―[シリーズ・駅]―

 ASEAN諸国の中では最長となる総延長約7000㎞の鉄道を有するインドネシア。このうち約5000㎞がもっとも人口の多いジャワ島に集中している。
以前、開業したばかりの高速鉄道の乗車レポートをお届けしたが、今回は在来線の長距離列車に乗ってジャワ島を周遊してみた。
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首都ジャカルタから第二の都市スラバヤへ

 首都ジャカルタの中心部にはモナスと呼ばれる独立記念塔があり、街のシンボルとなっている。ジャカルタとジャワ島各地を結ぶ、中長距離列車の多くは、塔のある公園の隣に位置するガンビル駅が発着の拠点だ。

インドネシア・ジャワ島を鉄道で周遊。“グランクラス越え”の半個室シートで「あまりの快適ぶり」に驚いた
中長距離列車の発着駅となっているジャカルタ中心部のガンビル駅
 ただし、日本などほかの国との大きな違いは、通勤用の近距離列車がすべて通過してしまうこと。そのため、専用レーンを走るBRTなどに乗って駅まで向かう必要があり、アクセスが少々面倒だ。

 しかも、巨大なターミナル駅ではなくホームはわずか2面4線。都市圏人口が3000万人を超すメガシティの玄関口としては意外だったというか、正直拍子抜けしてしまった。

 ちなみに筆者が向かうのは、ジャワ島東部にあるインドネシア第二の都市スラバヤのパサールトゥリ駅。距離は約725㎞あり、これは東北新幹線の東京―新青森間よりも長い。これをほぼ8時間で結び、平均時速は約90㎞と、高速鉄道には劣るが在来線としては思った以上に速い。

駅の改札内にラウンジが存在していた

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ガンビル駅構内のラウンジ
 列車は朝8:20分発だったため、余裕をもって1時間前に到着。でも、駅構内は時間を潰せるほど広くない。完全に時間を持て余してしまったが、改札内の一角にラウンジを発見!

 インドネシアの優等列車は、上から「ラグジュアリー」「エグゼクティブ」「ビジネス」「エコノミー」の主に4種類あり、受付のスタッフに乗車券を見せると利用できるとのこと。実は、奮発してラグジュアリーで予約していたのだ。


 ラウンジでは軽食やスイーツ、ドリンク類が提供されており、ここで朝食を済ますことに。

 空港の国際線ラウンジのようにシャワールームはなかったが、駅でラウンジが利用できるのはちょっとセレブになった気分だ。

最上級クラスの座席は、飛行機のビジネスクラス並みに豪華

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スラバヤ行きの特急『アルゴ・アングレック』。発車直前の入線で時間がなく、最後尾しか先頭車両は撮影できず
 この日乗車する特急『アルゴ・アングレック』は、ホームの本数に余裕がないせいか発車数分前に入線。おかげで先頭車両を撮影できなかったが、列車は機関車で牽引するタイプ。

 現在の日本では見かけない編成で外国なんだと改めて実感したが、車内に入ってさらに度肝を抜かれた。なんと通路の両側に飛行機のビジネスクラスのような半個室型シートが並んでいたからだ。

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ラグジュアリークラスの座席。飛行機のビジネスクラス顔負けだ
 フルフラットにはならないがそれに近い状態になり、乗車時間の半分以上は横になっていたが寝心地はかなりいい。1席あたりのスペースも広く、プライバシーが確保されている点など座席の豪華さは東北新幹線や北陸新幹線などが導入しているグランクラスを上回る。

 各シートに搭載のモニターでは映画やアニメなどを視聴でき、現在位置もリアルタイムで確認できる。しかも、食事・ドリンク付きだ。

10分遅れでパサールトゥリ駅に到着

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途中のチルボン駅に停車中、窓越しに撮った1枚
 覚悟していた走行中の揺れも思った以上に少なく、予想を大幅に上回る快適さ。

 ジャカルタースラバヤ間にはこの座席がパーテーションで区切られ、完全に個室状態となった座席が導入されている列車もあるが、これでも満足だ。

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到着直後のパサールトゥリ駅
 アジアでは列車の遅れは珍しくないが、この日パサールトゥリ駅には約10分遅れで到着。この程度なら許容範囲だろう。
ここもそれほど大きな駅ではなかったが、それでもスラバヤの玄関口のひとつということもあってか駅構内は人で溢れていた。

