2024/25シーズンはWEリーグで全22試合に出場して1ゴールを記録し、Wリーグカップで4試合に出場して大会連覇に貢献した。ピッチでは本職のボランチよりも高い位置のインサイドハーフやウイングなどでプレーし、新たなポジションを経験しながら試行錯誤のシーズンを戦い抜いた。
小川が多くを学んだ近賀ゆかりさん(現アンバサダー)は昨シーズン限りで現役を引退し、GK福元美穂は古巣の岡山湯郷Belle(なでしこリーグ1部)に移籍。創設時からチームを支えてきた2人がそろって退団した。昨シーズンに守備改善を徹底した吉田恵前監督も1年で退任し、新たに赤井秀一監督が就任して、チームは転換期を迎えた。
レジーナ加入時は大卒ルーキーだった小川も今年9月に27歳になる。広島で4シーズンを過ごしてきて、周囲の変化とともに自身の立場も変わってきた。これまでチームの一端として戦ってきたが、5年目の今シーズンは背番号8が新生レジーナを積極的に動かしていく。
大きな変化を経て迎えた2025/26シーズン。チームの中心で戦う小川に、昨シーズンの振り返りや新シーズンにかける思いを聞いた。
インタビュー=湊昂大
――まずは昨シーズンを振り返ってください。
小川 カップ戦は取れましたが、リーグ戦は5位で終わって、チームとしての目標に届かず、本当に悔しいシーズンでした。
――第3節のちふれASエルフェン埼玉戦では後半アディショナルタイムにカウンターで劇的な決勝ゴールを決めて勝利に導きました。
小川 まず自分たちのピンチを全員で守れたのが大きくて、そこからの攻守の切り替えは練習からみんな意識高く取り組んでいました。それまで相手に引かれて守られてスペースがなかったので、ルナ(GK木稲瑠那)が蹴るとわかった瞬間に、前線の選手が飛び出していたのは見えていましたし、セカンドボールだけに集中して、時間と手数をかけずに前に行こうと思っていました。セカンドボールを前線の選手につなげて自分が出ていくという意識はずっと持っていて、そこからエリさん(呉屋絵理子)がすごくいいボールをくれたので、あとは落ち着いて相手を見て決めきれた、自分の良さが出たゴールだったなと思います。
――中盤の高いポジションでプレーするときは、ポケットやサイドのスペースにその「自分が出ていく」意識が高かったと思います。
小川 スペースを見つけて出ていく動きは、自分でもボランチでやっているときはなかったなと思うぐらいでした。(EL埼玉戦のゴールシーンでは)その意識と走力と決定力の部分で、自分の中でも意外とできるんだという発見でもあって、それが全部凝縮されて出たプレーだったと思います。
――左ウイングでのプレーはどう捉えていましたか?
小川 監督の意図として、左サイドで起点を作ることと、そこからのボールの配給を求められていたと思います。自分は背後に出ていくタイプではないですけど、そこで味方の出しやすいタイミングで落ちたり、前向きなプレーを増やしたり、外に張っているだけではなく、中に入って味方とのコンビネーションを作ることは自分でも意識していました。ザ・ウイングというよりは、自分がそこで何をできるか、周りをどうやって活かせるかを考えながら、難しかったですけど、自分の中ではできることはやろうと思って取り組んでいました。
――ボランチとは違うポジションで起用されて、意識や気持ちはすぐに切り替えられましたか?
小川 3年間ボランチで自分なりに積み上げてきたものがあった中で、ポジションを変えて最初は何を求められているのか、自分の良さを全部出せているのか、と思うこともありました。でも、与えられたポジションや役割、その状況の中で(自分の良さを)出すしかないですし、やっぱりチームで勝ちたかったので。いろんな立場の選手がいて、トップ3を目指す中でみんなもネガティブになるときもあったと思いますけど、それでも全員が前向きにやっていくことがベストですし、試合は来るので勝つためにどうしたらいいかを考えていました。
――いろんなポジションでプレーした経験をどう捉えていますか?
小川 違うポジションに対する新たな発見もありましたし、それこそ自分のプレーの幅を広げるすごくいい機会でした。そのポジションの中で自分に何ができるか、何を求められるかは常に考えながらプレーしていたので、それこそ結果でもう少し数字を残せたら良かったですが、また違うポジションになっても絶対に自分の力にはなると思いますし、良さをまた違うポジションでも出せたら、もっと怖い選手になれると思っています。
――サンフレッチェ広島レジーナの初期メンバーとして4シーズンを戦ってきて、これまでの自身の成長をどう捉えていますか?
