昨年、「怪人 タキ・井上」として週プレ誌上にも何度か登場し、独自のインサイダー情報を交えながら、舌鋒(ぜっぽう)鋭くF1界の現状を解説してくれた元F1ドライバーの井上隆智穂(たかちほ)氏。

ツイッターやフェイスブック上での鋭く、オモシロすぎる書き込みが世界中で反響を呼び、今もそのフォロワーは増える一方。
最近ではイギリスで最も権威あるモータースポーツ専門誌から過去20年で最悪のF1ドライバーに(自己推薦で!)選ばれるなど、相変わらずの怪人ぶりを発揮している。

そして、数あるタキ・井上伝説のなかでも最も有名なのが、1995年ハンガリーGPの「消火器事件」。レース中にエンジントラブルに見舞われたタキがマシンを止め、出火したエンジンに自ら消火器を噴射しようとした瞬間、彼を救助に来たメディカルカーにはねられてコースサイドに倒れ込む……。

「F1珍百景」のなかでも確実に一、二を争うこの出来事は、その後、タキ・井上伝説のシンボルとして語り継がれ、彼自身もまた、自虐ネタの鉄板芸として、消火器を構えた自分の写真を頻繁にネットに投稿してきた。

そんなタキ・井上が今年、あの事件から18年ぶりに「伝説発祥の地」ハンガロリンク(ハンガリー・ブダペスト郊外にあるサーキット)を訪問すると聞き、週プレはインディカー初優勝の佐藤琢磨(たくま)を差し置いて、タキ・井上に緊急特別電話インタビューを敢行! 週プレ独占公開の現地写真とともに、その肉声をお届けしよう。

―18年ぶりの訪問はなぜ?

タキ「いや、自分でもさんざんネタにしていますけど、本音を言えば僕にとってつらい思い出の場所なので、これまで訪れる気がしなかったんです。
でも、今年、フェイスブックで『タキ・井上が、消火器を片手に18年ぶりにハンガロリンクへ行ったほうがいいと思う人は、いいねボタンを押していただきたい!』と呼びかけたところ、1052人もの方から『いいね!』をいただき、そろそろつらい過去と決別する時期だと思いまして……」

―実際に“思い出の地”に立たれての感想は?

タキ「それがですね……。まず、サーキットまでの道が全然思い出せなくて(汗)、ようやくハンガロリンクに辿り着き、実際にコースを歩いてあの事故の場所を探したら見つからない(汗汗)。そこでようやく気がついたのですが、あの後コース改修があって、僕が倒れていたストレートはなくなっていたんです(汗汗汗)」


―ありゃりゃ、ちなみに現地の反応はいかがでしたか?

タキ「僕が18年ぶりにハンガロリンクに行くことはツイッターで皆さんご存じでしたから、地元のテレビ局や新聞などのメディアから取材攻めで、恥ずかしかったですね。で、みんな決まって『消火器持って!』ってリクエストするのですが、すべてお断りしました」

―ええっ、なぜ?

タキ「いや、実は今回、自分がオーナーを務めるレーシングチームがハンガロリンクのレースにエントリーしていまして、ドライバーが真剣に戦っているのに、オーナーが消火器持ってネタやるっていうのはさすがにどうかと……(汗)」

(実はタキ、オモテの顔はヨーロッパで複数のレースに参戦するレーシングチームのれっきとしたオーナー。今シーズンは笹原右京[うきょう]、黒田吉隆、佐藤公哉[きみや]と、計3人の若手日本人ドライバーを欧州のレースで走らせているのである)

タキ「18年前の事故のときはヘリコプターで病院に搬送されたのですが、今回、こうして再びハンガロリンクの地に立ち、今度は自分の足で去ることで、長年背負い続けてきたあのコメディショーの呪縛から解放され、ようやく成仏できた気がします(汗)。今後、自分があれを超える一発芸をお見せするのはちょっと難しいかと思いますが、これからはF1のトップレベルで争える日本人ドライバーを育てることで、日本のモータースポーツファンの期待に本当に応えたい。
目標は3年以内!『一番大きなフォーミュラ』に日本人を乗せてみせます」

ちなみにハンガロリンクのレースでは今季オートGPに参戦中の佐藤公哉がレース1で優勝! レース2でもポイントを獲得、シリーズランキングトップに立った。「表彰式で君が代を聴いて泣きました……」とタキ。ようやく消火器の呪縛から解放されたタキ・井上伝説の新たなチャプターが、ここから始まるのである(激汗)。

(取材・文/川喜田 研)

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