高市首相の「21兆円経済対策」で物価高はさらに加速する!の画像はこちら >>

コメの価格高騰が続く中、重点支援地方交付金の推奨メニューのひとつに「おこめ券への活用」が挙げられている

高市首相がぶち上げた総額21.3兆円の総合経済政策。異例の規模感に期待してしまうが、中身をじっくり見ていくと......補正予算に盛り込むには不適切すぎる費目や、意外とショボい物価高対策。

何より、インフレがさらに加速するかもしれない!? 週プレはこのキナくさ~い政策を、疑って疑って疑って疑って疑ってまいります!

【いろんな政策を寄せ集めただけ】

高市早苗首相の「総合経済対策」が11月21日に閣議決定され、その資金の裏付けとなる2025年度補正予算案が12月8日に審議入りとなった。

何より注目すべきは、総合経済対策の21.3兆円、うち補正予算で18.3兆円という巨大な予算規模だ。コロナ禍の20~22年度を除けば、補正予算の規模は過去最大となる。

高市首相は11月の国会において、戦略的な財政出動による経済の底上げと成長力強化によって、財政健全化を実現する「責任ある積極財政」というスローガンを口にした。ところが、経済評論家の佐藤治彦氏は「支持を集めるためにいろんなものを寄せ集めて、数字をつくっただけ」と切って捨てる。

自民党はずっとデフレ脱却による経済活性化を目指してきて、日本経済が待ちに待ったインフレ転換を果たしつつあります。この流れの中で、経済対策の筆頭に小手先の物価高対策を並べるのは明らかにおかしい。

その上、急を要しない投資案件や防衛費の増額までも、審議期間の短い補正予算にわざわざ入れ込む意味がわかりません」

今回の経済対策は、国民生活を脅かす物価高対策に約11.7兆円を計上。公共料金の減免・補助や、おこめ券の配布などが想定されている。

これに加えて、先端技術の育成や食料・エネルギーの確保、災害復興・防災などを並べた「危機管理投資・成長投資」、防衛費と米国の関税への対応資金、自然災害やさらなる物価高に備えた予備費もメニュー化されている。

高市首相の「21兆円経済対策」で物価高はさらに加速する!

「物価高対策の中身を見ると、確実なのは電気・ガス料金の補助で0.5兆円、おこめ券や電子クーポン0.4兆円、児童手当の上乗せ0.4兆円を足して、約1.3兆円。

経済対策には含まれませんが、これにガソリンの暫定税率廃止と『年収の壁』引き上げの合計で約3兆円が加わる。

結局、われわれの財布に効くのは4兆円強に過ぎないんです」

高市首相の「21兆円経済対策」で物価高はさらに加速する!
現在、1L当たり25.1円かかっているガソリン税だが、12月31日に暫定税率が廃止されることが決定した

現在、1L当たり25.1円かかっているガソリン税だが、12月31日に暫定税率が廃止されることが決定した

【「責任ある積極財政」の本音】

同じく経済対策全体の意味合いについて、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、深刻な懸念を口にした。

「規模が大きすぎるということもありますが、今回の経済対策にはむしろ、財政再建目標をうやむやにする意図が込められているんじゃないかと思います」

どういうことか。熊野氏が続ける。

「そもそも、補正予算とは年度内に使い切るもの。与党のもくろみどおりに今月17日に成立したとしても、21.3兆円もの政策メニューを執行するには政府内での調整および民間企業との交渉、発注、事務手続きと、膨大な時間と手間がかかります。

当然使い切れるわけがない。つまり翌年に繰り越すのは前提で、来年以降も予算規模は膨らみます。つまり『責任ある積極財政』は建前で、本音は別にあると解釈するほかないんです」

このメッセージを受け取った金融市場は直ちに国債を売り、10年物国債の金利は1.98%まで上昇した。「18年ぶりの高金利で、かなりまずい展開です」と熊野氏。

「政府が財政再建をやめて国債残高をどんどん積み増していけば、世の中に出回るお金の量が激増します。結果、円の価値が下がって円安が進み、むしろインフレが厳しさを増していくことに。

