インタビュアーは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。水野さんは出版プロデューサーとして数々のヒット作を世に送り出し、自らも作家として多くの書籍を出版している。
今回は、YouTuberヒカルのビジネスパートナーで、複数事業を展開する入江巨之さんをインタビュー。登録者100万人を超える錚々たるYouTuberをプロデュースしてきたYouTube業界の仕掛け人でもある。現在は株式会社サムライパートナーズの代表取締役CEOを務める入江さんのインタビュー後編をお届けする。
YouTuberビジネスの躍進には「サポーター」がいる
水野:現在ではヒカルさん以外にも、多くのYouTuberのプロデュースをされていると伺いました。
入江:はい、YouTuberって動画制作をしつつ、同時にビジネス展開をしていかないとパフォーマンスが発揮できないんですね。ですが、露骨にビジネスを押し出すと、チャンネルのファンからどうやってお金を引き出すかという話になってしまう。それが動画から透けて見えたら、ファンは離れていってしまいます。
水野:バランスが難しいですね。
入江:これができる人は、なかなかいないと思います。それならいっそ、YouTuberはビジネスのことなんか考えないほうがいいと思うんです。
水野:そこに、ヒカルさんと入江さんの成功の秘訣があるんですね。
入江:役割を分けているというのもありますし、やはりヒカルさんの売る力は群を抜いています。単純にモノを売ることを考えると、今はヒカルさん以上の人はいないんじゃないでしょうか。
例えば、ある1週間のヒカルさんの売上が、約10億円だったんですね。ReZARDのeコマースの売上が5.3億円、ストーンマーケットがeコマースで2億円、店舗で3億円で、合計10億円。ものすごい実績だと思います。
水野:ReZARDは入江さんがヒカルさんとやっている会社ですよね。
入江:そうです。もともとアパレルとコスメの販売サイトで、今はサプリメントも手がけています。ひとつの柱としてはコスメのサブスクですね。
水野:客単価が1万円として、だいたい3億円くらいでしょうか。
入江:コスメとは別にサプリメントもあって、そちらでも3億円の売上があります。他のビジネスとあわせると、ヒカルさん一人でとんでもない規模まで拡大しています。
水野:驚異的な数字です。
入江:そうです。150億円の売上で、利益は折半。一人でこんなに儲けられる人は、テレビに出ている有名タレントの中にだって一人もいません。ケタ違いの成果を出せているこのビジネスモデルは、たぶん誰にも真似できないという確信があります。
水野:YouTube番組と言えば起業リアリティショー「Nontitle」(ノンタイトル)がすごく話題になっています。
入江:社会的にアントレプレナーを目指す若い世代が増えている中で、実際に起業する際のリアリティが伝わるコンテンツを作りたいと思ったのが始まりですね。
水野:「Nontitle」のNECパーソナルコンピュータ版、「Nontitle PROJECT LAVIE」についてお聞きします。
入江:NECパーソナルコンピュータさんからも「過去に類を見ないようなプロモーションだった」と言っていただきました。特にZ世代の獲得がNECパーソナルコンピュータさんの大きな課題だったみたいですが、それが一気に達成できましたそうで、とても喜んでもらえたんです。
水野:具体的には、どういった点が従来と違ったのでしょうか?
入江:「のすけ」というZ世代のメンバーが「自分たちが買う側の目線で『必要か不要か』を真剣に考えた」と言っていました。通常は大企業側が「これがいいんじゃないのか?」という仮説で作っていたものを、同時代のユーザー目線で考え抜いたからからこそ響いたのかもしれません。
水野:これまではテレビCMが圧倒的に強かったと思いますが、テレビとYouTubeの影響力についてはどう見ていますか?
入江:年齢層で違うと思います。テレビは中高年層、YouTubeは20~40代の圧倒的支持を得ています。だから「どっちが上か下か」というより、「一緒に組んでやったほうが得策」だと考えています。
ヒカル氏との関係、財務省解体の番組

