見ず知らずの人同士が同じ空間にいるのであれば、周りに迷惑をかけないように過ごすのがマナー。
地元から帰る際に起こった出来事
数年前、山田吉子さん(仮名・57歳)は地方に住む母の看病で長崎と東京を往復する日々を送っていた。だが、その日は仕事の都合で泣く泣く東京に帰ることに。「いよいよ母を看取る時期に入り、当時はよく飛行機を利用していました。長崎に住む兄弟たちと一緒に看病していたのですが、私だけ関東に住んでいて頻繁には会いづらい環境で歯痒くて……。本当はずっと一緒に居たかったのですが、どうしても外せない仕事があり、一時的に帰ろうとしていた時のことです」
しかし、感傷に浸る暇もなく事件は起きた。
機内で騒ぎだす中国人女性の集団
「飛行機が出発する間際、ドタドタドタッと、中国人のおばちゃん4、5人が機内に駆け込んできたんです。なんとなく嫌な予感がしました。楽しそうな雰囲気ではあるのですが、とにかく声が大きかったんです。預ければいいのにと思いましたが、時間がなかったんでしょうね。両手にはパンパンのお土産の買い物袋を抱えていて。乗客がほぼ座り終えているなか、わちゃわちゃと無造作に棚を開けて荷物の出し入れをし、かなり目立っていました」山田さんの嫌な直感は見事に的中してしまう。
「あろうことか、彼女たちは私の前後と隣の席に座ることに。よほど旅が楽しかったのか、大声でぺちゃくちゃと喋ってかなり騒がしく……。
不運なことに、山田さんは騒がしい中年の中国人女性の一行に囲まれてしまったのだ。そのあまりの騒がしさに周囲の人も眉をひそめていたという。
理由は不明だが、突然静かになった
地獄のフライトはまだまだ続く。「真剣に介護と仕事の段取りを考えていたので、明るい笑い声や咀嚼音がかなり気になり、苛立ちが余計に募っていました。でも母への思いもあり、注意する気力がわかず、悲しい気持ちになってしまったんです。もしかしたらもう会えないかもしれないと思うと……、悲しくて勝手に涙が出てきてしまいました」
今後のことを考えているうちにポロポロと涙が溢れてしまった山田さん。
「すると突然、隣にいるおばちゃんたちがガクッと寝始めたんです。今までうるさかったのに急に。あまりにも不自然なタイミングで、まるでコントかのようでした。一体なんなの!?と疑問に思いましたが、疲れていたし静かになったので私も気づいたら寝てしまいました」
機内にようやく訪れた静寂に山田さんは安堵することができた。
実は悪い人たちではなかった?
「目が覚めた時には、もう着陸段階に差し掛かっていました。ふと視線を感じ、横をみてみると、、例の隣の席のおばちゃんがじっと私を見つめてきたんです。『えっ?』とつい身構えました。すると、紙に包んだお菓子を差し出してきたんです。ああ、これってもしかして私の事を心配してくれているのかなと。謝罪なのかねぎらいなのかはわかりませんでしたが、不器用な優しさを感じました。うるさくてガサツで空気が読めないけど、悪気があったわけではなかった。その時、あの時急に静かになったのは彼女たちなりの配慮だったのだということに気づいたんです。はじめは『悪い席に当たっちゃったな』と残念な気持ちでいましたが、最後にちょっと泣き笑いしてしまいました」エレガントとは言えない中国人のおばちゃん軍団のマナーの悪さに憤りを感じていたものの、ちょっとした親切心を感じられ、山田さんの心は少し休まったという。
観光客、ビジネスマン、家族の事情など、飛行機には色々な背景を持つ乗客が同じ空間を共にする。それぞれの日常は交差しないことが大半だが、時には各々の人生が交わり、ちょっとしたドラマが生まれることもあるようだ。
<TEXT/おせりさん>
【おせりさん】
下北沢に住む32歳。