―[貧困東大生・布施川天馬]―

「子どもの人生は小学校4年生時点で決まる」なんていわれたら、皆さんはどう思いますか?
 人生100年時代と言われる現代で、まだ10歳にも満たないうちに人生の大半が決まってしまうなんて、ありえないと感じるのでは。

 ですが、そんな無理がまかり通ってしまっている世界があります。
中学受験の世界です。

「中学受験アドバイザー」「中学受験コンサルタント」などの肩書を持った人々は、さかんに上記のような警句を並び立て、まるで「中学受験に参加しないと、人生終了」とでもいうような極端な思想を、半ば脅迫めいた口調で叫び立てます。

 本当に10歳までの成績で人生の大半は決まるのでしょうか?

 もしそうならば、小学校6年生時点で漢検6級(小学校5年生レベル)に落ちた私は、今頃大学どころか高校にも行けないはずでは?

 東京大学をはじめとする名門大に通う学生の多くは、名門私立中高一貫校の出身者ですが、余裕をもって見渡せば、中学受験未経験者や受験に失敗した人も数多くいることに気づけます。

 私が本当にお勧めしたいのは「高校受験」です。安易な気持ちで中学受験するよりは、余裕をもって高校受験するべき。その理由をお伝えします。

“中学受験界隈”で広まる「子どもの人生は10歳で決まる」とい...の画像はこちら >>

中学受験で問われるのは「親の真価」

 以前、「中学受験は子どもの地頭で決まる」と聞いたことがあります。その時は、「そりゃそうだろ」と思いましたが、今から考えると違う気がしてならない。むしろ、問われるのは親の能力でしょう。

 そもそも勉強は「書いてある内容を理解して知識にする作業」と「一定の操作を反復して直感的にする作業」の2種類があります。どちらも、ある程度やり方が決まっていて、しっかりその通りにやれば、進度の差はあれど、結果は出てくるもの。

 問題は、子どもたちは勉強のやり方自体を知らない点です。だからこそ、周囲の大人が「勉強のやり方」を教えてやる必要がある。
勉強時間の大半を占める自習のやり方さえ身につけば、受験なんて難しくない。

 結果が出ないのは、親や先生など周囲の大人が勉強方法をまともに教えられないからですし、子どもたちが勉強にやる気を出さないのであれば、やはり目的付けを子どもと共有できていない「報・連・相」の不足、ひいては大人の怠慢が、事態を悪化させているのです。

 中学受験は親への負担がえげつない。中学受験にかかる費用は、小学校4年生からの最低限だけを考えても250万円を優に超えます。

 さらに、夜遅くまで勉強する子どもたちの送り迎え、夜食やお弁当作り、宿題のサポートなど時間的な負担も大きい。

 もしもあなたが合計250万円以上の出費と、毎日最低2~3時間の残業(子どもの理解力が飛び抜けてよく、宿題のサポートが必要なかった場合)を3年間続けて、全く平気なのであれば、中学受験に参入してもいいかもしれません。

良い大学に行くために必要なこと

 私が高校受験を勧めるのは、大きく分けて2つの理由があります。

①金銭的負担が小さい
②偏差値が上がりやすい


 中学受験は3年間で250万円以上かかるとお伝えしましたが、我々の調査では、高校受験にかかる費用は3年間で93万円が平均であると結論が出ました。中学受験のおよそ1/3程度の出費で済む。しかし、その効果は絶大です。

 受験熱がヒートアップしているのは、大学受験を見据えてのことでしょう。

 中卒より高卒が、高卒より大卒者の生涯年収のほうが高く出る傾向にあり、さらにいわゆる一流大学出身者のほうが、年収は高まる。だからこそ、良い大学に行くために小学生の頃から受験を頑張る人が増える。


 ただ、良い大学に行くために必要なのは、「進学実績の優れた高校に進学すること」であって、中学の内容はあまり関係ありません。良い中学に行けなくても、人生は終了しないし、中学受験に参加しなくても、良い大学に行けなくなるわけではない。

