全国で209店舗(2025年5月29日時点)を展開している人気ラーメンチェーンとして知られるが、首都圏で展開する約3割にあたる10店舗を6月末日に閉店すると発表された。
熱烈なファンが多く今後を心配する声があるが、閉店理由が定かでなく真実がわからない状態だ。
憶測が飛び交っており、現時点では推測にすぎないが、「こってり味という専売特許的な立ち位置に似た商品を扱う店が増え、唯一無二ではなくなった」商品面、「加盟店側の経営戦略の事情を反映した事業展開」などの運営面、2つが原因ではないかといわれている。
首都圏は特にラーメン激戦区だけに過去の栄光だけでは生き残りが難しそうだ。今回は、その閉店要因を外部環境面・内部環境面・運営面の視点から探ってみたい。
既存チェーンの拡大と新規参入でラーメン市場はレッドオーシャンに
ラーメン市場は、物価高騰や競争激化などで倒産する店が相次ぎ、経営環境が厳しくなっている。経済産業省によると、ラーメン市場の規模は推計6000億円。店舗数は約18,000店舗あり、その半数を個人店が占めているものの、その個人店の廃業が増加傾向とのことだ。
その一方で、資本力があるラーメンチェーンは、まだまだ成長余地があると判断し、未開拓市場に出店攻勢をかけている。既存事業者にとどまらず、異業態からの新規参入も増加中だ。現在のラーメン市場の参入状態を見てみよう。
まず、専業チェーンの魁力屋は、700店舗構想と台湾進出を打ち出すなど健闘している。国内の熾烈な競争で蓄積したスキルとブランド力をもって海外市場も狙っている。
焼肉きんぐをコア事業とする物語コーポレーションの成長ブランド、丸源ラーメンは、5月に224店舗目を出店した。
ニーズが多様化する中、単一ブランドで全てのニーズに対応するのは限度があるが、バリエーション豊かなメニューの提供で家族連れを中心に支持され順調に店舗数を伸ばしている。
牛丼チェーンの吉野家も本格参入
牛丼チェーンの吉野家も、飽和状態にある牛丼事業への依存度を低下させるべく、成長分野と期待されるラーメン事業へ本格参入した。「キラメキノトリ」など複数ブランドを買収し、現在129店舗(国内95店舗、海外34店舗)を運営している。ラーメン関連のM&Aは昨年5月にもラーメン店向けに麺・スープを製造する会社を買収し、ラーメン事業の基盤づくりに力を入れている。
新社長に就任した成瀬哲也氏は、ラーメン事業の売上を2029年度に現在の5倍である400億円に伸ばし、店舗数を500店舗に拡大する方針を打ち出し、業態ポートフォリオの見直しを進めているようだ。
このようにラーメン市場は、倒産や廃業が相次ぐ中で新規参入も多い。これまでラーメン事業を展開していなかったが、自社のポートフォリオを見直す中、成長余地があると判断してラーメン事業を標的とし、リスク分散と収益機会の最大化を目指している。
守る既存事業者と攻める新規参入者の戦いの構図も鮮明だ。この競争の激化も、天下一品の成長が鈍化する一因といえる。
天下一品の存在意義が薄れたワケ

現在の天下一品のラーメンが他店と比較して、どれだけ優位性があるかを4つの視点(価値・希少性・模倣困難性・組織)で分析してみたい。
ラーメンに提供価値と希少性があり、また模倣されにくく、組織として持続的な運営ができている場合、競争優位性を維持できる。
これを天下一品に用いて分析すると、
①価値②希少性:かつて天下一品でしか味わえなかった業界でも突出したこってり味が他店でも同等レベルが食べられるようになり価値と希少性が低下
③模倣困難性:こってり味を極める同業者が増え追随され、模倣され易くなった
④組織:FC運営中心で他人資源を効率的・効果的に活用してリスク低減とスピーディーな展開を実現したが、その一方で、組織の管理統制が難しくなった
などが推察される。その結果、かつては誰もが認めていた「天下一品ならではの独自性と持続的な競争上の差別的優位性」が薄れてきたのではなかろうか。
FC加盟店であったエムピーが大量閉店を決断
今回、大量閉店する店舗を所有しているのは、天下一品にフランチャイズ(以下、FC)加盟しているエムピーキッチンHD(以下、エムピー)だ。天下一品は、直営店ではなく、FC店を中心とした店舗展開をしている。
