1日(現地時間)に行われたU-20日本代表とU-20チリ代表の試合では日本が得たPKに対してチリが行った“リクエスト”が却下された一方、日本がノーファウルの判定に対して行った“リクエスト”が認められてPK獲得に成功する一幕もあった。“リクエスト”が勝敗に直結する形になった例は他の試合でも起きている。例えば、キューバがイタリアと2-2で引き分けた試合も、キューバの得点は2点ともに“リクエスト”から生まれたPKだった。
このリクエスト方式の“FVS”はすでにFIFAの大会でも女子のカテゴリーでは採用されているほか、欧州女子チャンピオンズリーグでも実施されている。また、イタリアのセリエCでも実験的な導入が行われており、あらためて実戦の場で試行されている段階だ。このため、こうしたテストの結果を受けて細かいルールや運用法について、今後あらためて変化していく可能性もある点も留意しておくべきだろう。
まず、基本的な考え方はVARと同じ。判定が覆るのは「明白な間違い」や「見逃されていた事実」が判明した場合のみで、その最終決定の権限は主審にある。また適用されるのは「ゴール」、「一発退場」、「PK」、「人間違いで出されたカード」という4つで、これもVARと同じだ。つまり、例えばCKかゴールキックかの判定についてリクエストすることはできない。またゴールについては四審が映像を確認して主審にレビューを要請する場合もある(もちろん、主審によるレビューをチームがリクエストすることも可能)。
各チームにはあらかじめ2度のリクエスト権が与えられており、そのためのカードが配布されている。
VARと大きく異なるのは映像を常時監視して主審に助言し続ける審判員は不在ということ。VARが新たなレフェリーを必要としたのに対し、FVSはそれを必要としないわけだ。このため、VARに比べて大きなコストダウンが期待できるのが一つのメリットとなる。各チームのリクエスト権は2回(延長戦で+1回される規定もあり)だが、判定が覆った場合はこの回数を消費しない。つまり、判定が覆るようなリクエストであれば、理論上は無限に実行できるということである(そこまで間違えまくることはまずないと思われるが)。
VARの運用が審判側に依存していたのに対し、FVSはチーム側が“問われる”場面がしばしば起きる。試合を観ていると、選手がベンチに「いまのはPKだからリクエストしてくれ」と伝えている様子が観られるし、逆に「いまのは滑って転んだだけだからリクエストしないで」といったことも選手が素早くベンチに伝えるのも重要だろう。日本がチリから得たPKも、選手が素早くベンチに伝えていたそうだから、あくまで映像で見守っている立場だったVARに対し、より当事者の感覚が重要になる点が実際の運用面で大きな差になっているようにも感じられる。
日本のチリ戦でのPKシーンも一つの典型例だが、映像でパッと見ただけではハッキリ接触があったかよくわからなかったケースでも、倒された選手自身は当然ながら「足を引っかけられた」とか「ユニフォームを引っ張られた」といったことは認知しているものだからだ。
またボールと関係のない場所で起こったレッドカード相当のファウルはどうしても見落とされがちだが、当事者の選手がそれを認知できないということはまずあり得ないので、発見されやすくはなりそうだ。裏返せば、抑止力にもなる。選手側の主観的な感覚を伴う部分については“判定の精度”を向上させる強みがありそうな今回の方式。ただ、遠くの視点から映像を眺めていたほうがよくわかる事象については強みを発揮でない面もありそうではある。
仮に2022年のカタールW杯でVARに代わって導入されていたことを想像すると、いわゆる“三笘の1ミリ”のような微に入り細を穿つような事象は見落とされる可能性は上がりそうではある。ただ、そもそもの狙いが導入のコストを削減することで幅広くビデオ判定を採り入れられるようにすることなので、VARと比べて判定の精度が上がるかどうかにフォーカスするのは余り意味がないとも感じる。
最も重要なのは「ビデオ判定がない状況よりも判定の質が上がっているかどうか」で、これは今回のU-20W杯でも比較的実現できていそうである。また、ベンチや選手の判定に対する当事者性が上がったことで、よりサッカーという“ゲーム”の中に組み込まれている要素になったのも間違いのないところだ。レビューリクエストを“実質的なタイムアウト”のように使うことも可能ではあるので、そうした“戦術的リクエスト”も行われていくことになるだろう。
そもそも人間が下す判定の精度には限界があり、より高速化する現代サッカーへ審判の肉眼だけで対応するのは無理があるのは衆目の一致するところである。一方、VARは導入と運用に伴うコストの重さから、トップクラスの大会を除くと導入が難しい面もある。
文=川端暁彦