5月18日に“コメ失言”のあった江藤氏について、一旦「厳重注意」とした石破首相だったが、20日夜に更迭を決定。「農林水産相の更迭を経て、小泉進次郎氏が新たに就任したことは、石破政権の浮上を図る重要な転換点となり得る」と語るのは、ジャーナリストの岩田明子氏だ。

小泉“コメ大臣”誕生で、石破政権浮上となるか?

 石破茂首相はコメ政策の見直しや減反廃止を掲げてきたが、保守的な農水族議員や農水省との対立が障害となってきた。一方、小泉氏は過去のJA改革で非主流派の官僚を登用し、既存の支配構造に風穴を開けた実績がある。現に今回、自ら「コメ担当大臣」と称し、コメ政策に集中する小泉氏は、「組織・団体に忖度しない」と改革をにおわせる姿勢も示している。

 小泉氏は23日、今後放出する備蓄米について「(5キロ)2千円台で店頭に並ぶような形で随意契約で出していく」との見通しを示すなど、消費者目線を重視する彼が成果を上げることで、農政への国民不満解消を目的とし、石破政権再評価の好機となる可能性があるというわけだ。

 そして、石破政権の浮上を後押しするもう一つの要素として、岩田氏は野党の心もとなさも指摘する(以下、岩田氏の寄稿)。

小泉進次郎「コメ担当大臣」就任で石破政権に転機?“成果を上げ...の画像はこちら >>

江藤拓前農相の“失言”も当初は続投方針だった

 コメが石破政権の命運を握ることになりそうだ。

「コメは買ったことがない」発言で大炎上した江藤拓農相が5月21日に事実上、更迭された。当初、石破首相は続投方針だったが、国民民主が立憲などと足並みを揃える姿勢を見せたことで翻意したかたちだ。不信任案が提出されれば可決は必至。追い込まれての更迭劇なだけに、決断力のなさも批判に晒されている。

 ’17年4月、当時の今村雅弘復興相が東日本大震災に関して「東北でよかった」と信じがたい失言をした際、安倍首相は1時間足らずで更迭を決めた。第1次政権時代に女性を「子を産む機械」と例えた柳澤伯夫厚労相らをすぐに斬れなかった反省を生かしての即決だった。

 今回の判断の遅れで石破政権が窮地に立たされたのは間違いない。だが、少なからず“底打ち感”も見える。
1つの理由は後任人事だ。これまでの農相は江藤氏も含めてJA全農と密接な繋がりを持つ農水族ばかり。その“ドン”である森山裕幹事長もにらみを利かせてきたが、小泉進次郎氏は過去にJA改革に切り込もうとした改革派だ。国民人気は依然高く、期待度も高い。

与野党総崩れのなか、成果を上げることの重要性

 2つ目の理由は、石破首相が「コメ5kgを3000円台にする」と明言して退路を断ったことだ。備蓄米放出に関して「競争入札から随意契約に変えるよう」指示を出し、意をくんだ小泉氏が「必要があれば“無制限”に放出する」と発信した影響も大きい。

 何しろ、立憲は減税論で党内分裂気味で、維新は支持離れが顕著、国民民主までもが過去にスキャンダルを報じられた山尾志桜里氏らの擁立で支持率が急落している。与野党総崩れのため、小泉新農相が成果を上げるだけで、政権が浮上する可能性もあるのだ。

 ようやく審議入りした注目の年金制度改革法案に関して立憲は反発姿勢を示しているが、「参院選の争点にさせないために自公は修正に応じる」との声も聞こえる。石破政権が劣勢にあるのは事実だが……米粒大ほどの突破口は見えてきたのかもしれない。

小泉進次郎「コメ担当大臣」就任で石破政権に転機?“成果を上げるだけ”で政権浮上の可能性がある理由
岩田明子


【岩田明子】
いわたあきこ●ジャーナリスト 1996年にNHKに入局し、’00年に報道局政治部へ。20年にわたって安倍晋三元首相を取材し、「安倍氏を最も知る記者」として知られることに。
’23年にフリーに転身後、『安倍晋三実録』(文藝春秋)を上梓。現在は母親の介護にも奮闘中
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