“朝ドラ”こと「連続テレビ小説」シリーズで史上最低視聴率となる13.1%(期間平均世帯視聴率、ビデオリサーチ調べ、関東地区)という不名誉な記録を残して、全国の朝ドラファンをガッカリさせた橋本環奈主演の『おむすび』(NHK)。
そんな嫌な流れを引きずったままバトンを受けて3月末からスタートした今田美桜主演の『あんぱん』(NHK、月~金曜午前8時~)だが、ここまで視聴者やSNSの声を見てみると『おむすび』と比較にならないほど評価は上々で、6週目は「朝ドラ史に残る神回」と称賛されたほどだ。


しかしながら、5月30日までの平均世帯視聴率は15.4%に留まっており、直近10作の中では『おむすび』に次ぐ低い数字となっている。

なぜ、高い評価を得ていながらも『あんぱん』の視聴率は伸びていないのか?今後、高視聴率をマークするようなヒット作になることはあるのか?業界関係者3名に話を聞いてみた。

王道テーマと今田美桜の明るさで朝ドラファンには高評価

キー局でドラマプロデューサーを務める50代男性のA氏はこう分析する。

「朝ドラの定番である“史実に基づいた女性の半生”をテーマにした作品なので、40~50代以上の朝ドラ好き視聴者には非常に受け入れやすい内容になっており、かなり評判が良いようです。

モデルが『アンパンマン』を生み出したやなせたかしさんとその妻・小松暢ということもあり、なじみ深いのも大きいですよね。また、主演を務める今田美桜さんのハツラツとした笑顔や大きな瞳を生かした感情表現豊かな演技も見ていて心地よい」

A氏は高評価の要因を挙げたものの、視聴率がふるっていない理由についても推測した。

人気俳優の死が相次いで愛着がわかず……

「愛着がわく前に、キャラクターがいなくなっていることではないでしょうか。

戦時下に向かっていく時代背景をリアルに表現した素晴らしい脚本になってはいますが、人気俳優が演じるキャラクターたちが早々に命を落として物語から脱落してしまっており、キャラクターを愛することが難しくなっている。

ヒロイン・のぶの父親で、加瀬亮さん演じる結太郎は1週目で亡くなってしまったほか、河合優実さん演じる蘭子の婚約者だった細田佳央太さん演じる豪も戦死、北村匠海さん演じる嵩の伯父で、竹野内豊さん演じる寛も病死。また、阿部サダヲさん演じる“ヤムおんちゃん”ことパン職人・草吉も姿を消してしまった。

戦争の悲惨さや虚しさを描くために仕方ないとはいえ、序盤でこれだけ人気俳優が演じる主要キャラがいなくなったことで離脱してしまっている視聴者も多数いるようです。これまでの朝ドラでも身内の死は当然描かれてきたのですが、若いドラマ視聴者には受け入れ難いみたいです」

作風と合わないRADWIMPSの主題歌に戸惑い



さらに、A氏はストーリー以外の面でも視聴率が伸びない理由を述べた。

「伸び悩みの理由として大きいのは、オープニングに流れる近未来的な映像とRADWIMPSの『賜物』の歌詞や曲調でしょう。ノスタルジックなストーリーとあまりにもギャップがありすぎる。

『賜物』はRADWIMPSらしい哲学的な歌詞やポップなメロディーラインが魅力的な楽曲ではありますが、これまでの素朴で温かみのあるテーマソングのイメージとは真逆。
CGを駆使した映像も攻めすぎていると言わざるを得ない。あのオープニングを見た後に感動的なシーンが始まっても気持ちが切れてしまう。

新しい試みをするチャレンジ精神は素晴らしいですが、史上最低視聴率だった『おむすび』の後に放送する朝ドラでやるべきではなかったのかなと思います」

ヒロイン以外のサブキャラのほうが魅力的

また、制作会社に勤務する40代の女性プロデューサー・B氏にも話を聞き、『あんぱん』の今後を推測してもらった。

「ヒロイン・のぶ以上にサブキャラクターたちの演技やシーンが素晴らしすぎることが逆に心配です。今後は今田美桜さん演じるヒロイン・のぶと北村匠海さん演じる嵩のシーンが中心になっていくことを考えると、視聴率は伸びづらいのでは……。

例えば、河合優実さん演じるヒロインの妹・蘭子が細田佳央太さん演じる豪に告白するシーン、豪の戦死を知って感情むき出しに号泣するシーンは河合さんのセリフ回しや感情の抑揚、涙を流す表情、どれも取っても完璧。蘭子のドラマを見ているような錯覚に陥った。

また、もう一人の妹・メイコを演じる原菜乃華さんが高橋文哉さん演じる健太郎に歌声を褒められて恋に落ちるシーンも最高でした。まるで青春ドラマを見ているようなキュンキュンとした気持ちになれました。他にも、阿部サダヲさん演じる草吉が壮絶な過去を吐露するシーンも見ごたえがあった。

サブキャラクターまでも見事に描くことができる天才脚本家・中園ミホさんだからできるストーリーだとは思いますが、すでに満足してしまっていて……。今後、のぶの見せ場はあると思いますが、個人的には期待感が薄いです」

ヒロインのキャラと愛国心に失望

また、主に演劇や深夜ドラマを担当する30代の男性シナリオライター・C氏にも話を聞いた。

「今田美桜さんの演技自体は好きですが、のぶのキャラクターが好きになれないので、離脱しそうになっていますね。やりたいことに突き進む性格や感情的になりやすいシーンを見ていると、“このヒロインを応援したい”とはどうしても思えない。


また、女子師範学校に入学してから愛国心に目覚めていく姿が痛々しすぎる。もちろん、時代背景的には間違っていないのでしょうし、この先で自身の愛国心を省みるシーンへの布石だとは分かっているものの、あまりにも過激に描きすぎているのでは……」

アニメ『アンパンマン』のオマージュがピンと来ず……

また、C氏からは、SNSで絶賛されている意見に対してこんな感想も飛び出した。

「ドラマの登場人物をアニメ『アンパンマン』のキャラクターに似た名前や性格にする“オマージュ”をしていると聞きましたが、ほとんど『アンパンマン』の知識がなくて……。

その面白さが理解できていないので、SNSで盛り上がっているほど熱中できていない。おそらく中高年視聴者にも刺さっていないのでは?」

業界関係者が述べた感想や今後の視聴率予想が正しいかはさておき、6月以降になってから少しずつ数字を上げているものの、まだまだ高視聴率とは言い難いのも事実だ。

しかし、丁寧に作りこまれた繊細なセリフや長回しを使ったカメラワークの演出、瑞々しいキャラクターたちはこれまでの朝ドラと一線を画すほど魅力的な作品で、戦後以降のストーリー次第では過去最高の朝ドラになり得る可能性も秘めている。

本家『アンパンマン』のように末永く愛される作品になることを祈りたい。

<取材・文/木田トウセイ>

【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。
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