母親に管理されたいびつな暮らし
子どもの将来を考えた“親心”が、ときに家族崩壊の入り口になることがある。「幼少期から母親に『東大に行け』と言われていました。家は汚くてぐちゃぐちゃでも、勉強をしていれば思考停止もできた。それで勉強に逃げていました」
そう話すのは、平日は出版社に勤めながら、漫画家として『汚部屋そだちの東大生』(ぶんか社)などの著作も持つハミ山クリニカさん(30代)だ。
「現役時は東大に落ちて東京藝大に入学したんですが、母から『芸術なんて、不安定でしょ?』と言われ東大の再受験を決めました。社会人になってもお金関係はすべて母に管理され、自分の給料も知らなくて。子の行動を親が決めるのは当たり前と思っており、母から独立する考えが、長いこと持てなかった」
操り人形のような人生から抜け出せたのは、知人の助言がきっかけだった。
「『家なんて簡単に借りられるよ』と教えてもらい、内覧から契約まで世話してくれたんです。流れに乗ってそのまま家を出ることができました」
家を出ると同時に、母の呪縛は解けて、連絡を絶った。現在は結婚して、2児の母でもある。
「子を育てる中でも、自分も親のようになるんじゃないかという恐怖心が出てきたり、親の影響で生活上うまくいかないことは今も多くあります。家を出たからといって何もかもがうまくいくわけではないとも強く感じます」
親の側から子に距離を取るケースも
他方、親の側から子に距離を取るケースもある。「東大卒の父の影響か、母は『一番』に固執していた。塾の成績が下がると、夜通しで説教されました」
家を出て結婚して以降は関係性が一時安定していたが、昨年、週刊誌の取材を受け母親について話したところ、その後、母からは「もう会えません」と連絡があったという。
「子どもが生まれて『母が同じことを孫に繰り返すかもしれない』と新たな懸念が生じて、私からも距離を置こうと考えていた。なので、絶縁は避けられなかったと思う」と、にこやかな表情で語る。高学歴は何かと世間で羨望の的になりやすい。だが、その裏で時に親子関係が犠牲になっていることは、もっと知られていいはずだ。
【漫画家 ハミ山クリニカさん】
東京藝術大学中退、東京大学理学部卒。出版社に勤めつつ漫画を執筆。近著に『なんで私が不倫の子』(竹書房)など

慶應大医学部中退。夫と共に夫婦でYouTubeチャンネルを運営。

―[[家族をもうやめた]人の肖像]―