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世はまさに業界の壁を越えた群雄割拠時代に突入!

かつてスーパー、コンビニ、ドラッグストアを隔てていた業態の壁が崩壊しつつある。地方ではドラッグストアが限界まで値下げした食品を武器に既存のスーパーを駆逐し、都市部では「コンビニキラー」の異名を持つ小型スーパーが急増。

生き残りをかけた大手同士の経営統合、最新ITを駆使した新興勢力の台頭により、市場はまさに「生活小売・三国志」とも呼ぶべき群雄割拠の時代に突入している。激変する身近な業界の最前線に迫る!

【地方で猛威を振るう「フード&ドラッグ」】

スーパー、コンビニ、ドラッグストアという小売業界の大手が業態の垣根を越えて熾烈な競争を繰り広げている。

流通アナリストの中井彰人(あきひと)氏がこう語る。

「この戦いは地方から始まりました。コスモス薬品(福岡)、クスリのアオキ(石川)、ゲンキー(福井)といった郊外で独自の成長を遂げてきたドラッグストア各社が『フード&ドラッグ』の戦略で成功を収め、地方のスーパーを駆逐し始めたのです。

彼らは惣菜などの食品を採算ラインギリギリの安値で販売し、客寄せの呼び水に使います。そうして来店した客に利益率の高い医薬品や化粧品を〝ついで買い〟させて収益を確保する。これは食品が主力のスーパーにはまねできない戦略であり、地方で猛威を振るっています」

しかも、フード&ドラッグは既存のドラッグストアからも売り上げを奪っているのだ。

「フード&ドラッグは損益分岐点の低さが強み。一般的なドラッグストアは売り上げ2億~3億円が損益分岐点なのに対し、フード&ドラッグは食品とドラッグの両方で利益を出せばいいため、医薬品や化粧品の売り上げが1億~2億円ほどでも採算が取れる。

食品をメインとして扱っていないドラッグストアは、このビジネスモデルに対抗するすべがなく、彼らの急成長を許してしまっているのです」

フード&ドラッグの躍進はすさまじく、その代表格であるコスモス薬品は売上高1兆円を突破。M&Aをほとんど行なわないにもかかわらず、ウエルシア、ツルハ、マツキヨココカラといった業界トップ企業と肩を並べる存在となる。

「このフード&ドラッグに対抗するため、昨年12月には売り上げにおいて業界1位のウエルシアが業界2位のツルハと経営統合しました。

ウエルシアはイオン傘下であり、実は以前からドラッグストアとスーパーを融合した『ウエルシアプラス』を展開しています。ツルハと経営統合することでフード&ドラッグ型の出店を加速させていくとみられています。

これは強国同士が組むことで新興国を潰そうとしている構図です。それほどフード&ドラッグは脅威なのです」

「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」、"生活小売"三つ巴の激闘最前線!
本来の計画より2年早めての経営統合となったツルハHDとウエルシアHD。同時にイオン傘下となることで食品事業や流通の強化を図る

本来の計画より2年早めての経営統合となったツルハHDとウエルシアHD。同時にイオン傘下となることで食品事業や流通の強化を図る

【都市部を席巻する小型スーパー】

地方でスーパーとドラッグストアが激しい戦いを繰り広げる一方、都市部ではスーパーとコンビニの競争が激化していきそうだ。

流通科学大学商学部教授の白鳥和生氏がこう話す。

「ここ数年、コンビニ業界は閉店ラッシュが続いていました。その代わりに伸びたのがイオン傘下の小型スーパー『まいばすけっと』です。イオンのプライベートブランドを活用した低価格とコンビニの利便性の両立で都市部の消費者から支持されてきました。

近年はコンビニ跡地へ積極的に出店しており、2011年にイオンより分社化されてから現在までで店舗数が約5倍(約1200店)に。30年までに2500店という目標も掲げています」

「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」、"生活小売"三つ巴の激闘最前線!
《スーパー》(2024年度業界売上額)16兆530億円【2023年比】+2.6%

《スーパー》(2024年度業界売上額)16兆530億円【2023年比】+2.6%

ただ、24年度にコンビニ業界は店舗数が3期ぶりのプラスに転じ、再び攻めの姿勢を取り戻しつつある。

業界最大手のセブン-イレブンは30年度までに1000店増を目指す中期戦略を発表。年間当たり200店舗というハイペースで出店を増やしていく見込みだ。しかし......。

「まいばすけっとのようなスーパーと違い、コンビニは基本的に〝安さ〟で勝負はできません。そのため、ローソンやファミリーマートは値段据え置きで量を増やす『増量キャンペーン』で対抗しました。

しかし、この戦略も限界はあります。また、出店を増やすことも簡単ではありません。都市部はコンビニ跡地にまいばすけっとが進出済みで空き物件が少なく、賃料も上がっているからです」

「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」、"生活小売"三つ巴の激闘最前線!
《コンビニ》(2024年度業界売上額)12兆8887億円【2023年比】+1.2%

《コンビニ》(2024年度業界売上額)12兆8887億円【2023年比】+1.2%

さらに近年は「トライアル」という新興勢力も台頭。福岡発祥のディスカウントストアで、独自の流通システムと最新ITの活用により運営コストを削減、圧倒的な低価格を実現して急成長を遂げてきた。

