腕や肩口に刺青を入れ、新宿・歌舞伎町のBARに勤務する女性がいる。何より目を引くのは、左太ももに彫られた幾何学的な模様だ。
あおこさん(@love_laur_)、23歳。「美容整形をしています、“課金額”は200万くらいだと思いますが」と、さらりと言ってのける謎の美女の半生に迫った。
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『まどか☆マギカ』モチーフの刺青が

 美人にありがちだが、つんとした印象を持たせる。抜群のプロポーションも、その冷淡そうな印象に一役買っている。だが話してみると、そのイメージは霧散した。あおこさんは、自他ともに認めるオタク。『魔法少女まどか☆マギカ』が大好きなのだと無邪気に語った。

「身体に入っているもののいくつかは、同作からインスピレーションを得て入れています。特に左の太ももに入れたのは、私が大好きなキャラクターをモチーフにしているんです。『魔法少女まどか☆マギカ』の世界は転生をテーマにしているのですが、私が好きなそのキャラは主人公を心の底から愛していて、何度も救おうとしては失敗を繰り返して、転生するんです。どうしても主人公を救うことができないので、最後は自分を犠牲にして望みを達成する――そんな健気で一途な性格なんです」

夜職を転々…実は過保護な環境で育った

「刺青は母に対するささやかな復讐」夜職を転々とする23歳女性の壮絶半生。将来の展望は「ない」
コンカフェでも働く
 そう熱く語る左太ももの刺青は、1年ほど前の誕生日に入れたのだという。東京出身であるあおこさんは20歳のときに家を出て、さまざまなアルバイトを転々とした。

「居酒屋、遊園地バイトから始まって、夜職と呼ばれるものも結構経験しました。キャバクラ、ラウンジ嬢、ガールズバー、変わり種では『ノーブラTバックのガールズバー』なんかもやりましたね(笑)。
あとはコンカフェ、出会い系のサクラとか、アイドルもやってました」

 自らの力で生き抜こうともがくハングリー精神に舌を巻くが、意外にも育ちは“箱入り”といっていい。

「両親が45歳くらいのときにできた子どもでしたから、かなり過保護に育ちました。父は家のことに関心がない人でしたが、母は私にさまざまな習い事をさせたり、とにかく干渉したがる人。母はヒステリックな教育ママといった感じでした。小学校のときは、クラシックバレエ、エレクトーン、ピアノ、英会話、料理、水泳、そして、中学受験塾です」

中学受験に失敗し、母親が目の前で自殺未遂…

 自らの分身である娘を磨き上げるように、母親はあおこさんに投資を惜しまなかったのかもしれない。だが必ずしもその期待に応えられたわけではなかった。

「結果的に言うと、中学受験は失敗して、公立中学校に進学することになったんです。もともと、私は勉強ができないんですよ。通っていた塾の先生からも、三者面談で『こんなに勉強のできない子はまずいです』と言われて。それがきっかけで、家に帰ってからヒステリーを起こした母が自分のお腹に包丁を突き立てて、私の目の前で自殺未遂を図りました。『お前が金食い虫なんだよ!』みたいなことを叫んでいたように思います」

 母親の言動は常軌を逸しているが、当時のあおこさんは気がついていない。

「自分がバカなのが悪いと思っていました。怒られるのはもちろん嫌でしたが、自分の家の母親がおかしいとは思っていなかったと思います。
中学受験に失敗してからは、母も『こいつはもう何をやらせてもダメだ』みたいな態度になって、並行して習っていたクラシックバレエに力を注ぐようになりました」

一番嫌だったのは「所有物を捨てること」

 果たしてその判断は奏効した。中学時代、クラシックバレエでの入賞経験があったあおこさんは、高校に推薦入学することができた。だがハッピーエンドで話は終わらない。

「小学生のときはわからなかったけれど、中学生くらいになると自分の家がおかしいことに気づいてきて。体罰こそなかったものの、一番嫌だったのは、勉強や習い事で結果が出せなかったときに罰として私の所有物を捨てることですね。洋服や化粧品に興味が出てきた頃だったので、『こんなのを着ていたら本当に病んでしまう』などと口出しをされるのも我慢できなかったです。

 昔からのそうした積み重ねがあって、とうとう爆発して、家出をしたりしていました。高校生になるとコンカフェでアルバイトをして、自分でお金を稼ごうと思ったんです。ところが通っていたのが校則の厳しい女子校だったもので、アルバイトは禁止。学校側の知るところとなって、停学処分を食らい、そのまま退学しました。通信制高校に行くことにしました」

両親とは、ほぼ絶縁状態…

 現在、両親とはどのような関係性なのか。

「20歳のときに家を出たとき、絶縁する覚悟で飛び出しました。そこから、母とはたまに連絡を取ることはあるものの、あまり生活には関係ない存在だというのが本当のところです。父とは高校生の終わり頃から険悪になって、まともに口を聞いていない日が続きました。
つい最近、大病をしたらしく、『どうしても来て』というのでお見舞いには行きましたが、それ以降何も音沙汰はありません。何かにつけて私を監視したい母は、私のSNSを特定して刺青を入れたことを知ったようで、泣いていました。ピアスや染髪も許せないような人ですから、そうでしょうね」

展望は「ない」「はやく死にたい」

 BAR店員としてSNSでも徐々に知名度を上げてきているあおこさん。これからの展望を聞くと、「ないです」と即答した。続けて、「昔から、はやく死にたいと思っているんです」とも。だが人生に絶望した人が、整形や刺青で自らの容姿を磨き上げるだろうか。すると、答えは意外なものだった。

「私はずっと母から『可愛くない』と言われて育ったので、自分の容姿に自信が持てなくて。隠れて洋服や化粧品を買っているのがバレたとき、母は『あんたは可愛くないから化粧しても無駄』などと言われて、それがすごくショックでした。だから整形をしたり刺青をしたりして、今の私が思う“可愛い”をとことん追求することが、母に対するささやかな復讐でもあるんです」

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 欲望が入り乱れる、猥雑な街で酒を提供する美女の心の虚空。取材の最後、あおこさんは、「来月もまた、目の整形をしようと思って」と笑った。自らの美を、行けるところまで追求して、散るときは潔く。
悲しくも美しい彼女の半生が、どこかで光り輝きますように。そう切に願う。

<取材・文/黒島暁生>

「刺青は母に対するささやかな復讐」夜職を転々とする23歳女性の壮絶半生。将来の展望は「ない」
あおこ


「刺青は母に対するささやかな復讐」夜職を転々とする23歳女性の壮絶半生。将来の展望は「ない」
あおこ


あおこさん

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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