「選手層という意味では、日本代表にはまだいい選手がいることを証明できた試合だったと思うし、新たな競争がさらに生まれることを期待しています」とこの日、キャプテンマークを後輩の久保に譲った遠藤は前向きに語っていた。
新戦力の中でも、特に湘南ベルマーレ育ちの鈴木淳之介のことは気になった様子で「1対1の部分も強かったし、ビルドアップの関わりも良かった」と称賛。かつての自身と重なるという指摘を受けると「それは同じ感覚というか、サイドバックもできるし、ウイングバックもできるんじゃないかなと。ただ、最終的にどこで勝負するかっていうところは、もしかしたら海外に出ていくうえではいろいろまた悩みもあるかもしれない」と慮った。
遠藤自身は3バックの一角、サイドバック、ボランチと多様なポジションをこなしてきたからこそ、今がある。今季プレミアリーグ優勝という高い領域に到達できたのも努力の賜物だ。今季リヴァプールでボランチだけでなく、最終ラインにも入った。どんな役割を託されても常に高値安定のパフォーマンスを示せなければ、世界最高峰クラブでのプレーは叶わない。そのあたりは、同じイングランドでここからチャンピオンシップに初参戦しようとしている同タイプの岩田智輝も「航さんは本当にすごい」と神妙な面持ちで話していたほどだ。
その高い基準を身を持って若手に示したインドネシア戦で最終予選が終わり、いよいよ9月から本大会に向けた本格的な強化に突入する。
今回の最終予選を7勝2分け1敗という破竹の勢いで勝ち上がったとはいえ、今後の戦いは全くの別物。前評判の高かった2014年のブラジル大会のチームも、前年秋以降に負けが込んで危機的な状況に直面している。こ同じ轍を踏まないとも限らないのだ。
「W杯が決まって『結果に一喜一憂しない』という話はしましたけど、この先もそうで、内容にこだわることが重要。とにかくディテールをどんどん詰めていくような作業をして、積み上げをしていくことが大切なんです。今回のシリーズで言えば、5バックの崩し方や最後のフィニッシュの部分、守備のスローインからの守り方とか、そういう課題が出た。そこを一つひとつ詰めていくことですね」と百戦錬磨の男は改めて強調していた。
遠藤は2018年のロシア大会、2022年のカタール大会に参戦しているが、本番前の1年間に紆余曲折があることを実際に体験してきた。ロシア大会の時は直前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督の更迭といった前代未聞の事態も起きた。だからこそ、何があってもどっしりと構えて、周りを落ち着かせていくべきだと心得ている。遠藤が常にフル稼働できるような状態をキープし、ピッチ内外でチームを鼓舞していくことが肝要なのだ。
その大役を遂行するうえで、やはり気になるのは去就だ。「オファーがあれば考えますけど、基本的にはリヴァプールで(と考えてます)」と語ったが、残留となれば出場時間が劇的に増加するかどうか。アルネ・スロット監督は遠藤の価値や試合終盤の投入でも確実にゲームをクローズしてくれる集中力と高度なマインドをよく理解しているはずだが、ユルゲン・クロップ監督のように主軸に据えてくれると言い難い。そこはどうしても気がかりな点だ。
「出場機会がチームでは多くはなかったですけど、その中でもしっかり自分の中で高いパフォーマンスをキープしながら、プレミア優勝に貢献できたということは良かったと思います。プレミアリーグ優勝というのは、そんなに簡単じゃないなっていうのは実感したかなと。その中でスタメン出てる選手だけじゃなくて、やっぱり途中から出る選手たちの重要性をはすごく感じたシーズンだったし、それは僕だけじゃなくて、他の選手も含めてそう。代表にも同じことが言えると思いますね」
プレミア王者を経験したリーダー遠藤が、世界一を本気で目指すための必須条件を知り尽くしているというのは心強い材料だ。遠藤には名門で再び定位置を奪取し、最高の状態で3度目の大舞台に挑んでほしい。そうすることで、日本代表のレベルももう一段階、引き上げられるはず。32歳の底力を改めて示し、世界を驚かせてほしいものである。
取材・文=元川悦子
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