金明輝監督率いる新体制で始動した今季はキャンプから丁寧なビルドアップと攻撃の組み立てを志向してきたが、開幕3連敗と序盤は躓いた。しかし、彼らはそこでいち早く修正を図り、3月1日の神戸戦で初勝利。そこからは無敗街道を歩み、第9節終了時点で勝ち点16の暫定6位に浮上した。4月12日の横浜F・マリノス戦に勝てば、クラブ初の首位に浮上する可能性も高まった。対戦相手のマリノスは9日に川崎フロンターレとの激闘を経てから中2日という過密日程。しかも敵地でのゲームだ。チーム状態も上がらず、J2降格圏に沈んでいるという状況で、アビスパとしては余裕を持って戦うことができる状況だった。
実際、スタートは悪くなかった。藤本一輝と志知孝明のコンビで宮市亮が守る相手右サイドを攻略。最初からチャンスを作れていた。だが、マリノスも鋭さを発揮。開始早々の11分にかつてアビスパでプレーしていた遠野大弥が豪快な一撃をお見舞いし、1点をリードしたのである。
後半になるとマリノスの足が止まり始め、アビスパはさらに攻撃のギアを上げる。そこで値千金の逆転弾を奪ったのが見木。後半36分の追加点は自らがボールを奪ったところからスタートし、紺野和也、ナッシム・ベンカリファ、前嶋洋太とつながり、最終的に右からのクロスに背番号11が飛び込んで決め切る形だった。
「つねにボールを奪うことは意識している。自分が奪えた時は自ずから前に出やすいので、最初はナッシムが動き出してクロスを準備したんですけど、そこから洋太に渡った時にしっかりと動き直せた。フリーの感覚はありました」と本人はゴールまでの軌道を明確に思い描きながらプレーしたことを明かした。「ゴールシーンを見てもそうだが、見木はつねにボックス・トゥ・ボックスに動いていける。(松岡)大起がバランスを取って、見木が点を取れる位置に入っていける。さすがだなと思います」と金監督もしみじみと語っていたが、背番号11の補強はアビスパにとっての大きな力になっている。彼の決勝弾でマリノス戦に勝ったアビスパは勝ち点を19に伸ばし、ついに首位に浮上したのだ。
ご存じの通り、見木は2019~2023年までJ2のジェフユナイテッド千葉でプレーしていた選手。J1の舞台で戦ったのは、昨季在籍した東京ヴェルディが初めてだ。ヴェルディ時代はトップ下やシャドウなど前目に入ることが多かったが、現在のアビスパではボランチが主戦場となり、非常にいい味を出している。
「トモ君は技術的にもすごく上手。ボールを失わないし、受けるポジションもいいし、なおかつ運動量もある。一緒にやっててすごい選手だと感じます」と松岡もリスペクトを口にしていたが、確かに非凡な攻撃センスは目を見張るものがある。
「僕自身はトップ下やインサイドでもう少し前目でプレーしたい気持ちはありますけど、今のアビスパのサッカーを考えた時、ボランチは全然ありだなと感じます。実際、ボランチが前へ出て攻撃に関わっていかないと厚みが出ない。クロスが入った時にゴール前に人数が揃っていれば、自分がそこまで入っていく必要もないと思いますけど、やっぱり今のチームでは必要。大起も結構出ていくので、中の枚数が沢山揃うシーンが作れている。それはいいことですね」と本人も自分の役割に自信を深めている様子。これだけ縦横無尽にピッチを駆け回れるボランチは間違いなく魅力的だ。
この日、日本代表の松本良一フィジカルコーチも福岡まで視察に訪れていたが、今季2ゴール目を叩き出した見木も7月のE-1選手権の候補と位置づけられそうだ。「そこは個人的にも今年の目標の一つ。国内組からしたらめちゃくちゃチャンスなんで、選ばれるために得点だったり他のボランチとの違いを見せなきゃいけないと思っています。チームも上位にいれば自ずと可能性も高まってくる。僕はジェフにいた時から代表に入りたいと思っていましたし、より高いレベルでプレーしたかった。だからこそ、1試合1試合のパフォーマンスに集中して、チームを勝たせるところにフォーカスしてやっていきたいですね」
目をギラつかせた見木。こうやって下のカテゴリーから這い上がってきた人間が異彩を放ち、日の丸をつけるようなことがあれば、多くの人々に勇気と希望を与えられる。その野望を現実にするためにも、彼自身が掲げる「今季10ゴール」という目標に突き進まなければならない。
「今のアビスパが1位というのは出来すぎっちゃ出来すぎかなと。まだ足りない部分はあるので、勝ちながら修正していく必要がある。負けなしを継続して、半分終わったところで何にいるかが大事。そこで『より上位を狙えるね』となるようにしていきたいです」と見木も改めて気を引き締めた。
取材・文=元川悦子
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