2023-24シーズンを持って現役を引退し、フランクフルトU-21のコーチに就任。その後、日本代表コーチを兼務するきっかけとなったのは、EURO2024で渡欧していた森保一監督との会話だった。「一緒に試合を観戦して、食事に行く機会があって、監督から『ぜひ』という話がありました。僕は正直話半分というか、本気だとはあまり思ってなかった」という。その後、日本サッカー協会を通じて正式な打診を受ける。「指導者に進んでこんなに早く日本代表に関われるなんて、もちろん全く想像していなかった。少し考えましたけど『やりたいのでぜひ』と、お伝えさせていただきました」と明かした。
日本代表のコーチングスタッフにはそれぞれの担当領域があり、長谷部コーチは斉藤俊秀コーチとともに、主に守備面を任されている。試合はスタンドから分析チームと一緒に観戦することが多く「ピッチ上とスタンドから見るのは全く見え方が違うので、無線でつなぎながらベンチに伝達する」役割を担う。「日本代表は指導者として経験する場ではないですし、勝つというのが大前提としてある。前田(遼一)コーチや僕のような若い指導者に対しても成長を促してくれる素晴らしい場所です」と充実感を語った。
長谷部コーチは選手として南アフリカ、ブラジル、ロシアの3大会のW杯を経験。“ザックジャパン”時代には、本田圭佑を中心に「W杯優勝」という目標が掲げられるようになった。あれから約10年、その志は脈々と受け継がれ、キャプテン遠藤航はW杯出場決定会見で改めて「W杯優勝」を宣言している。長谷部コーチは「当時との大きな違い」について「監督が示しているところ」だと語る。
「(アルベルト)ザッケローニさんは『もちろん自分も優勝したいが、自分たちの世界での立ち位置をしっかりと考えなさい。しっかりと地に足をつけてやっていかなければならない』というスタンスでした。それも一つのやり方だと思います。逆に今は監督がはっきりと優勝を公言しています。みんながそれを共有してやっているという意味では、大きく違います。今の日本代表が夢を見ているのかというと、そういうわけではない。W杯優勝するために、何をしなければならないのか。監督はそれを逆算してやっているなと間近に見させてもらって感じています。
指導者キャリアは2季目に突入。日本代表との兼務で長距離移動もあり、現役時代さながらのハードワークが続く。「昨日少し話題になってた言葉ですけど、働いて働いて働き倒しています(笑)。ちょっとでも時間があれば選手たちの映像を見たりしますし、自分自身これまで選手としてのサッカーの見方とやはり指導者としてのサッカーの見方というのは、全く別物になってきています」。サッカーに対する変わらぬ情熱を胸に、日本代表を支える長谷部コーチ。かつて描いた「W杯優勝」という夢を、現役選手とともに現実へと近づけている。