埼玉スタジアム2002に約5万3000人超の大観衆が集結した大一番。鬼木達監督は先手を取るべく、鈴木優磨やレオ・セアラら主力級をズラリと並べて挑んだ。スタートから浦和の圧に押されていたが、開始14分に鈴木が西川周作のパスミスを見逃さずにインターセプト。そのままに左足を振り抜き、早々と先制点をゲットする。優位に立つことに成功した。
しかしながら、そこからの鹿島はボールを思うようにキープできず、相手の猛攻を食らう時間帯が長く続いた。「こういう試合だからこそ、もっともっとみんながボールを受けたがらないといけないし、自分が何とかしてやるっていう気持ちを持たないと難しいゲームになってしまう」と鈴木は苦言を呈したが、自陣に引き込んで守る時間帯が長く続き、本当に苦しい状況を強いられた。
そこで異彩を放ったのが、日本代表GK早川友基だ。開始2分の金子拓郎のFKを阻止を手始めに、スーパーセーブを連発する。特に目を引いたのが、後半38分の浦和の決定機だ。カウンターから途中出場の関根貴大と1対1になったシーンでは右足一本で阻止すると、こぼれ球に反応した石原広教の二次攻撃も防ぎ切った。
もう一つ、大仕事だったのが、終了間際のイサーク・キーセ・テリンの決定機だ。守備固めのために右サイドバックに起用された津久井佳祐がマークを外したのはいただけなかったが、早川が右足で弾き、救われた気持ちになったのではないか。「こういう試合で勝ち点1になるか3になるかは大きな違い。優勝争いとなれば、その部分が大きくなってくる。どんな試合でも粘り強く、後ろはまず耐えて、無失点に抑えることですね。前には点を取れる選手が沢山いるので、連携やコンビネーションをうまくやりながら、ゲームを進めていくことが大事だと思います」と安堵感をのぞかせた。
この一挙手一投足を見守っていた一人が、U-17日本代表の山岸範宏GKコーチだ。モンテディオ山形時代の2014年J1昇格プレーオフ準決勝・ジュビロ磐田戦では劇的ゴールを決め、“山の神”と呼ばれた名守護神は「隣で山本昌邦さん(日本代表ナショナルチームダイレクター)と見ていましたけど、早川はいつもこのレベルの仕事を見せていると。安定感は素晴らしいですね」と称賛したのだ。
浦和のレジェンドでもある専門家からお墨付きを与えられた早川の仕事ぶりもあって、鹿島は勝ち点を58に伸ばし、足踏みした京都と柏を引き離す形になった。
ただ、早川が見据える領域はもっと高い。というのも、日本代表として7月のE-1選手権と9月のアメリカ遠征に参戦。自身の現在地を客観視する機会に恵まれたからだ。「自分が今までやっていた感覚と、ここ(代表)で求められている感覚は多少変わってくる。例えば、準備の質やポジショニング。相手が背後に出てくる時の準備のところだったりっていうのは、普段とかなり違う部分がありますね。(上田)綺世のシュートもとにかく速くて重い。久しぶりに受けて止まっちゃいました」と早川はアメリカでも語っていた。
直近の日本代表2連戦で出番を得られなかったからこそ、「Jリーグ基準にとどまっていてはダメだ」と自らに言い聞かせているに違いない。それが傑出したパフォーマンスの原動力になっているのではないか。「本当にアメリカに行って感じるものは沢山ありました。
言葉の先には、鈴木彩艶の姿もあるはずだ。自分より3つ年下ながら、欧州5大リーグレギュラーをつかんでいる若武者を追い越さない限り、早川が代表の大舞台に立って活躍することは叶わないのだ。「(彩艶は)本当にパワーもあるし、なおかつ動きもしなやか。自分の守っているレベルをさらに高くしてるし、高さもあるし、本当に若い。これからすごいポテンシャル持ってる選手だなと思います」と改めて敬意を表した早川。自分とは異なるタイプだが、ともに切磋琢磨して、もっともっと凄みのあるGKに飛躍してくれれば、Jリーグ、日本サッカー界にとってもプラスだ。
とにかく今は早川友基という伸び盛りのGKに注目すべき。彼が鹿島の常勝軍団復活請負人になれるか否か……。ラスト8戦の動向を注視していきたいものである。
取材・文=元川悦子
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