女性たちの心の闇に売春の誘惑が入り込んでくる
売春をさせられていた側の女性たちの心情を聞いた。’23年5月からトー横に出入りしていた竹田理恵さん(仮名・18歳)は、売春をしながら、複数の「リアコ」に貢いでいた。「母子家庭で母親がずっと水商売をしていて、お金を稼ぐ大変さを知ってたから、すぐ『私が出すよ』て言っちゃうんです」
だが好意を寄せていたリアコの男性Aには他にも女がおり、「2人の貢ぐ額に10万円の差がついたら、低いほうを切る」と言われた。
結果的に“切られて”しまい、そのショックで広場で過呼吸を起こした際、介抱してくれたのが別の男性Bだった。Bとは肉体関係はなかったもののハマり込んでしまい、20万~30万円は貢いだ。
売春の報酬として一日5万~10万円を提示する男もざらにいたが、「好きな男から言われるなら、と自分を奮い立たせていた」という。
「ノルマを達成できなかったら、死ぬほど病んでました。好きな人に嫌われるのが、一番怖い。愛された経験がなくて、自分からは人間関係を切れないので」
振り返ると、貢ぐ価値のある男はほとんどいなかったというが、後悔はしていないという。
「たとえ好きな相手に騙されていたとしても、今が幸せならいい。
風俗勤務後に電子マネーを送金する日々
また、飯島早苗さん(仮名・42歳)は3年前、マッチングアプリで知り合った10歳下のアジア人に貢ぐため、本業と掛け持ちで風俗店に勤務していた。「彼は私と交際してからもアプリにログインしていました。問い詰めたら、『僕がお金なさすぎて、サナエチャンに捨てられるかと思ったから』と……。実際、彼の年収は私の3分の1程度。『私が風俗で働くしかないよ』と言うと『すごく嫌だけど、君と一緒になりたいから、我慢する』と言われてグッときてしまって」
飯島さんは、風俗勤務が終わるごとに電子マネーで彼に送金をしていた。
「送金は、彼が携帯でマッチングアプリを見るのを阻止する意味もありました。彼からは一応、『体大丈夫?』『お金貯まったら結婚したい』などとやり取りがあったので続けられました」
だが男は案の上そのお金で他の女とデートをするなどしたため、破局した。男たちは、女性の心の穴を巧みに突いてくるのだ。
偽物の愛で満たす関係が売春強要を生み出す
臨床心理士として30年以上活動し、宿泊型心理支援施設「JECセンター」で、ホストにハマり売春をさせられた女性の支援にも携わる佐藤矢市氏。佐藤氏は、女性に売春を強要する男たちの生い立ちにも共通点があると話す。
「彼らの多くは本音のぶつかり合いがなく愛情が希薄な家庭で育っており、心の奥底では親に憎しみを抱いています。そうした男性は成長するにつれ支配的・管理的特性を表し、自分の正しさを女性に押し付け思い通りにすることで、得られなかった愛情を埋め合わせようとするのです」
一方、女性も同じく十分な愛情を受けられずに育ったケースが多く、こうした支配性のある男に認められようとする。
「女性は男のプライドを逆撫でしないよう顔色を窺い、最初は程よい関係性を保とうとします。
本音を発露できるようになることが生き直しの第一歩
そうした男女が健全さを取り戻す唯一の手段は、「自分が大切にされているという感覚を満たすこと。そのために、円満な家族のように本音を語り合える人間関係を構築すること」であると指摘する。だが言葉でいうほど簡単ではないため、センターでは女性同士の共同生活やセラピーを通じて自己理解を深め、自身を自由に表現する機会を促しているという。
「自分を大人扱いしなかったり、所有物扱いした親に対する不満や怒りなど、抑圧していた本音に気づくことで生き直すきっかけになります。なぜ売春が悪いの?と言っていた女性も、就職に必要な資格を取って卒業していきました」
心の問題を一朝一夕に解決することは難しいが、せめて売春強要の共依存関係で得る安心感や愛情は偽物であることを知っておくべきだろう。
【心理支援者・佐藤矢市氏】
元臨床心理士(高齢のため資格を返納)。宿泊型心理支援施設JECセンターを創設。「SPA!を見た」と言えば初回相談料無料
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[売春強要する男]の卑劣な実態]―