8月25日、浦和レッズのGK西川周作とFW照内利和が、さいたま市中央区にある埼玉県立小児医療センターと、同センター内に設置されている「ドナルド・マクドナルド・ハウス さいたま」(さいたまハウス)を訪問した。

 この活動は、浦和レッズが掲げる「スポーツを通じて次世代に向けて豊かな社会を創っていく」という理念を、ホームタウン活動を通じて体現する取り組みで、2020年にスタートして今年で6年目となっている。


 活動が始まったきっかけは、西川が地域の方との会話の中で「さいたまハウス」の存在を知ったことだ。かねてより「ホームタウンの子どもたちのために自分にできることをしたい」という思いを持っていた西川はクラブに相談。クラブが西川の思いを汲み取り、地域と連携を図って実現した。

 第一回目だった2020年6月は、マスクやハンドジェルなどの医療物資と西川のサイン入りユニフォームや直筆・動画メッセージを小児医療センターへ寄贈。翌2021年と2022年はグッズの寄贈のほか、オンラインによる小児医療センターとさいたまハウスへの訪問を行った。初の対面訪問が実現したのはコロナ禍が落ち着いた2023年。今回は2023年、2024年に続いて3度目の対面訪問となった。

 訪問当日、西川と照内はまず埼玉県立小児医療センターに行って渡邊彰二副病院長に挨拶。その後、同センター内にあるさいたまハウスへ向かった。



 さいたまハウスは、自宅から離れた病院に入院・通院している子どもの治療に付き添う家族のための滞在施設だ。家族の経済的、精神的、身体的負担を軽減しながら子どもと過ごせるよう、施設の運営費は寄付と募金でまかなわれており、1人1日1000円で利用できる。運営には200人近いボランティアスタッフが関わっている。




 今回の交流会には肝移植家族会の4家族が参加。西川と照内が姿を現すと笑顔と拍手で2人を迎え、選手と子どもたちがソファに並んで座って会話を楽しむなど温かいムードの中で交流が行われていった。




 ある家族は、お子さんがお父さんの肝臓をもらって移植手術を受け、お子さんは埼玉県小児医療センターに入院し、お父さんは近隣の病院に入院中。お子さんのきょうだいとお母さんがさいたまハウスを利用している。このように、どの利用者も家族みんなでがんばって病気の治療に励んでいる。



 子どもたちには西川と照内からサイン入りポスターやスパイクなどをプレゼント。子どもたちからはお礼に感謝や激励の言葉が書かれたメッセージボードが贈られた。中には素晴らしい腕前で2人の似顔絵を描いて持って来た子どももおり、メッセージボードや似顔絵を前に2人は参加者たちとの会話を弾ませた。




 全員が笑顔で記念撮影を終えると、まずは西川が「子どもたちに勇気や希望を与えるつもりが、いつも逆に子どもたちからパワーをもらっています。この良い関係を長く続けていきたいです」と挨拶。続けて地元さいたま市生まれの照内が、「自分はFWなのでゴールで皆さんと喜びを分かち合いたいですし、いつも僕らを応援してくださっている皆さんと、こういうところで触れ合うことでも感謝を伝えていきたいです」と話した。



 2人と交流した利用者は「子どもたちがすごく喜んでいて、きょうだいに会えない寂しさも吹き飛んだようでした。
こうして応援してくれる方がいるのはすごくありがたいです」「子どもたちが西川選手と手の大きさを比べたり、大きな体を見て格好いいねと言っていました」「このような形でパワーをいただけると頑張ろうという気持ちになります」と心からの感想を語っていた。



 西川と照内はその後、小児医療センター病棟へ移動し、入院中の子どもたちを訪問した。選手が病棟に到着すると、多くの子どもたちが笑顔で近寄ってきて、「試合、頑張ってください!」と積極的に声を掛ける様子が見受けられたり、レッズが好きという家族の方々が大喜びしていたり。看護師さんによれば「以前、西川選手の訪問をきっかけにリハビリを頑張るようになったお子さんもいました」とのことで、選手の訪問は治療をがんばる子どもたちやその家族にとって、大きな力になっているという。






 小児医療センターでは、西川と照内が病棟の一角に設けられたスペースで子どもたちと直接向き合いながら、一人ひとりに優しい笑顔と言葉を掛けて温かい交流の時間を過ごした。そしてハートフルカート(入院中の子どもたちやご家族をサポートするための日用品・おもちゃなどを無料で配布するカート)に乗せたプレゼントを子どもたち一人ひとりに手渡した。選手と会話している時の子どもたちの目はキラキラとしていた。

 また、交流スペースに来られなかった子どもたちのところにも西川と照内が直接病室に足を運び、交流を図った。



「ここに来ると、毎年会ってお互いに顔を覚えている子どももいて、『久しぶりだね』と声を掛けるとうれしそうにしてくれます。僕たちができることは微力ですが、今後も大事にしていきたい交流です」。西川はそのように言うと、さらに「きょうはレッズの将来を担う若手の照内が一緒に来てくれました。今度は彼がレッズの顔としてこのような活動を積極的にやり、中心となって引き継いでいってくれると期待しています」と語った。
西川によると「僕も若い頃に先輩方にいろいろな社会貢献活動へ連れて行ってもらい、プレー以外の活動の重要性を肌で感じていました」とのこと。

 照内は刺激を受けた様子で「こういった繋がりは本当に大事なこと。それをシュウ(西川)さんがずっと前から続けてくれて今があります。僕にできることもあると思うので、それを探してやっていきたいと思います」と意欲的に語った。



 また、照内は「地域のコミュニティや子どもたちとこのように交流することでお互いにパワーをもらえたり、与えたりすることができます。交流を深めることによって応援される存在にもなれると思うので、引き続きこのような関係を築けていけたらいいと思っています」とも話した。



 この活動は、西川自身が地域とのコミュニケーションを通じてさいたまハウスの存在を知り、そこから自発的に行動を起こしたこと、そして選手の思いを汲み取ったクラブが地域貢献活動として思いを具現化したことに深い価値がある。

 西川のこういった姿勢は若い照内の心にも響いている。「僕自身も、こういった機会を待つだけではなく、自分から行動していきたいと思います」と照内は自覚を込めて言う。

 最後に西川は「社会貢献活動を行うことで、自分が子どもたちに夢を与えるプロサッカー選手という立場にいるという自覚が深まりますし、責任を持った行動と試合で結果を残していきたいという思いが強くなります」と語った。そして、埼玉県立小児医療センターとさいたまハウスで行われる心温まる交流が、今後も継続していくことを願っていた。

文=矢内由美子
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