そして、おひとりさまの場合に予期せぬ出費や介護費用を考慮すると、さらに厳しい現実、いわゆる老後破産が待ち受けていることを警告しています。
一体どのような場合に、老後破産してしまうのか……? 実際のケースを見ていきましょう。
(本記事は『おひとりさま時代を生き抜く老後破産しないための年金・貯蓄・相続対策』より一部を抜粋し、再編集したものです)
15万円の年金で「老後もなんとかなるだろう」と考えていたが…
元会社員(技術職)Aさん(75歳)のケースAさんは、小さな町工場の技術職として40年以上同じ会社で働き続け、65歳で無事定年退職を迎えました。給料は決して高くはありませんでしたが、生活は質素で、結婚することはなく、生涯ひとりで生きていくことを考えていました。

退職後の最初の数年間は、特に大きな問題もなく生活を続けていたAさんでしたが、70歳を過ぎた頃から健康に問題が生じ始めました。最初は、のどの渇きや軽い倦怠感が気になる程度でしたが、やがて糖尿病を患ってしまい、定期的な通院と治療が必要になりました。医療費がかさむ中、Aさんは貯蓄を少しずつ切り崩しながら生活していましたが、思っていた以上に治療費が増え、年金だけでは生活費や医療費を賄えない状況になってしまいました。
貯蓄は数年でほぼ尽きてしまった
70代半ばになると、心臓にも不安が出始め、検査と手術が必要になりました。手術費用や術後の入院費は高額で、Aさんの貯蓄は急速に減っていき、数年で貯金はほぼ尽きてしまいます。さらに追い打ちをかけたのが、物価の上昇でした。家賃や光熱費、食費は次第に重くなっていきます。

Aさんの例は、ひとり暮らしの元会社員が、貯蓄不足に加えて、予期せぬ医療費や生活費の増加により老後破産に至った事例です。老後の生活のために備えた貯蓄が少ないと、病気や物価の上昇などのリスクに対応できず、経済的に追い詰められる可能性があることを示しています。
定年後も住宅ローン返済が続き、大きな負担に…
続いて、老後の支出が多かったことが原因で、老後破産に陥った人の事例を紹介します。元会社員(管理職)Cさん(77歳)のケース
Cさんは、大手メーカーの管理職として40年間定年まで勤め上げました。30代までは、結婚願望もあり、一時期は婚活に励んでいたこともありましたが、良いご縁に恵まれず、40代になると結婚は諦め、ひとりで生きていくことを決断しました。

定年を迎えたCさんは、65歳から年金生活に入りましたが、受け取れる年金は月額18万円程度でした。会社からの退職金もある程度は貯蓄していたものの、住宅ローン返済が毎月約13万円と大きな負担となり、生活費を圧迫しています。生活費を切り詰め、質素な生活を続けましたが、物価の上昇や想定外の出費が次第に負担となっていきます。さらに健康面でも問題が生じ、医療費が増え始め、薬代や診察代が年々増加するようになりました。
マンションを売却したものの、自己破産することに
次第に住宅ローン返済も厳しくなってきますが、高齢であることから、働いて収入を増やすことも難しく、マンションを売却して返済の負担を軽減し、賃貸物件に住み替える計画を立てました。しかし、マンションの価値は購入時よりも大幅に下落しており、住宅ローン残高を全額返済できるだけの金額で、売却することは難しい状況でした。オーバーローン(ローンの残高よりも物件の売却額が低いこと)の状態となったため、ローン残債については、無担保ローンを借り入れて、返済することになりました。
この事例は元会社員が、定年後も続く住宅ローンの返済に苦しみ、少ない年金と健康悪化による出費の増加が重なり、老後破産に至ったケースです。特に、住宅ローンを長期間抱えたまま老後を迎えると、年金だけでは生活を支えきれず、破産に陥るリスクがあることが示されています。
老後破産を防ぐにはどうすればよい?
老後破産を防ぐためには、支出をうまくコントロールする必要があります。老後はどの程度生活費がかかるか、シミュレーションできるようにしておきましょう。人によって老後の生活スタイルや、介護の必要度合いは大きく異なります。<文/永井圭介>
【永井圭介】
慶應義塾大学法学部法律学科卒。税理士・公認会計士。2003年に大手監査法人に入所し、上場会社、上場準備会社の会計監査に従事。2009年7月に永井圭介公認会計士・税理士事務所を設立。中小企業を中心とした、税務・労務関連サービス、経営コンサルティングの他、YouTuber「税理士ナガイ」として税に関する知識をわかりやすく視聴者に解説している。YouTube登録者数は11.5万人。インボイスの解説動画も定期的に投稿しており、関連動画の再生回数は200万回を超える。近著は『世界一わかりやすい! インボイス』(高橋書店)など