「浅田真央の再来」17歳・中井亜美はミラノ・コルティナ五輪の...の画像はこちら >>

14歳で全日本選手権4位となり注目を浴びた中井。今季はシニア1年目ながら、GPファイナル2位と大舞台で結果を残した

現地時間2月6日に開幕したミラノ・コルティナ五輪。

その序盤で注目を集めたのが、フィギュアスケート団体だ。男女シングル、ペア、アイスダンスの各順位によるポイントの合計で争う国別対抗である。

日本は鍵山優真が男子シングルのショートプログラムで1位、女子シングルの坂本花織とペアの〝りくりゅう(三浦璃来、木原龍一)〟はショート、フリースケーティング共に1位になるなど、世界中に〝日本フィギュアの底力〟を示した。総合力で勝るアメリカに1ポイント及ばなかったが、見事に銀メダルを獲得した。

2月10日からは、大会の目玉とも言えるフィギュアスケート個人戦が幕を開けた。中でも18日スタートの女子シングルは百花繚乱。全日本選手権5連覇の坂本、坂本と世界ランキングのトップを争う千葉百音、世界女王アリサ・リュウ(アメリカ)。

さらに、2024年のロシア選手権で、非公認ながら世界歴代2位相当の262.92点を叩き出したアデリア・ペトロシャン(ロシア)がメダル候補だ。

世界のトップ選手たちの共演だが、今回の五輪で「ヒロイン候補」と言われるのが中井亜美、17歳である。

浅田真央の再来」

やや大げさに言えば、中井はレジェンドの後継者になる空気をまとっている。

浅田は15歳でグランプリ(GP)ファイナル、全日本選手権で優勝し、愛らしい容姿や演技で国民的な人気者になった。10年のバンクーバー五輪では、代名詞のトリプルアクセルを成功させて銀メダルを手にしている。

4年後のソチ五輪ではメダルを逃すも、その雄姿はヒロインにふさわしく、日本フィギュア史で不滅の存在になった。

「浅田真央の再来」17歳・中井亜美はミラノ・コルティナ五輪の新ヒロイン候補
武器とするジャンプは、浅田真央も得意としていたトリプルアクセル。それを決め、五輪でのメダル獲得なるか

武器とするジャンプは、浅田真央も得意としていたトリプルアクセル。それを決め、五輪でのメダル獲得なるか

一方の中井は、22-23シーズンの全日本選手権に弱冠14歳で出場し、トリプルアクセルを武器に4位。25-26シーズンはGPシリーズを勝ち抜き、GPファイナルではトリプルアクセルを成功させて2位に輝いた。そして全日本で4位に入り、坂本、千葉に続いてミラノ行きの切符を手にしたのだ。

「(GPファイナルのフリーの前に行なわれた)6分間練習のときに、浅田さんが来ているのを知って驚きました! 浅田さんの前で演技できる機会は少ないし、『いい演技をしてトリプルアクセルを着氷させたい』と思いました。それで、楽しく演技ができてうれしかったです」

そう振り返った中井は、浅田という星の引力に導かれるように、フィギュアスケートの世界に入っている。小学校を卒業後、故郷の新潟を離れて千葉の中学校に入学。家族の支えもあり、スケートに身をささげてきた。その純度の高い覚悟が、彼女の才能を触発したのだろう。

GPファイナルのフリーでは一度、瀬戸際に追い込まれた。連続3回転ジャンプの3回転ルッツの着氷が乱れ、セカンドをつけられなかったのだ。

大きく得点を下げてもおかしくない場面だったが、中井は冷静さを失わず、直後に見事なリカバリーを見せる。3回転フリップの後に、ほとんど練習していなかったトーループをつけて成功。17歳らしからぬ胆力でピンチを乗り切った。

中井のコーチである中庭健介氏はGPファイナル後、教え子の修正力の高さと、磨いてきた技術を称賛した。

「中井がちゃんと練習してきたのが出た試合だったと思います。『このミスが起きたら、こうしなさい』という指導もしてきましたが、彼女はそれを理解する〝スケートIQ〟が高い。そして、それを実現できる技量があるのがいいところですね」

目を見張るのは、その勝負度胸だ。ルーキーでも、ショートかフリーのどちらか、もしくはひとつの大会で目覚ましい演技を見せることは少なからずある。しかし中井は、大会ごとに両方で高いレベルの演技を見せ続けた。そのためには、メンタルと実力がどちらも欠かせない。

中井はヒロインの器なのだろう。

今季のショート、中井はプログラム使用曲でイタリア映画『道』を滑っているが、これは熟練スケーターの表現力が求められる。

バンクーバー五輪で高橋大輔が銅メダルを獲得したときの曲で、ザンパノとジェルソミーナというふたりが織りなす愛と業を表現している。つかの間、幸せだった瞬間を演出するのだが、弾むような中井の姿が、主人公の〝生命力〟とリンクするのだ。

「自分は、結果に対して自信を持てることがない。それを信じるよりも、自分自身を信じたいです」

中井は哲学的に言う。花びらのようなかれんさと若々しさを感じさせる容姿とは裏腹に、気骨がある。

五輪出場がかかった全日本は、普通の女子高生に耐えられるプレッシャーではなかったはずだが、彼女は己と向き合った。

「大舞台でいい演技ができるか、と緊張していました。6分間練習も一番いい出来ではなかった。だから、(中庭)先生の中にも自分の中にも不安はあったと思うし、23年の全日本はそれでよくなかったんですが、今回ははねのけられてうれしかったですね」

全日本のフリーで、中井は冒頭のトリプルアクセルを失敗したが、またも瀬戸際で底力を発揮した。完全に気持ちを切り替え、6本のジャンプをすべて成功。コンビネーションジャンプは難易度が高く、ハイスコアを叩き出した。

しかし、演技後に取材エリアにやって来た彼女はとめどなく涙を流した。

五輪出場は確実にしたが、4位という結果に悔しさが込み上げたという。その負けん気こそ、彼女を突き動かす原動力だ。

「浅田真央の再来」17歳・中井亜美はミラノ・コルティナ五輪の新ヒロイン候補
中井は出場しなかったが、フィギュアスケート団体で日本は銀メダルを獲得。それぞれの種目で力を見せつけた

中井は出場しなかったが、フィギュアスケート団体で日本は銀メダルを獲得。それぞれの種目で力を見せつけた

中井が競技者の運を持っているのも、特筆すべき点だろう。今回の五輪、同じ17歳で、全日本2位の島田麻央は年齢制限(五輪前年の7月1日時点で17歳以上)で出場できなかった。

一方で、4月生まれの中井は出場が可能に。かつては浅田も、年齢制限で06年のトリノ五輪に出場できなかったが、中井は自身の飛躍のタイミングで五輪を迎えることができたのだ。

中井はフリーで、ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』を舞う。「素晴らしき世界」と祝福される世界を氷上につくり出せるか。彼女が笑顔を見せたとき、新ヒロインが誕生する。

取材・文/小宮良之 写真/アフロ JMPA

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