入江:ヒカルさんはとても賢いし、影響力の使い方がすごくいい方向に向かっている気がします。単純な金儲けとかではなくて、世の中にいいことに影響力を使いたいって本気で思っているので、最近。僕は炎上して沈んでいる時から一緒にいるので。どんどん人間的に成長していくのが、見ていて楽しいですね。
水野:最近はヒカルさんが、(予備校「武田塾」の元塾長で令和の虎としても知られる)林尚弘社長と「財務省解体デモ」についての動画をアップしたことも話題を集めています。
入江:最初に「政治について発言したらどうか」と提案したのは、実は僕なんです。なぜ始めたかというと、僕たちの人生ってバトンの受け渡しのリレーをやっているようなものだと思うんです。今、世の中を変えたいと思う人たちを増やすことが、今後の日本にとってはすごく重要だと感じていて。だから今、最後の変わるチャンスなんじゃないかなと思っているんです。
水野:ヒカルさんの番組でよく登場する林尚弘社長についてもお聞かせください。
入江:ヒカルさんにとって林社長は、すごく良い存在なんだと思いますよ。林社長の政治に関する発言が少し叩かれたりしていますが、二人とも意見が一緒では、会話も番組的にも成り立たないじゃないですか。だからヒカルさんからしたら、林社長は真逆のことを言うから便利で面白いんだと思います。
水野:入江さんから見た林社長はどんな人ですか?
入江:お金儲けの天才でもあるけど、僕とタイプは違いますね。僕は長期的というかブランディングを考えるのが得意なんですが、林社長は短期型。たぶん、僕がブランディング8でお金儲け2なら、林社長はブランディング2でお金儲け8かもですね。
水野:わかりやすいたとえです。
入江:ものすごく良い人ですし、頭がとにかく良いですね。ただ、お金の使い方がちょっと変わっているだけですね。
水野:宵越しのお金はもたないタイプですね。
20社を超える事業を展開。海外展開にも挑む
水野:最近、入江さんは海外にも行かれていますが、それもビジネス展開を考えてのことなのでしょうか。入江:はい、僕は日本だけではなく、海外を相手に稼いでいくことはずっと考えています。僕たちが強いアパレルやコスメを商品にしていきたいですね。ただ、海外では文化なども違いますから、リサーチやマーケティングを丁寧に進めていかなければなりません。
今は海外のマーケットを見ながら、ビジネスをどう展開していくか、現地の人たちも含めて話し合っている段階です。実際、展開していく際には現地企業を買収し、一気に進めていこうと決めています。
水野:その際のマーケティングにはYouTuber活用もされるのでしょうか?
入江:はい。せっかく世界中にYouTuberがいるんですから、現地のYouTuberとコミュニケーションを取って進めていくほうがメリットは多いですよね。
水野:マーケティングにおいてはその国独自のノウハウもありそうですもんね。また、他にもホテル事業や焼肉店の経営もされていると聞きました。
入江:はい。ホテル事業はかなりうまくいっていて、昨年も20%くらい売上がアップし、同時にコストダウンもできました。つまり、ホテルの回転率が上がり、利益率もよくなっているということです。これは「自分たちにホテル事業を成功させるためのノウハウが蓄積されてきている」ことを意味します。現在、都内で20億円から30億円くらいの建物のホテル展開も視野に入れています。
水野:まさにケタ違いですね。
入江:また、六本木にある「Queue(宮)」という焼肉店も経営しています。日本で一番タレントがいる焼き肉店という噂になっていまして。席の半分ぐらいが有名経営者やタレントさんなんていう時もあるようです。

入江:あまり知られていない話ですけど、日本のポーカー業界も今、僕が切り開いているところです。「ワールドポーカーツアー」(WPT)という、世界三大ポーカー大会の一つを2024年12月に日本で開催しました。

入江:今後おそらくはカジノ建設が国内でも進んで行くと思うのですが、まずハードウェアは大手企業が押さえることになるため、入り込む余地がありません。しかし、ソフトウェアであれば、ベンチャー企業でも参入の余地がある。そこで数億円規模の投資を行っておけば、何らかの事業につながるだというという見込みからです。将来の展開に向けた布石を打っているところなんです。
ビジネス展開と同時にDJや音楽活動にも全力投球
水野:プライベートの話になりますが、DJ活動をされていると聞きました。入江:ええ。僕は10代から仕事を始めたので、遊んでしまったら成功しないんじゃないかという危機感があって、脇目もふらずに仕事ばっかりをやってきました。ほとんどプライベートを無視してビジネスに取り組んできたんです。
水野:はい。お話を聞いていると、ビジネスにストイックに取り組んできたんだなと感じます。
入江:最近、自分がやりたかったことが全然できていないことに気づいたんです。まだ30代ですが、どんどん年を取っていきますよね。そう思ったら、自分のやりたかったことをやったほうがいいんじゃないか、と。昔、バンドをやっていたときもあったのに、「仕事が忙しいから」と仕事を言い訳にやってこなかったんですよね。
水野:それで音楽活動にも力を入れているんですね。「Nontitle」のエンディング曲で入江さんの曲が使われていましたよね。
入江:そうそう(笑)。DJから音楽も作るようになって、けっこう本気で取り組んでいます。