小川 最初は何もわからず加入して、キンさん(近賀さん)やフクさん(福元)にチームを引っ張ってもらう中で、ついていくのが精一杯でしたし、実力的にも何も足りていなかったと今振り返るとすごく思います。周りの選手やスタッフの方に引っ張ってもらって、自分の良さを引き出してもらいながら成長できてきました。最初はついていくだけのところから、自分なりに考えながら、うまくいったこと、いかなかったことたくさんありましたけど、自分の良さをこのチームで出したいと思えるようになったところが、まず大きな成長だと思います。このチームで5年目で、1番最初からこのチームを知っている選手の立場としてやらないといけないと思っているので、常にチームのために全力でプレーできる存在でありたいと思います。
――近賀さんと福元さんが退団しましたが、2人から学び、活かしたいことを教えてください。
小川 あー、たくさんあるな……。特にキンさんは中盤で一緒にやらしてもらって、常にストイックで、常にポジティブで、誰よりも走って、誰よりも楽しんでいて、チームのために戦っている姿を間近で見させてもらいました。
――示し続けていくために大切なのは、近賀さんもよく口にしていた「結果」や「勝利へのこだわり」になるのかと思います。
小川 今まではチームが成長していく過程の中で、波があることが気になっていました。すごくいい試合ができる時もあれば、コロっと負けてしまう時もあって、そういった波を少しずつ減らしていかないといけないし、昨季も大事な試合で落としたり、どうしても追いつけない状況を自分たちで変えられなかったこともありました。なので、今シーズンは内容にもこだわりたいですけど、内容がどんなに悪くても落とさずに次につなげていかないと上にはいけないので、勝ち続けながら修正していく力は全員でつけていきたいです。たくさんの方々が見に来てくれるので、たくさんの勝利の瞬間を一緒に分かち合いたいですし、その瞬間を見に来てくれていると思うので、1つでも多く勝って、1つでも上を目指して、昨季の悔しさをぶつけるシーズンにしたいです。
――新チームで臨む勝負の年ですが、今シーズンにかける思いを教えてください。
小川 今まで逃してきたトップ3や優勝を絶対に取りに行きたいですし、カップ戦も3連覇がかかっているので、そこは全員で取りに行きたいです。いろんな選手が抜けて、また新たなチームでスタートするので、今まで積み上げてきたものプラスアルファで、レジーナの生まれ変わった部分やまた一段と強くなった部分をたくさんの人に見てもらいたいです。
――新たに就任した赤井監督はどんな方で、どんなことを求められていますか?
小川 コミュニケーションをすごく大事にしていて、いろんな選手にフランクに喋りかけに来てくれますし、その中でもやるところはしっかりやる感じです。でも意外と1人で笑っていたりするところもあるので、面白いなと思いながら見ています(笑)。自分は中盤の選手なので、もっと周りを動かすことは求められていて、そこをできれば自分自身ももう1段上がれると思っています。日々の練習やそれ以外の部分でも、1人ひとりが成長していくことをすごく求められていて、(監督から)言われたこともそうですし、自分で思っていることも少しずつ変えていけるように積極的なチャレンジをしていきたいです。
――新体制では攻撃的なサッカーになりそうですが、ゴールへの意識は変わりましたか?
小川 今まではどちらかと言うと、バランスを見て組み立てにフォーカスしてやってきましたが、監督からもゴールを意識したプレーをすごく言われているので、隙があったらどんどんシュートを打つようになりましたし、打てる場所を探すようになっています。もちろんリスク管理と同時にしないといけないですが、やっぱりチームとしてももっと点を取れるようにならないといけないですし、ボランチが点を取れたらチームにとってすごく大きなことだと思います。強いチームはいろんな選手が点を取っているように、レジーナでもいろんな選手がいろんなパターンから点を取っていきたいです。
――ゴールへの意欲が一段と高まっているように感じます。
小川 もう決めたいですね。やっぱり昨シーズンの悔しさもありますし、チャンスをものにできなかったところもあったので。
――昨シーズンは「自由すぎる女王の大祭典」で2万156人を集めて当時WEリーグ史上最多観客数の記録を達成し、シーズンを通して1試合平均入場者数5482人の最多記録を作りました。新しいスタジアムやWEリーグトップの観客数という環境でプレーできることを選手としてどう捉えていますか?
小川 まずあの(2万人の)景色を見られたこと、一緒に作ってもらったことにすごく感謝しています。でも、まだまだ1つのきっかけに過ぎなかったと思うので、これからもっとたくさんの方に来たいと思ってもらえるような試合ができるように、みんなで作り上げていきたいです。(多くの観客の前でプレーするのは)本当に幸せなことだと思いますし、そういう状況を女子サッカーの中でもっと当たり前にしていきたいので、1人でも多くの方に女子サッカーの魅力や面白さ、また行きたいと思ってもらえるように頑張りたいです。
――ホーム開幕戦は17日にINAC神戸レオネッサと対戦します。ピッチでどんな姿をサポーターに見せたいですか?
小川 とにかくチームとして積み上げてきているものを全員で出したいですし、どんな状況でも自分たちで積極的にチャレンジしていく試合にしたいです。ホーム初戦はたくさんの方が見に来てくれると思いますし、シーズンが始まる中で大事な試合なので、チームが勢いに乗っていけるように絶対に勝ちたいですし、タイトルを目指しているので、そこに届くシーズンにしたいです。