廃墟、不思議建造物、珍スポット、珍寺、戦争遺跡、赤線跡など全国に存在するリアルな《異空間》を紹介し続ける旅行マガジン『ワンダーJAPON』。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップし、順次紹介している。

『ワンダーJAPON』の前身である『ワンダーJAPAN』の創刊が2005年12月。それ以来、数年の休刊期間を含め約20年、日本中の変わった場所を探し求めてきた。全国各地のいわゆる「珍スポット」の生みの親、多くのオーナーの方々も当然お会いしてきたが、やっぱり変……というか個性的な方が多い。

「ケネディー電気」もビジュアル的にとても衝撃を受けたスポットだが、それ以上に驚異的だったのが河原田謙社長ご自身。アクが強すぎて、紹介してもいいんだろうかと戸惑いながらも『ワンダーJAPON(9)』に掲載している。今回もそれは変わらない。

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のどかな風景が続く道に突然カオスな空間が出現

 茨城県河内町は利根川の北岸に広がる人口7000人余りの町。町の中央部を縦断する国道408号線沿いに、この「ケネディー電気」はある。1km南には千葉との県境となる利根川が流れ、周囲は見渡す限り田んぼ。そんなのどかな風景が続く道に突然カオスな空間が出現する。

 一見、工事建設現場の事務所と資材置き場。そこにはドラム缶や鉄パイプで組まれた櫓が無造作に置かれ、設置されたロケットやミサイルが周辺を威嚇するように配備されている。周りにはパラボラアンテナや換気扇のファンをいくつも付けたポールが立っていたり、草むらには赤色灯やマネキンも。


 よく見れば、数棟ある建物の屋根の上にもプロペラやミサイルがある。産業廃棄物置き場にしては奇抜すぎ……。ひょっとして現代アートの展示場? そんな道行くドライバーたちのつぶやきが聞こえてきそうだ。

「この寝室には滝沢カレンが来た」と自慢

「この寝室には滝沢カレンが来た」と自慢…「電化製品で埋め尽くされた空間」で待ち受ける、令和のコンプラ‟完全無視”の76歳男性を直撃
「屋根に登って全景を撮れ」という指示に素直に従ったが、物が多すぎてなんだかよくわからない感じ
 私は2024年春に訪問。当時、76歳という社長は、これまでに34回(細かい)テレビ取材を受け、番組の台本も自分で作っていると豪語する。ひとり編集部なので基本的に撮影も自分で行うのだが、やたら指示が多かった。「はしごを登って屋根の上から撮るといい」「道路側から撮ったか?」などなど。「この寝室には滝沢カレンが来た」など自慢もぶち込む。

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わざわざ白衣と聴診器を装着して修理風を演出するお茶目な面もある
 自分が被写体になると、わざわざ白衣を着て聴診器を装着し電化製品を修理している風にしたり、ギターをノリノリで構えたり、自分で勝手にポージング。よく言えば、サービス精神旺盛。

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頼んでもいないのに白煙筒を炊いてロケット発射を演出してくれた。聞きそこねたが、ロケットやミサイルの設置はキューバ危機のイメージを再現しているのだろうか
 極めつけは、「発炎筒に火を着けるから、ロケットの発射シーンを撮れ」と。煙が多すぎて最後はロケットが見えなくなってしまった。住宅街ならアウトだが、周りが田んぼなのでギリギリセーフだろうか。


建物の内部は「ほとんどが電化製品で埋め尽くされている」

 数棟ある建物の内部は、わずかな作業スペースなどをのぞき、どれもほとんどが電化製品で埋め尽くされている。全国から修理依頼の商品が届くだけでなく、たとえば閉店したパチンコ店を丸ごと買い取り、そこから家電、音響製品などを引き取ったものも。

 修理・整備後に中古品として売れるのだとか。電子制御基板には貴金属の含有も多く、それも高く売れる。建物の壁に「二千万円マデ現金で買イマス」と書かれてた。閉店した物件を設備機器類すべて込みで買い取るのだとか。文字が消えかかっていたが、決してハッタリとかではないようだ(たぶん)。

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「今は修理の時代だ」という特大文字が誇らしげ
 屋外の敷地も足の踏み場がないほど資材で溢れかえり、ズラリと並んだ大型冷蔵庫などは道具入れと化していたりする。外壁に特大フォントで「今は修理の時代だ」とあるが、とにかく廃棄処分は最後の手段と考えている。

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「大物になるにはいいこと8、悪いこと2やるんだよ」……そんな発言も飛び出していた会津のケネディ
 外にある冷蔵庫には「見るな」「元気ですか!!」などのなぐり書きにまじって、「会津のケネディここに生きる」と書かれたものも。会津出身の社長は、中学生の頃から電気修理でお金を稼ぎ、地元で優秀なテレビ販売店として成功を収めた。店名は、当時、ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設しようとするのを果敢に阻止した米大統領の名前を拝借。1998年から拠点を茨城に移し、現在に至る。


令和のコンプラなど完全無視…

「この寝室には滝沢カレンが来た」と自慢…「電化製品で埋め尽くされた空間」で待ち受ける、令和のコンプラ‟完全無視”の76歳男性を直撃
プロペラはお気入りなのか、あちこちで目にした
 社長は話し始めると止まらなくなる。令和のコンプラなど完全無視。社長よりもハンダ付けが上手だという奥さんが隣にいても、女遊びの話や下ネタを連発。特に盛り上がると確信があるのか、芸能人の悪口ではますますヒートアップしがちで、2時間で取材を追える予定が、4時間過ぎても終わらないという……。

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ギターを手にポーズをつける社長。プレスリーかギターを持った渡り鳥(小林旭)? 左利きになってるのでまさかジミヘン??
 実は「ケネディー電気」は、『ワンダーJAPAN』の創刊号で一度紹介済みだ。B級スポットライターの故・荒川聡子さんが記事を書いてくれた。その時はさほど風変わりなオブジェも多くはなかった。それが荒川さんのブログや小誌記事で世間に知られ、テレビや雑誌の取材が増えると、持ち前のサービス精神が発動し、奇妙な飾りつけが一気に増えていったのではなかろうか。

 2025年現在、見学料1000円、スマホ撮影2000円、一眼レフカメラや動画撮影は5000円となっている。社長はとにかくクセが強いと思うので、くれぐれも自己責任で訪れてほしい。なかには迷いのない社長の発言に感化され、人生相談に行く人もいるというから世の中わからない。

<TEXT/関口勇>

【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。
廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
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