インバウンド需要に沸く日本。しかし今、各所では外国人観光客による“マナー違反”が問題となっている。
日本と海外ではマナーに関する認識が異なることも多く、彼らに悪気はなくとも周囲が「迷惑」と感じてしまうケースが少なくない。
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 銀座の某有名百貨店内にあるラグジュアリーブランドのショップにて販売員として長年勤務してきた斉藤信二さん(仮名・30代)には、忘れられない出来事があるという。

子どもを置き去りで親は買い物に夢中

「お客様に特別な空間でお買い物を楽しんでいただくため、銀座のラグジュアリーブランドの店内には、誰でも自由に使えるような椅子はあまり置いていません。数少ない椅子は、あくまでご購入を検討されるお客様のためのものです」

 しかし、ある日のこと。中国人観光客と思われる団体が来ると、店内は一気に賑わった。

 店内には椅子が2脚しかない。熱心に商品を見る大人たちの傍ら、その椅子に子どもたちが座っていた。

 団体客が1時間ほど店内を見て回り、そろそろ帰ろうという頃。先ほどまで椅子に座っていた子どもの一人がまだ座ったままなのに気づいた斉藤さん。「お子様がまだ座っていらっしゃいますよ」と声をかけると、団体客は「うちの子ではない」と口々に言う。

 まさか迷子か……。店内が騒然とする中で、同じフロアの別のショップにも聞き込みすること10分。

 なんと、別のショップで買い物をしていた中国人観光客の子どもだと判明した。


まさかの逆ギレ「日本のおもてなしはどうなっているんだ!」

 斉藤さんが安堵して、そのショップに子どもを連れていくと、親は悪びれる様子もなく、「このショップには椅子がないのよ。あなたの店の椅子に座らせておいてちょうだい」と言い放ったのだ。

「私が丁重にお断りすると、『子どもが疲れているのに、日本のおもてなしはどうなっているんだ!』と逆ギレされました。お子様を大切に思う気持ちは理解できますが、こちらへの配慮を欠いた要求には、ただ困惑するしかなかったです」

 この「迷子騒動」で斉藤さんは心身ともに疲弊してしまった。

 他にも中国人観光客がショップの入り口や通路の真ん中などに堂々と座り込むのが日常茶飯事だったという。彼らにとっては自然な行動でも、日本の文化やマナーの中では受け入れ難いものだ。

 もちろん、全ての中国人観光客がそうではない。ほとんどの人がマナーを守ってくれているが、一部の行動が販売員にとって大きな負担となっているのも事実だという。

 “おもてなし”とは何なのか……。斉藤さんはモヤモヤしているそうだ。

満面の笑みで「ありがとう」と言ったはずなのに…

「どこでも座り込む」中国人観光客の“マナー違反”に銀座ハイブランド店員が疲弊。置き去りにされた子の親がいた場所は…
小雨ぱらつく銀座歩行者天国
 斉藤さんが勤務するショップには、連日多くの中国人観光客が訪れるため、中国語対応の通訳者が常駐。丁寧なサービスを提供できる環境が整っている。

 30代と思われる快活な雰囲気の中国人観光客の女性2人が来店した時のことだ。パンツを求めて来たという彼女たちに、斉藤さんは通訳者を交えながら、様々なデザインや素材のパンツを紹介した。


「鏡の前で熱心に商品を吟味される姿に、私も力が入りました」

 デザインが決まると、次は最も重要なサイズ選びだ。試着を繰り返しながら、客の好みや着心地の細かなニュアンスを汲み取り、最適な一本を提案する。このプロセスには、特に時間をかけたという。

 ようやく納得のいく1本が決まり、客は満面の笑みで「ありがとう」と言って店を後にした。斉藤さんは心地よい達成感に包まれた。だが、それは翌日、思わぬ形で覆される。

「昨日対応した販売員が間違ったサイズを渡した」

「私も通訳者も公休で、所用があって銀座を訪れていました。ほんの少しだけ店に顔を出してみると、なにやら不穏な空気が漂っていて……」

 数名のスタッフが客を囲んで対応している。険しい顔つきから、ただ事ではないと察した。事情を尋ねると、昨日パンツを購入したという客が「希望したものと違うサイズが入っていた!」と怒っているそうだ。

 そんなバカな……。

 驚いたことに、客は斉藤さんと通訳者が不在であることを確認したうえで、「昨日対応した販売員が間違ったサイズを渡した」と主張していたのだ。


 斉藤さんは愕然とした。昨日の丁寧なサイズ確認のプロセス、彼女の納得した表情を思い返せば、こちらのミスとは到底考えられない。

「おそらく、帰宅後に心変わりし、別のサイズが欲しくなったのでしょう。しかし、それを正直に申し出るのではなく、販売員の責任にして交換を迫るという手段を選ばれたように感じられました」と斉藤さんは推測する。

 幸い、このブランドには顧客満足のための交換ポリシーがあり、一定の条件を満たせばサイズ交換が可能だった。その場にいたスタッフたちは、彼女の剣幕に押されながらも、冷静にブランドの規定に則って対応を進め、最終的には、いくつかの条件を確認のうえでサイズ交換に応じたという。

 外国人観光客と日々接している人たちの苦労は計り知れない……。

<文/藤山ムツキ>

【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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