広島がJリーグ優勝を決めた。選手、スタッフ、関係者、そして、サポーターには心からおめでとうと言いたい。


今季は長年チームを率いてきたペトロビッチ監督(現浦和監督)が去り、得点源の李(忠成)も移籍したこともあり、開幕前に広島の優勝を予想する人なんて誰もいなかった。また、シーズンが始まって好調を維持しても、いつかは落ちてくるだろうと思われていた。でも、彼らは最後までコツコツと勝ち点を積み重ねた。8敗もしているし、ほかのチームがだらしなかったという言い方もできるけど、僕も含めた解説者やマスコミは謝らないといけないね。

広島のサッカーは主導権を握って相手を圧倒するというものではない。特徴は攻守の切り替えの速さ。
特にカウンターは本当にスピーディで見ていて爽快だった。2007年にJ2降格を経験し、柏木、槙野、李と主力が次々と流出しても強化方針を変えず、同じサッカーを続けてきたことが、今回の優勝につながったんじゃないかな。誰かひとりに頼るチームではないし、年齢的にもバランスが取れている。また、チームの雰囲気がいいのは試合を観ているだけでも伝わってくる。今季から指揮を執る森保(もりやす)監督がよくチームをまとめたと思う。

僕が選ぶMVPはもちろん、エースストライカーの佐藤。
これまでも毎年ふたケタ得点を決めている選手だけど、今季は得点王レースを独走し、さらに決定的な仕事ができる選手になった。身長170cmで、ずば抜けた技術や身体能力があるわけじゃない。ただ、ペナルティエリア内で味方のクロスに合わせる能力は誰にも負けない。一瞬のスピード、ポジション取り、相手DFとの駆け引き、そのすべてがハイレベル。主将としての存在感も大きかったし、彼の存在なくして広島の優勝はなかったね。

それだけに、ぜひ佐藤が日本代表でプレーする姿を見てみたい。
プレースタイル的に今の日本代表と合わないという声もあるけど、僕は決してそうは思わない。一度も試さずにそんなことを言うのはおかしい。じゃあ、今、日本代表で試合に出ているほかのFWはそんなにフィットしているのかという話だ。対戦相手によっては佐藤のような選手が必要になるし、例えば、10月に対戦したフランスやブラジルなど相手に押し込まれ、カウンターを狙う展開の試合にはピッタリだと思うんだけどね。ザッケローニ監督が何を考えているのかわからないけど、これだけの結果を出しても代表で1分たりとも出番が与えられないなんて、ちょっと理解できない。

同じことはJリーグにもいえる。
広島の財政事情を考えれば、おそらく彼の年俸はあまりアップしないだろう。また、ほかのチームが獲得に動いているという話も聞かない。まったく夢がないし、プロリーグらしくないよ。得点王、MVP、チームは優勝、そんな選手でも年俸1億円もらえないのがJリーグの現状だ。寂しいよね。

広島は今週から開幕するクラブW杯に開催国枠で出場する。
ノルマは2勝して南米王者コリンチャンスとの対戦までこぎつけること。昨年の柏も準決勝まで進んでいるし、ぜひJリーグの存在感をアピールしてほしい。国際経験の少ないチームだけど、逆にいえば、怖いもの知らずで思い切り戦えるかもしれないね。

(構成/渡辺達也)

元の記事を読む