盲目の芸人・濱田祐太郎が語る過去一番つらかった仕事は、テレビ...の画像はこちら >>

盲目のお笑い芸人・濱田祐太郎さん

『R-1ぐらんぷり』第16代王者にして、盲目のピン芸人・濱田祐太郎のコラムが週刊プレイボーイで好評連載中! その名も「盲目のお笑い芸人・濱田祐太郎の『死角からの一撃』」。

第16回は、今までで一番つらかった仕事について。

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皆さんこんにちは、濱田祐太郎です。今回は僕が今までやった仕事の中で一番つらかった仕事の話をします。それは、大阪マラソンでフルマラソンに挑戦するというテレビ番組の企画です。

目が見えないというのもあって、僕は普段走ることがまったくありません。周りが見えないので、走っているスピードのまま何かにぶつかると危ないんです。その上、運動も苦手。

そんな状態で42.195㎞を走ろうっていうのはもう無謀ですよね。36歳のおっさんの僕が女性アイドルグループのオーディションを受けるくらい無謀です。

ちなみに目の見えない人がマラソンを走るときは、見えている人が隣を一緒に走りながら「ここで右に曲がる」とか「ここからしばらく上り坂」とか「衣装に着替えてダンスを踊って」などと指示をしてもらいながら走ります。

あれ? 途中で女性アイドルグループのオーディションに参加したかも。

そのとき、隣を走るお互いの距離がなんとなくわかるように、1本の輪っかにしたロープを持ちます。そのロープのたわみ具合で、見えない人は伴走者との距離を測るというわけです。

ちなみに、このロープは「絆」って名前だそうです。僕はこれを聞いたとき、「笑っちゃうほどダサい名前だなあ」と思いましたよ。

「一生懸命走る視覚障害者。そのランナーと一緒に走る伴走者をつなぐ一本の絆」

......感動させる気、満々ですよね。まあ、あくまで個人の感想ですけど。

ささやかな抵抗として、収録中はなるべく「ひも」と呼ぶようにしていました。むしろ、疲れたら食べられるように輪っかにしたうどんを持って走りたかったくらいです。

肝心の伴走者は、番組の企画ということもあって先輩芸人が担当してくれました。マラソン経験はあるけど、視覚障害者の伴走は初めて。しかも、ちょっと天然。

練習中に「濱ちゃん、今カラスが鳴いたわ」と言われて、「それは見えてなくてもわかります」とツッコんだり。走りながら「今ものすごくおっぱいの大きい女のコとすれ違ったで」と言われて、見えないのに思わず後ろを振り返ったりしたのはいい思い出です。

結局、本番は34km地点でタイムアップになってリタイアでした。途中で足の親指と人さし指のつけ根がめちゃくちゃ痛くなって、それがつらかったんです。心の中で「二度とフルマラソンには挑戦しない」と誓いました。

マラソンをやっている人からは「走っていると景色が変わっていって気持ちがいい」と聞きましたけど、僕はそれが見えないので、ただただ疲れるだけ。

「目が見えない人は、その分、風とかにおいとか敏感に感じるんじゃない?」と言われることもありますが、そんなことはまったくありません。へとへとで走ってるときに風だのにおいだのに意識を向ける余裕なんてないですよ。

我慢の限界でトイレを借りに入ったお店の中で良いアロマのにおいがしても「なんていいにおいなんだ!」って思う余裕がないのと同じです。

もちろん目が見えなくても運動が好きっていう人はたくさんいて、そういう人たちはマラソンも楽しんでやっているみたいです。「走りたい見えない人」と「伴走をやってみたい見える人」が交流する取り組みとかも、東京や大阪では盛んに行なわれてるみたいですよ。

一番つらかった仕事の話だったので、今回はちょっと毒多めだったかもしれません。

 ●濱田祐太郎(はまだ・ゆうたろう) 
1989年生まれ、兵庫県神戸市出身。2013年より芸人として活動を開始し、『R-1ぐらんぷり2018』(フジテレビ)で優勝。

関西の劇場を中心に舞台に立つほか、テレビやラジオなどでも活躍。公式X【@7LnFxg25Wdnv8K5】

撮影/梅田幸太

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