ゴールデンウィークを迎えて、出社するのがすこし億劫になる頃。
「でも、就活で苦労して入った会社をすぐに辞めるわけにはいかないだろうって……」
こうして新入社員たちは精神的に追い詰められていく。
村上咲良さん(26歳)は新卒1年目のとき、なかなか職場に馴染むことができずに休職。まさに絶望の淵に立たされた。
「会社を辞めたらキャリアも収入も途絶えて、もう私の人生終わりだなって思っていました」
だが、新卒で入社した会社を辞めても、そこで“人生終わり”ではないのだ。むしろ、“新たな可能性”が開けることもある。
その後、村上さんは「2024ミス・ジャパン」に岐阜代表として出場し、準グランプリを獲得するなど、大きな成功を掴んだ。現在は、IT企業「アローサル・テクノロジー株式会社」に正社員として勤めつつ、モデルやスピーチ講師、Webライターなど、フリーランスとして多方面で活動している。
今回は、そんな村上さんが新卒でつまずきながらも一念発起して自分らしい働き方や仕事を見つけるまでの軌跡に迫った。
新卒1年目で休職、約半年間ひきこもり生活に
2022年、村上さんは大学を卒業後、業界大手の金融系企業に入社。しかし、入社前に思い描いていた仕事の内容とのギャップや人間関係に苦戦した。「まわりの同期たちは頑張って働いて、毎週金曜日になるとその頑張りを労う飲み会を各々で開いているのがSNSで流れてきました。
同期たちの楽しそうな様子を見るたびに自己嫌悪に陥り、ついには全員のアカウントをブロックしてしまったほどだった。そして、1年目が終わる頃には適応障害を発症して休職することに。
休職期間中は、家族が住んでいたベルギーに渡った。だが、言葉の壁もあり、約半年間ひきこもる生活を送っていたという。
「外に出る気力もないし、言葉も通じないので。毎日、毎日、泣いてベッドに横たわって、お腹が空いたらUberを頼んで、お腹がいっぱいになったらまた寝るみたいな生活です。本当に自分のことが嫌いになっていましたね」
自分を好きになるために「2024ミス・ジャパン」に挑戦

「履歴書にも傷がついてしまうし、ここで止まっていた時間を取り戻さないといけないと思いました。自分自身を好きになれるように、なにか大きなことを成し遂げたくて」
ちょうどその頃、SNSに「2024ミス・ジャパン」オーディションの参加者募集が流れてきたのだ。村上さんは「これしかない」と思って応募した。
学生時代にモデルのアルバイトの経験があった。
「自分の姿を鏡で見て、最初は外に出るのも恥ずかしかったんですけど、目標が明確になっていたので、あとは“やるしかない”って。ここで結果を残せないのであれば、きっと何者にもなれないし、自分のことを嫌いなままだなって、覚悟を決めたんです」
“人生は変えられる”って確信した

「驚きましたが、神様が自分を好きになるチャンスをくれたんだなって。遺伝子検査をして、いちばん効率的に痩せられるプランを立てて。毎日5キロ歩いたり、食事制限をしたりして約2か月で8キロのダイエットに成功しました。SNSに今日どんなことをしたのか、『ミス・ジャパン』にかける想いとか、毎日投稿していたのですが、まわりから“見える”ようにすることも大事だと思いました。やらなきゃって意識になるし、応援してくれる人も出てくるので。
本番ではセカンドセッションでダメかもしれないとも思ったのですが、通過者の5人として最初に“ミス岐阜”って呼ばれた時点で、“人生は変えられる”って確信しました」

正社員として働きながら“好き”も叶える「3本の軸」
「去年は本当に激動の1年間だったと思います。あのとき頑張っていなかったら、私はまだベッドに横たわっていたかもしれません。まさに“人生の転機”でしたね。たぶん遠回りをしたけど、そのおかげで『ミス・ジャパン』を受けることになって、いろいろと挑戦することになって“今”がある。そう考えると、むしろ遠回りをした時間がすごく尊いなって思えます」
ミスコンでの成功を経て、村上さんは自身の経験が活かせる仕事を探し始めた。そして出合ったのが「広報」という職種だった。昨年12月、IT企業「アローサル・テクノロジー株式会社」に入社すると、未経験にもかかわらず、広報部門の立ち上げを任されたのだ。
「コンテストで培った自分をPRする力が、広報の仕事とすごく親和性が高いなと思ったんです」
AI技術の社員研修・コンサルティング、AIシステム構築などを行っている会社だが、村上さんはプレスリリースやメルマガの作成、AIツール攻略メディア「WA²(ワッツ)」の運営なども行っているという。
それだけではなく、現在は次の「3本の軸」で仕事をしているとか。
①IT企業の広報担当(正社員)
②Webライター(フリーランス)
③モデル・スピーチ講師(フリーランス)
「弊社の定時が10時から19時なので、平日その間は正社員として業務に専念します。19時以降はWebライターの仕事です。もともとは、前の会社を辞めたときに劣等感を抱いて『とにかく自分でお金を稼がなきゃ!』って、クラウドソーシングサイトに登録したのがきっかけです。
たとえば、転職サイトの記事などを書くのですが、22時ぐらいまでには1本完成することが多いですね。最初は記事単価300円でやっていましたが、今は実力が認めてもらえて、それなりのお金が稼げるようになりました。だいたい月10本~15本程度はつくります。
これに週末はモデルやスピーチ講師の依頼が入ってくるのですが、“収入のため”というよりは、本当に“好きでやっている”って感じですね」
なかなかのハードスケジュールに思えるが……。
「休職していた頃に暇でやることがないと逆に苦しむと知ったので、その反動でなるべく忙しくするようにしていますね」
「いつでも辞めて大丈夫だよ」

「広報部門が立ち上がってからうちの会社の成長スピードが上がった、自分の入社が上場にあたってターニングポイントになっていたって、将来言わせたいですね。
あと、これからはAIの時代ですが、“人”が大事になると思っているので、自分自身の発信力をつけていきたいと考えています」
最後に村上さんは、今悩んでいる新入社員たちに向けてメッセージを送る。
「限界を感じている新入社員には『いつでも辞めて大丈夫だよ』って教えてあげたい、1人ひとりに声をかけてあげたいぐらいです。そこで人生終わりじゃないし、ぜんぜん巻き返せるし、今逃げても問題ないんです」
人生は長い。大切なのは、自分と向き合い、自分に合った仕事や働き方を見つけること。そして、それに向かって一歩を踏み出す勇気を持つことなのかもしれない。
【村上咲良】
Instagram:@sakura_ichiki
X(旧Twitter):@sakura_ichiki
<取材・文/藤井厚年>
【藤井厚年】
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌・書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。