 もちろん、「小4までの成績で人生が決まる」なんてポジショントークの極致のような妄言に付き合う必要もないんです。

高校受験の方が偏差値が上がりやすい

“中学受験界隈”で広まる「子どもの人生は10歳で決まる」という暴論。子どもを良い大学に行かせる方法は1つじゃない
高校受験の方が偏差値が上がりやすい
 さらに、高校受験のほうが偏差値は上がりやすい。中学受験は、首都圏在住のトップ層がこぞって参加するので、公立小学校のテストで100点を連発するような子ですら偏差値50に届かないのが実情ですが、高校受験は上から下までほぼ全員が受けるからです。

 さらに、中学受験で「成功」したトップ層は、ほとんどが付属高校へ内部進学するため、高校受験へ参入してきません。ですから、高校受験はトップ層が不在のままで戦うことができます。上から下まで幅広くそろっているので、「偏差値50」を取るのも容易。

 中学受験では偏差値40程度だった子でも、中学生向け全国模試では偏差値50~60を取ることも珍しくありません。

 勉強のモチベーションの根源は、やはり「できること」です。結果が出るから楽しくなって、もっと勉強したくなる。

 少なくとも、私を含めた周りの東大生たちはみんな「できたから勉強は楽しかった」と答えました。

“中学受験界隈”で広まる「子どもの人生は10歳で決まる」という暴論。子どもを良い大学に行かせる方法は1つじゃない
1時間あたりの偏差値上昇量は高校受験のほうが大きい
 1時間あたりの偏差値上昇量は、明らかに中学受験より高校受験のほうが大きいでしょう。
より子どもたちのモチベーションにポジティブな影響を与えやすいのもまた、高校受験だと考えられます。子どもたちが自分から勉強するようになってくれれば、親は手がかからず、労力も節約できる。

注意すべきは「深海魚」

 もちろん、中学受験の動機すべてが大学進学ではないでしょう。特に私立中高一貫校などには特別なカリキュラムや留学・修学旅行プログラムが用意されているケースも多く、「より洗練された環境で学んでほしい」などであれば、お勧めできます。

 ただ、後に控える大学受験でアドバンテージを獲りたいのであれば、中学受験は全くお勧めできません。いい中学に行ったからいい高校に進学できて、そのまま一流大学に進学してくれると思ったら、大間違い。

 有名進学校には「深海魚」という言葉があります。成績底辺クラスの学生たちを指す蔑称ですが、こうなってしまうと悲惨も悲惨。勉強がわからないので授業や自習へのモチベーションは最底辺だし、推薦受験に切り替えようにも学校の成績が最悪なので、内申ではじかれてしまう。

 もちろん指定校の枠なんて回ってこない。せっかく、中学受験を勝ち抜いたのに、名前も知られていない大学へ進学していく……。これは、珍しい話ではないんです。


 鶏口となるも牛後となるなかれ。進学校で牛後となるよりも、普通の学校でお山の大将を気取ったほうが、自信がつきます。もし「自分は勉強ができる」と思い込んでくれれば儲けものです。受験で最も重要な自走の準備が整っているからです。

 中学受験を過剰に勧める世間の雰囲気は、ハッキリ言って異常です。「10歳時点で人生が決まる」などという荒唐無稽な脅迫文を許してはいけません。

「中学受験しなくても勝てるのは地頭がいいからだ」と反論される方もいらっしゃいますが、その程度の地頭もモチベーションもないままに、修羅の戦争である中学受験に参入しても、門前払いを食らうだけ。脅しに屈さず、本当に子どものためになる選択肢を選んでほしいものです。

<文/布施川天馬>

※本記事は、『勉強にかかるお金図鑑: 幼稚園から大学まで』(笠間書院)を元に作成されています

“中学受験界隈”で広まる「子どもの人生は10歳で決まる」という暴論。子どもを良い大学に行かせる方法は1つじゃない
『勉強にかかるお金図鑑: 幼稚園から大学まで』(笠間書院)


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【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。
(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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