 そんなスラバヤは観光地というわけではなく、外国人旅行者の姿はそれほど多くない。街も約300万人という人口の割にはそこまで騒々しい雰囲気ではなく、のんびり散策しながら2日間滞在。

 そして、次の目的地であるジャワ島中部のジョグジャカルタへ。

車内で配られるナシゴレンの駅弁に舌鼓

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スラバヤの中心地に位置するグブン駅
 今度は街の中心部に位置するグブン駅から乗車で、駅構内には飲食店や売店、子供が遊べる遊具スペースに小さな庭園などもある。

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グブン駅に到着した特急『アルゴ・スメル』
 筆者が乗り込んだのは『アルゴ・スメル』という特急。なお、ラグジュアリークラスはなく、利用したのは通路を挟んで2席ずつ配置されたエグゼグティブクラス。

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エグゼグティブクラスの座席
 4時間近く乗っていたが、これでもまったく不満はない。だが、シートの幅や座り心地は日本のグリーン車のほうが上か。

 また、食事は付いていないため、せっかくなので食堂車を利用してみることに。

 車内で調理しているわけではないがインドネシアは食堂車が連結されている特急が多く、自分の座席に持ち帰らなくてもその場で食べられるようにテーブル席が並んでいる。

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内装のせいかゴージャスな雰囲気が漂っている食堂車
 筆者が購入したのはナシゴレン弁当。本当はスラバラ行きの列車でも食べるチャンスはあったが、座席順の関係で配膳が最後だったことから在庫がなく、この時食べたのはインドネシア料理とは関係ないミートソース・スパゲティ。


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食堂車で購入したナシゴレン弁当
 そのため、ぜひ食べたいと思っていた。調理してから時間が経っていないのか、保温していたのかは分からないが、まだ少し温かい。現地では何度も食べたナシゴレンだが、美味しく感じたのは車内だったからだろうか。

ジョグジャカルタで世界遺産を満喫

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ジョグジャカルタ駅
 昼過ぎに到着したジョグジャカルタは、インドネシアでも古都として知られる歴史ある街。

 駅はそれほど大きくないが、市内にはホテルやゲストハウスが多くあり、街の中心部にはナイトマーケットもある観光地らしい賑やかな雰囲気だ。

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ジョグジャカルタ郊外にある世界遺産ボロブドゥール寺院遺跡
 水の宮殿と称されるかつての離宮タマンサリ、世界遺産に認定されている郊外のボロブドゥール寺院遺跡などを訪問。存分に観光を楽しんだ後は、『タクサカ』という特急列車で再びジャカルタへ。

インドネシア・ジャワ島を鉄道で周遊。“グランクラス越え”の半個室シートで「あまりの快適ぶり」に驚いた
車内から撮影したインドネシアの田園風景
 終点のガンビル駅の1つ手前のジャティネガラ駅で降りたが、約6時間の列車旅は快適そのもの。車窓から見える建物は日本のそれとは違うが、稲作が盛んな国ゆえから郊外には田んぼが広がり、どこか懐かしさを覚える。

 高速鉄道は乗車時間が短くアッという間に着いてしまったため、多少長くてもこっちのほうが列車の旅をしているという気分が味わえる。

運賃は全体的に安く、夜行列車も充実

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ジャティネガラ駅で下車後、出発する特急『タクサカ』
 インドネシアには外国人向けの乗り放題きっぷにはないが、全体的に日本に比べれば安い。

 乗車券は『tiket.com』というサイトで予約し、実際に購入したジャカルタ―スラバヤのラグジュアリークラスの片道乗車券は125万ルピア(約1万900円 ※料金は変動制)。

 航空券代+空港から市内の交通費と同程度のため、割高というほどでもない。
当然、下のクラスならもっと安く、同区間のエグゼグティブクラスなら60万ルピア(約5200円)からあった。

 ジャワ島は鉄道網が発達しており、最東端のバニュワンギ・バル駅は対岸のバリ島に向かうフェリーの港がある。反対に最西端のメラク駅はジャカルタから日帰りも可能だ。

 今回の旅ではすべて日中列車だったが、日本では絶滅危惧種となった夜行列車も多数運行されているので旅行には便利そうだ。

 思った以上に快適だったジャワ島の鉄道周遊旅。また機会があれば、今回乗れなかった路線や列車で巡り、ジャワ島の鉄道をコンプリートしてみたいものだ。

<TEXT/高島昌俊>

―[シリーズ・駅]―

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
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