「安全・快適で熱気ある満員のスタジアム」

 浦和レッズがホームゲーム開催時において掲げている、クラブの理念である。その実現に向けて大切にしているのは、クラブが責任を持って環境を整えたうえで、スタジアム全体で安全なスタジアムづくりに取り組んでいこうという姿勢だ。
新シーズンを迎える前にいま一度、前年度を振り返り、クラブはさまざまな取り組みを行っている。とりわけ力を入れているのが、「命を守る」ための取り組みである。2025年の12月下旬には埼玉スタジアムのクラブハウスに日本赤十字社埼玉県支部の指導員らを招き、ファン・サポーター向けの救命講習を実施した。

 試合運営に携わる主管部門である競技運営本部の山本桂司さんは、その意図をこう説明する。「近年、夏の時期になると、スタジアム内でも熱中症で体調を崩される方が増えています。われわれ浦和レッズとしては、なるべく多くの方たちが互いに助け合って、人の命を守るような取り組みをしていきたいと思っています」



 昨年の夏、埼玉スタジアム内でもいくつかの事例があったという。体調不良を訴えた人のもとにはクラブスタッフ、警備員が駆けつけ、担架、車椅子で医務室に運ぶなどの迅速な対応が取られたが、もどかしい思いをするファン・サポーターもいたようだ。すぐ近くにいながら、いざというときに「何もできなかった」と。一般的に救急車の到着までに10分かかる。仮に心停止で倒れた場合、1分でも早い心肺蘇生とAEDを開始することで救命率は上がる。1分遅れるごとに救命率は10パーセント下がると言われている。今回の救命講習では赤十字社の指導員のもと、手当の基本、一時救命処置のレクチャーが行われ、心肺蘇生、AEDの使用方法をファン・サポーターに2時間近く実体験してもらった。




 講習を受けていたファン・サポーターからは、スタジアムでの緊急時を想定した質問も飛んでいた。屋外で雨が降っているときはどうすればいいのか。試合中で大歓声に包まれるなか、声が届かないこともある。狭い通路で救命措置が取れないケースもあるだろう。さまざまな状況を想定した問いかけに指導員は一つひとつ丁寧に説明し、クラブスタッフからも補足が加えられていた。埼玉スタジアム内では、安全確保の観点から、緊急時にはファン・サポーターのスマートフォンから直接、救急車は呼ばず、まず近くの警備員、クラブスタッフに知らせてほしいという。あわせて、来場者が確認しやすいよう、クラブ公式ホームページ内のスタジアムマップには医務室の場所、AEDも提示されている。

「試合前、ハーフタイムには、熱中症への注意喚起や気温などをスタジアムのオーロラビジョンでも案内しているのですが、その映像がいつ流れているのかなど、もっと周知していきたいと思っています」(山本)



 救急対応により力を入れるようになったのは、昨年8月9日の横浜FC戦での出来事がきっかけだった。アウェイのニッパツ三ツ沢球技場で試合中に観客席で急病人が出る不測の事態が発生し、試合は一時中断。浦和レッズのチームドクターがピッチを横切り、柵を乗り越えて、客席へ救護に向かった。迅速な応急処置で大事には至らなかったが、夏の安全対策について再考するきっかけの一つになったという。「あのような事態が起きたときに、自分たちに何ができるのか。
埼玉スタジアムではどうすべきなのか、と考えさせられた試合でした」

 浦和レッズは、以前からもあらゆる対策を講じてきた。昨年7月のFIFAクラブワールドカップではアメリカの会場を視察し、現地で行われていた取り組みを参考に、熱中症対策として今夏からウォーターサーバーを設置。さらにコンコースにある扇風機をミスト付きにするなど、細かい工夫も重ねている。予防策に力を入れつつ、医師、看護師、警備、運営スタッフと連携し、傷病者対応、救急救命体制も整えてきた。「医務室、ドクターの数を増やすなど、夏の医療体制は拡充させてきました」



 今後はホーム開催時だけでなく、アウェイのスタジアムで試合を行うときに相手クラブと連携し、情報を共有していくことも考えている。2026年はシーズン移行にともない、2月から明治安田Jリーグ百年構想リーグの地域リーグが始まり、夏からはまた新たなシーズンがスタートする。夏までにできることは、まだあるようだ。基本的な水分補給をしやすくする環境づくりもそのひとつ。従来の規制では難しい問題も柔軟な姿勢で臨もうとしている。

「快適なスタジアムづくりは基本なのですが、命を守る意識をもっと高めていきたいと思っています。人の命を守るためであれば、制限はなるべくかけないようにしたいです」

 冬の今だからこそ、浦和レッズは危険度の高まる暑い季節に備え、早くから準備を進めている。それらの取り組みは、クラブとファン・サポーターがともに作り上げる「スタジアムの安全」を形にしていくためのものだ。


文=杉園 昌之
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