世の中には、率先して人がしたがらない職業がある――。生半可な気持ちでは務まらない過酷な仕事をなぜ続けられるのか。
超売り手市場の人材がすぐ辞めていく時代において、人が辞めない秘訣は、珍しい仕事現場にこそあった!
今回は万引きGメンの仕事に密着する。

万引き件数はこの5年で過去最多を更新

保育士から“万引きGメン”に転職した40代女性が語る、仕事の...の画像はこちら >>
’24年の東京都内の万引き件数は、認知件数1万1422件、検挙件数6583件と、この5年で過去最多を更新した(警視庁調べ)。理由は物価高騰のほか、セルフレジ、マイバッグの普及も背景にある。監視の重要性が増す中で、万引きGメンのやりがいとは何か。都内のロス対策専門会社「エスピーユニオン・ジャパン」で行われる研修に足を踏み入れてみた。

強面で屈強な男性が多いかと思いきや、参加者には女性の姿が多い。その中の一人、小泉登紀子さん(仮名・40代)は、万引きGメン歴15年の大ベテランだ。社内階級制度でも上位に属する彼女だが、意外にも前職は保育士だった。

店内を歩き続け客を観察する緊張感

保育士から“万引きGメン”に転職した40代女性が語る、仕事のウラ側「声を掛ける瞬間はやはり緊張します」
万引きGメンの研修の様子。警備業法では新人に限らず、同社に所属する社員は定期的に受講が必要。参加者は話に聞き入っていた
今では歴戦のGメンも、仕事を行う上での過酷さを感じているという。

「体力面、精神面どちらも疲れを感じます。1回の勤務は1時間休憩を挟む8時間労働ですが、基本的に店内を歩きっぱなし。訪れる客をくまなく観察し続けるので、目も疲れます。いざ犯人を見つけても、声を掛ける瞬間はやはり緊張する。精神的にも負担がありますね」

疲労も感じる一方で、10年以上仕事を続けているのは、業務内容に面白さを感じているからだ。


声をかけた万引き犯の更生に関われる喜び

「事務所で万引き理由を聞くと、その人なりのドラマが見えてくることも多い。人の人生を垣間見られるのはこの仕事ならではです。ほかに、万引きを取り締まって店舗の利益に貢献できたときも達成感があります」

中でも喜びを感じるのは、更生の瞬間を目の当たりにできることだと言う。

「本来、万引きを取り締まるとその人はその店には二度と来ないため、店側の機会喪失になってしまいます。ただ、なかには改心してお客さんとして再び来てくれるようになることもある。説得に成功できた喜びは、大きなものがありますね」

万引きGメンという事業を始めたきっかけ

保育士から“万引きGメン”に転職した40代女性が語る、仕事のウラ側「声を掛ける瞬間はやはり緊張します」
「こんな会社が長年存続しちゃいけない」と語る代表・望月氏
同社代表の望月守男氏にも話を聞いた。万引きGメン事業に目をつけたのは、若かりし頃、商品をカゴに入れてレジで精算するセルフ形式の店舗で買い物をした時に、数分の間に3件の万引きを目撃したのがきっかけ。「店の商品が盗まれ放題では成り立たないので、力になれたらと思いました」と話す。

仕事の仕方を一つ間違えれば、クライアントである店舗の信頼を失い、最悪の場合、訴訟に発展する可能性も否めない。「Gメンの力量に左右される面が大きいですが、スタッフたちは皆仕事熱心で、スキルアップを惜しみません」と、望月氏は言う。その仕事が、捕まえた相手の人生にも影響を与えていく。世間から見えざる、万引きGメンという仕事の喜びを垣間見た気がした。

辞めないポイント

①他人の人生ドラマを目撃
②悪人を捕まえる高揚感
③相手が改心し再来店も

<取材・文/週刊SPA!編集部>

―[珍仕事の[人が辞めない]秘訣]―
編集部おすすめ