多くの社員が静かな退職に走っている
最小限に仕事をこなし、実際に退職するわけではないが、キャリアアップを目指さず、会社に奉仕することはなく居続ける「静かな退職」――。マイナビが’24年に実施した調査によれば、驚くことに正社員の44.5%が「静かな退職」をしているという。健康社会学者の河合薫氏は、その背景をこう読み解いた。
「バブル崩壊以降、日本企業は会社と社員の間にあった信頼関係を一方的に裏切ってきた。社内で居場所を失い、同僚との接点もなく孤立感を深めた人がやる気をなくし、『静かな退職』に走っている」
日本企業が長らく抱える問題点
「労働生産性を上げろ」の大号令が響く中、ここに潜む問題に労働者が気づいたのも一因と考えるのは、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏だ。「日本企業は長らく労働者を無駄遣いしている。象徴的なのが、“ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)”の多さ。営業職の顧客訪問や、賀詞交歓会への出席……売り上げのない“仕事”に多くの時間を費やしているのが現状です。
結果、労働時間は長く、生産性は下がり、会社員は私生活を犠牲にすることになった。『静かな退職』は、頑張らないほうが生産性は上がり、幸福度も増すと気づいた労働者の新しい働き方なんです」
企業が許容できるのはステルス窓際社員

「漫画『釣りバカ日誌』の浜ちゃんのように、普段は働かないが、会社がピンチのときに彼の豊富な釣り人脈や並外れたコミュニケーション能力が役立つ。また、稼ぐスペシャリストばかりの会社は多様性に乏しく、環境の変化に弱い。
最強の窓際社員を目指すなら…
とはいえ、わかりやすい窓際社員はリストラの標的になる。前出の海老原氏は、最強の窓際社員を目指すなら「戦略的に居場所をつくることが肝要」と説く。「日本企業の多くが採用する職能等級制度をハックするんです。等級レンジの上限まで来たら仕事をセーブして昇格を免れ、同じ職位にとどまる。一度昇格してから降格した社員は仕事もなく不要になってしまうが、戦略的に昇格しない人は現場にとどまるので実務能力は維持される。ただ、定期昇給の廃止が囁かれる昨今、この手法が使える時間は残り少ない」
降格した社員は悪目立ちするが、初めから昇格しない窓際社員はステルス化する。新たな勝ち組の形がここにある。

【健康社会学者 河合 薫氏】
全日空CA、気象予報士を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。近著『働かないニッポン』(日経BP)ほか著書多数

【雇用ジャーナリスト 海老原嗣生氏】
大正大学特命教授。リクルートエイブリックなどを経て現職。近著『静かな退職という働き方』(PHP新書)ほか著書多数

【経営コンサルタント 侍留啓介氏】
バロック・インベストメンツ代表取締役。近著に『働かないおじさんは資本主義を生き延びる術を知っている』(光文社新書)

取材・文/週刊SPA!編集部
―[40歳OVER[静かな退職]生存戦略]―