入江:2024年12月には代々木第二体育館でライブを開催しました。今年の6月は幕張で「World DJ Festival JAPAN 2025」を開催します。今後も音楽活動は本気で取り組んでいきたいですね。
水野:幕張にはぜひ私も行かせてください。そう言えば、なんでも入江さんは猫を飼っていて、お酒もそんなに飲まないと聞いています。
入江:昔はたくさん飲んでいましたが、今は仕事に熱中するためにかなり控えてますね。夜はなるべく早く帰って猫と遊んでいます。夜はキャバ嬢と遊ぶより、3匹の猫ちゃんと遊んでいるほうが断然楽しいんです。


入江:僕のミッションは「企業と個人の可能性を最大化し、業界の常識を超えて日本の未来を創造する」こと。大企業と個人の間は絶対的な隔たりがありましたが、今は個人がSNSで大企業を動かすような時代ですよね。 僕たちはその“仲介役”のような立ち位置を担いたい。
ビジョンとしては「日本でナンバーワンのマーケティング・エンターテイメント・カンパニーを作る」です。バリューは以下の3つです。
①スピード(Speed):時代の変化の先を行くスピード感
②創造性(Creativity):既成概念にとらわれず、『新たな価値』を創り続ける
③成超(Growth):能力向上と効率化でROIを高める
現状維持はマイナスだと考えていて、これは社内にも強く言い聞かせていますが、PDCAをしっかり回し続けます。その結果は視聴者やユーザーが判断してくれると思っています。
水野:今後の目標は?
入江:ここ数年の目標は「売り上げ1000億円」です。1社で1000億円はかなり難しいので、トータルで売上1000億円の規模を目指しています。正直、かなり難しい数字だとは思いますが、だからこそ大きく動かなくてはならないと思っています。
水野:非上場で1000億円ということですね。「やらなくちゃいけない」というのはおっしゃる通りですけど、「日本でそういう規模のベンチャー企業がもっと生まれてこないと」という思いもあるのでしょうか?
入江:僕も常々、イーロン・マスクみたいに組織を壊してでも戦える人が出てきてほしいと思っています。国際的な資本を持ったプレイヤーがどんどん攻めてきているのに、日本国内ばかりで争っているのは、たとえるなら「スラムダンク」で全国制覇を目指しているのに部内で殴り合いをしているようなものに見えるんです。
水野:今の“非上場で1000億円”という話に関連して、「上場を目指すのを辞めます」という動画も先日アップされましたね。
入江:簡単に言うと、YouTubeをやっていく身として、自分たちで自分たちの発言に規制をかける環境に行くのはリスクだと思ってやめたんです。視聴者も、僕たちが上場することを本当に望んでいるかといえば、そうではないと思うんです。視聴者ファーストだけを考えたとき、僕たち個人のメリットはあっても、視聴者にとって僕たちが上場するメリットはあまりないですよね。
要するに、視聴者のメリットを最大化するために上場しない選択をしたんです。単純に、もし上場したら僕たちは大金持ちになれる可能性はありますけど、視聴者が得るメリットは正直ゼロに近い。だったら、視聴者と一緒に未来を作るほうを選んだほうがいいという話なんです。
水野:なるほど。IPOして資産を増やすよりも、今応援してくれている人たちとの未来を大事にしたい、ということですね。
入江:そうですね。お金を持つだけより、視聴者と一緒に未来を作るほうが、結果として視聴者ファーストにつながる。僕たちを応援してくれているのは、今まさに見てくれている視聴者ですから。
彼らに対して何が最適なのかを考えたら、「上場しないほうが僕たち自身の未来にとってもベストなんじゃないか」という話を実際にヒカルさんとしました。YouTubeで自由に動けなくなるよりは、今のまま視聴者と面白い未来を作るほうが絶対いいと思ったんです。
水野:最後に、改めて経営者としての信念を聞かせてください。
入江:“競わない経営”を心がけています。他者との競争ではなく、自分たちのビジョンの実現に向かって進んでいく。それが長期的な成功につながると信じています。
今後もYouTubeというメディアを最大限に活用しながら、今取り組んでいるビジネスも大胆に展開していく。その両輪で、これからも常に新しい価値を生み出し続けていきたいと考えています。
「インタビュー後の感想」(水野)
会う前は「YouTube界の秋元康氏」みたいな人物かと思っていたが、実際は業界人というよりはビジネスマインドを持ったマーケッターという印象。ただ発言から「日本を変えよう」という強い想いが伝わってきて、まるで維新の志士と話しているようにこちらも感化されていった。この人間力も多くの人を巻き込んで世の中を動かしている原動力なのかもしれない。
【プロフィール】入江巨之

<取材・文・構成/水野俊哉・高橋真以・掛端 玲>
【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。