あおり運転が厳罰化され、今年で約5年。
「あおり運転が罰則に値する危険な行為だと認識している人がほとんどだとは思いますが、危険運転の防止には厳罰化だけでなく、ほかにも課題があると感じました」と野本瑠美さん(仮名・40代)は自身の体験を振り返る。


あおり運転をするスポーツカーから降りてきたのは…

「聞いとるんかボケ!」あおり運転をする“迷惑老人”が、若い男...の画像はこちら >>
 ある日、野本さんが片側一車線の道路で左折しようとしていたときのこと。対向車線の前方、かなり遠くのほうに赤いスポーツカーが見えた。

 余裕で左折できる距離感。ただ、スポーツカーは交差点よりだいぶ向こうにいるにもかかわらず、右折の方向に指示器を出してきた。

「私は左折、対向車が右折だったので曲がる方角は同じ。でも、相手の車は小さく確認できる程度で、もちろん優先されるのは左折する私の方。過去には変に遠慮して停止していたら後方の車にクラクションを鳴らされた経験もあったので、さっさと左折しようとしたんです」

 ところが左折しようとすると、スポーツカーがクラクションを鳴らしながら猛スピードで割り込んできて、野本さんが驚き固まっている間に右折。そのあと野本さんが左折して少し走った信号で停止すると、前方に止まっていたスポーツカーから、なんと高齢の男性が降りてきた

『こっちが曲がろうとしてんのに、どんな運転しとるんや?』『枯れ葉マークも付けとるやろが!』と、すごい剣幕で怒鳴ってきたのです。一瞬、『いや、枯れ葉じゃなくて“もみじ”だし……。そんなマーク、どこにも付いてなかったし』と心の中でツッコみました」

「仲間呼ぶぞ!」ヤンチャ風バイクが到着し…

 けれど、そんな余裕があったのは一瞬だけ。「聞いとるんかボケが!」と、怒涛の勢いで怒鳴り続ける高齢男性の様子に恐怖心が強くなっていった。

 助けを求めたくても、周囲に車や人の姿はない。「やばい、どうしよう……」という気持ちが広がっていったとか。


「さらにその高齢者が、『仲間呼ぶぞ、仲間』などと息巻きはじめたとき、若い男性2人が乗っているヤンチャ風バイクが目の前に止まったんです。バイクに乗った人たちは『いたぞ!』などと言っていたし、『終わった……』と縮こまるしかありませんでした」

若い男性が急に謝罪し始めたワケ

「聞いとるんかボケ!」あおり運転をする“迷惑老人”が、若い男性の登場で「我に返って平謝り」するまで
あおり運転
 ところがバイクから降りてきたひとりの男性が「すみません!」と野本さんに頭を下げ、「オヤジ!俺の車、勝手に乗って行ったらあかん言うたやろ!」と、すごい剣幕で高齢の男性に歩み寄っていったのだ。

「若い男性は困った様子で、『ホントにすみません。もう年なんで、免許を返すように言って、車も売ったんですけど……』と私に謝ってきたんです。状況が飲み込めないまま思わず『いえいえ』と返すと、若い男性は高齢男性に『おいオヤジ!謝れよ』と促しはじめました」

 腑に落ちない様子で「なんで、俺の場所がわかったんや?」とブチ切れはじめた高齢男性に、若い男性は「スマホのGPSや!」などとキレ口調で応戦。ほぼ怒鳴り合いの末、高齢男性がふとした瞬間から様子が一変する。

「そして、高齢男性は我に返ったように『俺……ごめんなさい』と言いながら、さっきまで自分が運転していたスポーツカーの後部座席へ乗り込んでしまったんです。そのあと若い男性からの説明を受け、若い男性と高齢者男性が親子であることを知りました」

高齢者「免許返納問題」の課題

 息子である若い男性が友だちと遊んでいる隙に隠してあったカギを探し当て、高齢男性が息子の愛車である赤いスポーツカーにこっそりと乗車。高齢男性の妻から「お父さんが車に乗って、勝手にどこかへ出かけてしまった」と連絡を受けた息子が探していたのだ。

「若い男性は本当に困っているといった様子で、『ちょっと認知症とかも入ってきてるんじゃないかと思うんですよね。昔はヤンチャやってたみたいで、その名残が出ちゃうみたいで……。怖い思いさせちゃってすみません』と何度も謝ってくれました」

 最後に、「車のカギ、もっとわからんとこに隠すようにします」という約束とともにあらためての謝罪を受け、許すことにしたという野本さん。車はバイクの後ろに乗っていた男性が運転して帰っていったようだ。


 野本さん自身も70代の両親のことを考えると他人事とは思えず、とてつもなく不安になっているという。

「ケガや事故に発展しなかったからよかったけれど、高齢者の免許返納については課題が多いと思いました。私からみるとフラフラして危ない運転をする父ですが、高齢者対象の認知機能検査では問題なし。免許返納も頑なに拒んでいるので、この先が思いやられます」

 ストレス発散や嫌がらせなど故意に危険運転をする人もいれば、原因が病気や認知症といったケースもある。ただ、他人に迷惑をかけるのは避けたいもの。免許を返納しやすいよう、家族で車に乗らなくなったときの移動手段やサポート方法を話し合っておきたいものだ。

<TEXT/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意
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