これを先取りして、国債が売られて金利上昇が起こっているわけです。

これは企業の資金調達に支障を来すので、われわれの生活にも直結します」

高市首相の「21兆円経済対策」で物価高はさらに加速する!
財政悪化の懸念が広がり、10年物国債の金利は2%目前まで急上昇。18年ぶりの高水準となった

財政悪化の懸念が広がり、10年物国債の金利は2%目前まで急上昇。18年ぶりの高水準となった

そのメカニズムはこうだ。企業が設備投資などの大規模な支出を行なう場合は、債券の発行や銀行からの借り入れによってその資金を賄い、長い年数をかけて返済していく。

このとき、債券や借り入れの金利は、10年物国債の金利に、貸出先の信用度を見ていくらかプラスするという形で決められる。つまり国債金利が上がると、企業は資金調達コストが上がり、投資の手控えにつながってしまうのだ。

「金利が上がらなければ行なわれた設備投資が立ち消えになってしまうことで、企業の生産力が成長しにくくなります。結果、物やサービスの不足で物価は上がりやすくなり、同時に企業収益は停滞するので、われわれの給料にも当然、影響するでしょう」

【本当にすべきだったことは?】

では本来、どのような経済対策が適切だったのか。まずは佐藤氏の意見から。

「何より必要なのは、賃金アップに尽きます。高市首相が自分の色を出したいあまりに、石破政権が掲げた『2020年代中に最低賃金1500円』という目標を撤回してしまった。ところが、これこそが本来、自民党が実現したかった経済の根本をなす政策だったはずなんです」

最低賃金を起点に賃金上昇を波及させ、消費を活性化させることによって、物価も緩やかに上がっていく。そして物価上昇は企業の売り上げアップにつながり、賃金アップを呼び込む。

政府が長年目指してきたこの好循環の実現を、高市政権は後回しにしようとしているというのだ。

「とはいえ賃金アップをそう簡単に実現できないのは確か。給料を決めるのはあくまでも企業です。ただし、実は事実上、政府が賃金を決めている労働者が日本には約1900万人ほどいます。この人たちの賃金を上げることで、国全体に賃金上昇を波及させることができるんですよ」

その内訳は、まず最低賃金に近い水準で働いている人が、約700万人。政府が最低賃金を上げれば、この人たちの給料は連動して上がる。加えて公務員や介護・医療関係者など、国が決めた制度で賃金が決まる労働者が約1200万人いて、この人たちの給料は、やる気になれば高市首相が決められると言っても過言ではないのだ。

政府が決められる賃金を触らず、投資ばかり大規模に行なう今回の経済対策は、生活者ではなく企業のほうを向いたものととらえざるをえないだろう。

「そしてもうひとつは、やっぱり円安を抑えること。21.3兆円などという大それた規模でなく、3兆円でいいので、税収の上振れ分を国債の残高削減に使ってほしい。

日本政府が財政再建に真面目に取り組む姿勢を世界中の投資家や金融機関に示せば、国債の売りが止まって金利は下がり、円安も止まって物価は下がります。日本は災害国家ですから、いざというときに国債を円滑に発行できるだけの余裕を持っておくべきなんです」

12月8日には北海道・三陸沖で地震が発生。

青森は震度6強の揺れに襲われた。佐藤氏の警告は、強く受け止められるべきだろう。熊野氏も、とにかく賃金上昇が必要という見解で一致した。

「物価高に減税や補助金で対策しても、翌年も物価上昇が続けば、効果は1年限りです。であればそのお金は持続的な賃金上昇のために使ったほうがいいわけで、その意味では今回の経済対策のうち、地方自治体への交付金の拡充を通じて『賃上げに向けた中小企業の稼ぐ力強化』や『最低賃金の引き上げ支援』の実現を目指しているのは、一定程度評価できます」

ただし、それ以外のメニューはどれも来年度の本予算で間に合うものばかりだと、熊野氏はあきれ顔を隠さない。

「危機管理投資や防衛費増額という国家の大計を、たった10日間の国会審議で決めてしまっていいのでしょうか。熟議を尽くした上で、必要なら来年度の本予算に盛り込めばいいでしょう。

財政再建は遠い未来に起こりえる危機への備えなので、つい後回しにしてしまいたくなるもの。とはいえ放置は禁物。国債の借り換えができなくなり、日々の株式売買の6割強を占める海外投資家が逃げ出してしまう未来は、決して荒唐無稽なシナリオではないんです」

補正予算は必要不可欠の家計支援にとどめた上で、財政再建の旗は降ろさない。その上で賃金上昇と成長力・防衛力強化は長期的に実現していく。これこそが「責任ある積極財政」だと、熊野氏は言う。

結局のところ、ポイントは賃金上昇に尽きるようだ。高支持率を背景に早期の衆議院解散もささやかれる今、賃金上昇に本気なのは誰か、見極めていくしかない!

取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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