もともとは大型店を中心に展開していたが、22年頃から「トライアルGO」という24時間営業の小型スーパーの展開を実験的に開始。顔認証レジ、AIによる値下げ判断を取り入れた電子札棚など、デジタルをフル活用した店舗運営で話題となった。

トライアルは25年7月に西友を買収すると、同年11月には東京にトライアルGOを初出店。

生鮮食品や日用品のほか、西友で製造した惣菜を店舗に供給するセントラルキッチン型を採用することで、店舗の省スペース化を実現。

スーパーの強みを保ったままコンビニの利便性を備えるという意味で、まいばすけっとに続く、新たな〝コンビニキラー〟だと目されている。

【最も苦しいのは地方のスーパー】

もちろん、コンビニも静観しているわけではない。前出の中井氏がこう指摘する。

「すでにコンビニのマーケットは飽和しており、従来の品ぞろえでは成長に限界があります。店舗数を増やすなら、まいばすけっとやトライアルGOのように生鮮食品も扱う店舗を開発する必要がある。

実際、セブン-イレブンは24年2月に『SIPストア』という新業態の小型スーパーを千葉県松戸市にオープンしました。

イトーヨーカ堂の知見を生かした仕入れ力や商品開発力が強み......のはずでしたが、イトーヨーカ堂が外資系ファンドに売却されたことで思うように事業展開できていないのか、まだ実験段階にとどまっています」

「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」、"生活小売"三つ巴の激闘最前線!
千葉県松戸市にあるスーパー型セブン-イレブンの実験店舗(右)。その目の前にはスーパーのOKストアが24年5月に開店(左)。しかもここはドラッグストアの跡地でもある

千葉県松戸市にあるスーパー型セブン-イレブンの実験店舗(右)。その目の前にはスーパーのOKストアが24年5月に開店(左)。しかもここはドラッグストアの跡地でもある

一方で、小型スーパーの戦略にもリスクはある。前出の白鳥氏が言う。

「トライアルGOと西友の連携は弁当・惣菜の販売で強みになります。

しかし、トライアルGOへの商品を安定供給する西友の運営力や流通力などが課題になります」

中井氏もうなずく。

「フード&ドラッグも同様で、ウエルシアとイオンが食品の価格で競合してしまう未来もありえます。こうした自社競合のわなに陥るリスクは決して小さくありません。

加えて企業文化の問題もあります。ドラッグストアを生業にしてきた企業が食品を強化しようと戦略レベルで決断しても、現場の従業員がすぐに対応できるわけではないからです。

今はドラッグストアもコンビニも〝食〟の強化に成長の機会を見いだしているわけですが、現場力という意味では食品を専門的に扱ってきたスーパーに一日の長があります。

彼らが同じ土俵で勝負できるようになるまで、まだ数年はかかるでしょう」

「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」、"生活小売"三つ巴の激闘最前線!
《ドラッグストア》(2024年度業界売上額)8兆9199億円【2023年比】+6.9%

《ドラッグストア》(2024年度業界売上額)8兆9199億円【2023年比】+6.9%

しかし、スーパーの地位が安泰というわけではない。むしろ最も苦しい立場にあるとして、中井氏は今の食品スーパーが「三重苦」に見舞われていると指摘する。

「物価高による仕入れ値の高騰、人件費や光熱費の値上がり、急速に進む少子高齢化という3つの要因がスーパーを苦しめています。しかも今では競争相手がドラッグストアやコンビニにも広がっている。

特に地方では人口減少が著しいため、ひとつの商圏で生き残るスーパーの数はますます限られていくでしょう」

【生き残る店の条件は何か?】

では、この熾烈な競争の中の勝ち組はどこになるのか。

「地方では小型店の進化に勝機があるとみています。

それはフード&ドラッグの先にある〝究極の便利店〟です。

小さな商圏で成り立つローコスト経営と、食品から日用品、医薬品までワンストップでそろう利便性を兼ね備えた店舗。北陸発祥の『ゲンキー』は、その有力な候補です。

従来のスーパーは店舗で肉や魚を加工する『インストア加工』が特徴でした。しかし、ゲンキーはドラッグストアでありながら、エリア内の食品加工工場で鮮度を保ったまま肉や魚を加工する技術を確立。

これにより店舗に加工スペースが不要となり、少ない人員と狭い店舗でも質の高い生鮮食品を安価に提供できるようになりました。

このビジネスモデルは業界のゲームチェンジャーになる可能性が大いにあります。地方の人口が劇的に回復することはない以上、小さな商圏で勝負できる店が有利ですね」(中井氏)

都市部はどうか。

「都市部は店の選択肢が多いからこそ、『買い物の楽しさ』の価値が見直されると思います。

その意味で、25年11月に横浜にも出店した岐阜発祥の『バロー』というスーパーに注目しています。この店は生鮮食品の専門性を強く打ち出した独自の店づくりで消費者を惹きつけています。

その場で魚をさばいてくれたり、試食が充実していたりと、スーパーの店内でありながら商店街を歩いているかのようなライブ感があるのです。

この楽しさはトライアルGOやまいばすけっとで提供することは難しい。競争を生き残るヒントがバローにはあると思います」(白鳥氏)

安く便利な店か、楽しい体験を提供する店か。いずれにせよ、明確な特徴がない店は淘汰されることになりそうだ。

取材・文/小山田裕哉 イラスト/市橋俊介 写真/時事通信社 PIXTA

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