FC本部として「圧倒的な商品力、安定した食材の供給、キャンペーンによる集客力、創業50年以上の実績、メディアによる発信力、200店舗を超える全国ネットワーク」を持続的な競争上の差別的優位性として、そのビジネスモデルとブランド価値をアピールし、加盟店を募集。
ラーメン業態の多店舗化を計画していたエムピーは、上記の差別的優位性を持つ天下一品に魅力を感じ、経営理念共同体として協力関係を構築したものと思われる。
最初は双方の思惑が合致し、順調に進んでいたのだろうが、どこかで歯車が噛み合わなくなったのかもしれない。
そもそもFCに加盟する際は、収益性・成長性・独創性・成功の再現性・店舗展開の可能性などを基準に決定する。
今回の閉店は、今後も天下一品の加盟店であり続ける価値がなくなったと判断し、天下一品の看板を下ろして自社の成長ブランドに業態転換する方が最適と決定したのではないだろうか。
有名つけ麺チェーンを展開するエムピー

主力のつけ麺は人気を博しており、話題性がある。限られた経営資源を有効活用し企業価値を高めるためには、成長性が期待されるつけ麺事業に資源を集中するのは当然である。
同社はさらなる成長に向け「油そば」にも視野を広げている。油そばは手間やコストのかかるスープ作りの必要がなく、原価低減に貢献する。
ここ最近の「油そばブーム」に、乗り遅れまいとメニューを拡充しており、好調なつけ麺に甘んじることなく将来の新たな収益機会を常に探索する運営姿勢は評価される。
そういう企業だから、今の事業で企業価値を高めない事業の取捨選択は活発である。
天下一品の強みでもあったFC制度のデメリットが露呈か
今回の大量閉店は、天下一品が店舗展開の原動力としているFC制度のデメリットが露呈したのではないかと推察される。そもそもFC制度とは、多店舗展開をしたいが資本力がないケースや、優れたビジネスモデル(儲かる仕組み)で他人資源を使えば急速な店舗展開が可能なケースでよく採用される仕組みだ。
FC本部の代表的なメリットは、資金とリスクの負担を軽減できることである。そしてスケールメリットによる恩恵を、本部と加盟店が享受しWin–Winの関係を構築する仕組みである。
一方で、管理統制が困難になるデメリットもある。通常、加盟企業が離脱する理由は様々だ。
①一定の運営ノウハウを習得した加盟店が、そのノウハウと自社独自の価値を融合させたビジネスモデルを開発し、自らが本部を立ち上げてFC運営事業を開始する
②加盟店の売上が好調で本部に対する利益貢献度が高まると、本部への意見や影響力が強まり、力関係が逆転する
③計画通りに利益を上げられなくなったことによる撤退やお互いの信頼関係がなくなる
などである。
加盟する場合は本部の脆弱性と将来性を見抜く鑑識眼と先見力が重要で、失敗すると取り返しのつかないことになるから要注意だ。また、加盟店が法人の場合は複数店舗をドミナント展開するため、本部としては魅力的な取引先となる。
しかし業績が順調なときは良好な関係を維持できるものの、業績が鈍化すると責任の擦り合いになり、問題を解消できなければ契約を解除するというパターンが多い。今回の大量閉店もそうなったのではないだろうかと推察する。
「クレジットカード不可」が気がかり
大量閉店で心配される天下一品だが、筆者が訪れた店舗では相変わらず行列ができており、店内は活況を呈していた。安心した面もあるが、気になったのは店頭に大きく「クレジットカードは使えません」と貼り紙があったことである。天下一品は、いまだにクレジットカードが使えない店舗も少なくない。このキャッシュレスの時代に逆行しており、資金繰りが苦しいのかなと悪い連想をさせてしまう。
手数料の負担は厳しいかもしれないが、キャッシュインのタイミングを早める必要があるのであれば、今後の資金繰りが一層心配である。
今後、こってり味を追随する店が増える中、元祖こってりを再アピールできるかが重要な再生要因になりそうだ。それらを踏まえた上で再浮上をファンは待っている。
<文/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan