水した場所に突っ込んだんや」
そのとき、山本氏は直感的に危険を察知し、タクシーとの車間を空けて停止した。
「そしたらそのタクシー、見る見るうちにトランクまで沈んでな。運転手とお客さんはなんとか脱出したけど、ほんまに危なかった。先を読む力っちゅうのは、こういうときにも役立つもんやで」
走るかどうかではなく"止まる勇気"が命を守る。
前出の桃田氏もこう語る。
「豪雨や台風はある程度予測可能です。車で移動する際は、災害リスクを事前に想定し、万が一に備えた行動が必要です。
どの程度の水深まで走行できるかは、最低地上高や駆動方式によって異なりますが、メーカーが明確な水深データを公表しているわけではなく、最終的にはユーザーの判断に委ねられています」
テレビCMやプロモーション映像で、水深のある場所を走行する様子が映されることもあるが、桃田氏は「それは商品PRに過ぎない」と一刀両断する。
「本格的なクロカン四駆であっても、過信は禁物です。車はタイヤが路面に接していることで走行できる乗り物。水深が深くなると車体が浮き、タイヤが空転すれば、その場で水没する危険性が高まります。豪雨時には"走れるかどうか"ではなくて、"走らない"という選択が命を守る」
最後に国沢氏が総括する。
「予想できない地震と違い、水害はハザードマップなどで事前に確認できます。
取材・文/週プレ自動車班 写真/時事通信社