人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。
しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回は6月からの企業の熱中症対策義務化と、「意外なシチュエーション」がリスクになる、シニアの熱中症体験談を紹介する。
 嘘のような理由で熱中症になったシニアの体験談も多く、様々な場面で注意が必要だとご理解いただけるのではないだろうか。

「冷房をつけるな」患者の要望で熱中症に倒れた“高齢の介護職員...の画像はこちら >>

どうなる?熱中症対策義務化

 そろそろ熱中症に関連した予防や救急搬送のニュースが増えてくる季節だが、この夏は、熱中症対策に十分な注意が必要となる。というのも、今年6月から企業の熱中症対策が義務化されるためだ。

 もちろん、大多数の一般的なオフィスワークであれば、通常は対策が義務となる対象とならないが、それでもちょっとしたことでも対象に入る可能性がある。また、“今回義務化される内容”は、水分補給や涼しい場所での休憩といった一般的な熱中症対策のイメージと異なる点も注意が必要だ。

 熱中症は意外なことがきっかけで発症することもあり、命の危険も含めて重大な結果につながることも多い。今回は、6月の熱中症対策義務化についてと、若者よりも熱中症にかかりやすいシニアワーカーが遭遇した驚きの熱中症体験を紹介する。

熱中症になったあとの備えが義務化に

 2025年6月から熱中症対策が企業の義務となると、これまでと何が変わるのか?

 企業に求められるのは、熱中症と見られる症状の人が出た場合の報告体制の整備と周知、そして、熱中症の悪化防止の措置の内容や手順の策定と周知の、大きく2つだ。

 つまり、熱中症の自覚症状がある人や熱中症になった人を見かけたら「どこに・誰に連絡する」のか。その後、「どう対応するのか」を作業場所ごとに決め、作業する人に周知することが義務づけられる。また、対策を怠った企業には罰則があり、作業や建物の使用の停止命令や、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が課せられる可能性がある。

 今回義務化されるのは、熱中症になったあとの対策だけで、予防の内容は含まれないが、実は予防は以前から企業の義務となっている。
もし、熱中症予防をしていない企業があるのなら、今回の対策と併せて対応を進めるべきだ。

 ちなみに、今回6月に熱中症対策が義務づけられる対象は、「WBGT(湿球黒球温度)28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施」が見込まれる作業となっている。

 WBGT値の詳しい説明は省くが、別名「暑さ指数」とも呼ばれ、単純に気温が高いだけなく、他の要因も含めて熱中症になりやすい環境を示すものだ。

 つまり、多少気温が低い場所でも熱中症になる危険があることを忘れずに企業は対策を進める必要がある。例えば、イベントの会場案内で1時間以上の屋外にいる場合や、業務として行う合宿で屋外にいる場合なども該当する可能性があり、注意が必要だ。

灼熱の厨房で熱中症になったシニア

 では、シニアの転職を支援する中で見聞きした、シニアワーカーが熱中症になった例を紹介しよう。どんな場面で熱中症になるのかの参考にしてほしい。

 まず、熱中症になった体験をもっともよく聞くのが「料理人」。調理の仕事をしているシニアだ。

 火を使う厨房は高温になりがちだが、換気扇程度でエアコンがないという職場もいまだに多いようで、そこで倒れ、最終的に退職したという話がよくある。油や高温に強い厨房用エアコンの設置は価格やスペースなどによる難易度が高いためか、「お店が何もしてくれなかった」というエピソードも多いが、せめて水分摂取や休憩の配慮はしておきたい。

 同じようなエアコンがないことによる熱中症は、普通のオフィスでも発生し、エアコンが壊れた夏場に熱中症になったという、事務職のシニアの話も少なくない。そのため、オフィスワークだから安心とは言えない。


 ここまでは、「ありそうな話」と感じるかもしれない。しかし、「まさかそんな」と思うような熱中症の例も、複数のシニアから聞いているので、次はそうしたエピソードを紹介しよう。

まさかの冷房禁止で熱中症に…

 冷房があるのにつけられず、熱中症になってしまったシニアの話も何件もある。別に昭和の根性論に支配されたような経営トップが、頑なに冷房の使用を認めなかったといった話ではない。

 なんと、介護施設の入居者や病院の入院患者が「寒いから冷房をつけるな」と要望したことで、介護職員や看護師が熱中症に倒れたというのだ。

 しかしこれは、「寒いから冷房をつけるな」と言った高齢患者自身が、感覚だけでなく、体温の調節機能も低下して、介護職員や看護師と一緒に熱中症になる危険があるため、要望に応えるのではなく、適切な温度管理を優先すべき話である。

 労災事故と言えるような話もある。工場でダクトからいきなり熱風が吹き出て、火傷を負うような高温ではなかったものの、短い時間で熱中症となって意識を失ったという話だ。ここまでの話になると、熱中症とは関係なく重大事故と言えるような話だが、「他の事故の際に、熱中症を発症してしまう」ということも考えられる。

 例えば、夏の日中に屋外で怪我をして動けなくなることで、熱中症になることもある。また、事故とまではいえなくとも、熱中症以外の体調不良で動けなくなったことがきっかけで熱中症になることや、炎天下で道に迷ったといったトラブルから熱中症になることもないとは言えない。

 社内の事故ではない外でのトラブルがきっかけの熱中症は、さすがに企業の責任ではないが、6月に義務化される報告体制などを整えておくことで、どんな場面で熱中症になったとしても、従業員は安心しやすく、また、迅速な対応が取りやすくなる。
どんな職場でも熱中症に関係ないと思わず、対策をしておきたい。

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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