男性と女性が出会い、愛し合って子どもを作る――。この人間のセックス観を、生物の「交尾」に当てはめようとすると、上手くかみ合いません。
実際には、生物のオスとメスは友好的に交尾をするのではなく、繁殖をめぐって激しく闘争しているのです。

 そんなオスとメスの熾烈な戦いについて解説しているのが『恋するオスが進化する』(宮竹貴久/著、メディアファクトリー/刊)。
 本書では、生物の生殖行動における不思議な現象を詳しく解説しています。
 上に述べたような、熾烈な交尾が行われる原因は、「性的対立」。性的対立とは、「安いコストで作った精子を撒きたい」オスと、「限られた卵子になるべく優秀な精子をつなげたい」メスの利害関係が対立した結果おこる、オスとメスの競争関係のことを指します。
 ここでは本書から、さまざまな生物の性的対立の末の衝撃的な交尾のありさまを一部紹介したいと思います。


■トゲのついたペニスでメスの体を傷つけるオス
 ヨツモンマメゾウムシのオスのペニスには見るも痛々しいトゲがついており、交尾をすることでメスは生殖器の内壁を傷つけられます。
 精液には毒物質も含まれており、交尾によってメスの寿命が縮まることが報告されています。
 このような交尾が行われる理由はよくわかっていませんが、「生殖器を傷つけることでメスの交尾の回数を少なくさせるため」「傷を負わせることで、死ぬ前にできるだけ多くの子を残そうという行動パターンに変えさせるため」「生殖器の内壁にトゲを刺し、最適な位置で射精するため」などといった推測がなされています。

■生涯に一度の交尾で爆死
 ミツバチのオスは、空中で交尾を遂げてそのまま死にます。
 女王バチとオスバチたちの交尾は「結婚旅行」で行われます。交尾のためだけに、ときには数キロも離れた場所からハチが集まってくるのです。
女王バチはオスバチを惹きつける強力なフェロモンを放出し、オスバチは女王バチに群がります。
 女王バチは何度も交尾をしますが、オスは一度しか交尾できません。オスバチが女王バチに触れてから精子を渡すまでは、わずか2~4秒という短さです。
 この短い間に、オスバチの腹部に納まっていた生殖器は、ボンという破裂音とともに外側に反転します。その瞬間に、精子が女王バチに打ち込まれます。
 同時に、オスバチの体は麻痺・硬直して死に至ります。
このような光景が、何匹ものオスたちによって繰り返されるのです。

■腹上死し、メスに食べられるオス
 沖縄など日本の南西諸島に生息するナガマルコガネグモのオスは、体長がわずか5ミリほどで、2センチ以上もあるメスに比べておよそ5分の1のサイズしかありません。
 オスは頭部から生える左右2本の触肢を持ち、この触肢に精子が詰まっています。つまりクモのペニスは頭から生えているということになります。
 クモのメスの生殖孔は腹部にあります。オスはこの腹部に触肢を挿入し、触肢を空気でいっぱいに膨らませて破裂させ、空気圧とともに射精します。

 2本の触肢で射精を終えると、オスはそのままメスの腹部で死んでしまいます。メスはそのオスの死体を何事もなかったかのように食べます。
 新しいメスとの出会いが極端に少ない生き物は、このようにオスがメスに生涯を捧げるタイプの交尾が行われるのだといいます。

 上記で紹介した、生物の過激な交尾は、「性的対立」によって起こる悲劇といえます。
 自ら進んで自分の体を相手に食べさせるクモや、交尾のたびに寿命を短くしてしまう体質の虫に比べたら、人間に生まれてよかった……と思えますね。
(新刊JP編集部)