病をもろともしないバイタリティの源は、どこにあるのだろうか。本人を直撃し、発症した当時の話にくわえて、普段の生活や今後の目標についても語ってもらった。
1型糖尿病「誰にでも起こりうる病気」
ーー1型糖尿病はどんな病気なんでしょうか?たいき:体内で血糖値を下げるホルモン「インスリン」が作られなくなり、自分の力では血糖値を調整できなくなる自己免疫疾患です。 発症の原因ははっきり分かっておらず、防ぐことは出来ません。そして、一度発症してしまうと、どれだけ食事や運動や生活習慣に気をつけても、治すことも出来ません。
僕は身長172cm・体重54kgという体型で、ある日突然1型糖尿病になりました。 これを読んでくださっている健康な人でも、本当に誰にでも起こりうる病気なんです。
ーーたいきさんは今どんな治療をしているのですか。
たいき:インスリンを自分で注射しています。基本的には食前に、一日最低でも4回。左右のおなかに注射します。
血糖値の調節は3年経っても慣れない
ーー食事制限は?たいき:基本的にはしてません。摂る食事の糖質量を計算し、「これを食べたらどれくらい血糖値が上がるか」を予測して、見合った量のインスリンを注射しています。下がり過ぎたら、ブドウ糖を摂って調節します。
これが本当に大変で、発症から3年経った今でも「難しいな」と思う場面の連続です。でも、少しずつ自分なりのやり方が身についてきました。ちなみに、腕に血糖値を測る測定機をつけていて、異常が出るとスマホにアラートが来るようになっています。
はじめは食中毒だと思っていた
ーー発症した当時の事を振り返っていただけますか。たいき:ある日、発熱や腹痛、口の渇きが出たんです。とは言っても、その前日に焼肉を食べていたので、はじめは食中毒だと思いました。それで病院に行ったのですが、症状は悪化するばかりで……。
原因不明の体調不良が2週間ほど続き、息切れが激しく歩くのもキツくなってきたので、いよいよやばいと思って再度病院に行き……その帰り道で、倒れました。救急車で運ばれ、初めて精密検査を受け、1型糖尿病の診断を受けました。
ーー予想もしない難病と診断され、当時の心境はどうでしたか。
たいき:大ショックでしたね。「治らない」「一生自分で注射を打つ」と言う事実をなかなか受け止められず……。でも、病気に関して学んだり、インスリンの打ち方を覚えたりと忙しく、逆に血糖値コントロールがゲームのように感じられて面白くなって来たり。今思えば“病気ハイ”というような感じだったのかもしれません。のちにYouTubeに投稿する動画も、この入院中に撮っていました。
職場に復帰するも、いきなり倒れてしまい…

たいき:入院中はどこか楽観的な気分でしたが、退院後が大変でした。インスリン注射さえしていれば、これまで通りの生活に戻せると思っていたのですが、全くうまくいかなかったんです。まず一日数回の注射が大変でした。1本を打つのに30分掛かって……。今は10秒で出来る作業なのですが(笑)。あと、入院中は運動量や活動量が規則的なので、血糖値コントロールがやりやすかったんです。でも、社会生活ではそれが難しい。
当時は飲食店を運営する仕事をしていたんです。
それで、仕事中いきなり倒れてしまったりして。結果、退院後半年で仕事を辞めることになり……。その後は抑うつ状態になってしまって、実家に引きこもりきりでした。
ターニングポイントになった「先輩に借りた自転車」

たいき:アウトドアが趣味の先輩が地元にいるんですけど、ある時自転車を貸してくれて。自転車に乗っていると思いのほか気分が落ち着いて、そこから徐々に外へ出られるようになりました。血糖値のコントロールも少しづつ慣れて来ましたね。
落ち込んでいる時は遮断していたSNSも徐々に見られるようになって、ふとTikTokに投稿してみたんです。
ーー入院中の様子を映したYouTube動画は現在、200万回再生を超えています。
たいき:そうですね。思ったより反響が大きくて。日本全国の同じ病気を抱える方やご家族から多くのコメントを頂き、びっくりしました。糖尿病の中でも、1型糖尿病患者は約5%(2型が約95%を占める)と、数がすごく少ないんですよね。だから患者同士が交流し、生の声を聞く機会があまりなくて。SNSに寄せられるコメントやメッセージが、すごく励みになったので、患者の方々に直接会って、話をしたいという気持ちが出て来たんです。
「命をかけて会いに行きたい」とたぎる思いが
ーーそこで、その思いを形にする企画を思い付くんですね。たいき:そうなんです。みんなに会いたいなら会いに行けば良いかなと。
そんな時にうつ状態の自分を救い出してくれた「自転車」を思い出しました。インスリンを打ちながら自転車で日本一周をして、全国各地の患者さんや医療従事者に会いに行く。そして、陰に隠れがちな1型糖尿病に関するみんなの体験談や知見を、SNSを通して届けるーーそんな企画を考えたんです。色々な苦難がありながらも、様々な方の協力のおかげで、無事にやり遂げることが出来ました。
ーー日本全国を巡り様々な当事者と交流する中で、たいきさんが最も印象的に感じた事は?
たいき:患者さんが住む地方による医療格差です。糖尿病専門医にかかれるか、患者会で情報交換が出来るかなどによって、患者のQOLに大きなギャップが生じている……という現状があります。
治療と併行して好きな食事や運動を楽しめている方も居れば、「えっ? 1型糖尿病でもラーメンって食べられるんです!?」と驚くような患者さんもいらっしゃって、もちろんそれぞれ医師の治療方針はあると思うのですが……情報リテラシーの格差を痛感しました。病気を抱えながらも、患者さん一人一人が精いっぱい人生を楽しめるように、格差が少しづつでも是正されることを願っています。
「病気になって良かった」と思う境地に

たいき:それはありますね。
今度は僕が、誰かの希望になれたらと思っています。1型糖尿病であっても自転車で日本一周が出来るし、フルマラソンも走れるし、ビールだって美味しく飲める。楽しく生きる僕の姿を見せることによって、ほんの少しでも見ている方々を元気づけられたらうれしく思います。
でも、それだけじゃありません。僕自身、病気を発症する前は何かを成し遂げたりする経験がありませんでした。でも病気になって初めて、日本一周やフルマラソンに挑戦し、成し遂げる事が出来ました。むしろ病気になる前より成長している気がします。
だから今は、「病気になって良かった」と思っています。そして、そう思い続けたいから、これからもどんどん挑戦していきたいんです。実は今、トライアスロンの練習をしてます。ゆくゆくはアイアンマンレース(水泳3.8km、自転車180.2km、ランニング42.195kmの合計226kmで行われるトライアスロン競技。丸一日を掛けて完走する)に挑みたいです!
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決して他人事ではない話だからこそ、前を向き続ける生きざまは胸を打ちます。それにしても、どこにでもいる“普通の青年”が発症を経て、“勇気を与える存在”になったわけなのだから、人生とは本当に不思議なもの。これからの挑戦を心から応援したいところです。
<取材・文/浅原浩>
【浅原浩】
働きながら副業でライター。元老舗出版社勤務。メタルと文鳥が大好きです