公衆衛生に対する意識の変化から、咳エチケットに対する要求水準は、ビフォーコロナと比べると格段に上がったのではないだろうか。今回聞いたのは、列車内の乗客による「くしゃみ」を発端にしたトラブルだ。
列車内にくしゃみのうるさい男性が…
会社員の白石章さん(仮名・30代)は3月末、出張のため東京・品川駅から福島県はいわき駅までを結ぶスーパーひたちに乗りこみ、茨城の日立に向かった。「上野駅を過ぎたあたりで、めちゃくちゃくしゃみのうるさいおっさんがいることに気がついたんです。明らかにわざと大声を出していると思うような、『あーっしょい』というようなくしゃみでした。最初は『うるせえな』と思いながらも、我慢していました」
辛抱する白石さんだったが、連続で放たれる男のくしゃみを前に、堪忍袋の緒が切れる。
「とにかくうるさいくしゃみを連発するんです。3連発かましたと思えば、数分後にもおかわりで3連発といった感じで。さすがに『冗談じゃねえ』と思って、音がするほうをみると、60歳手前くらいのおっさんでした。しかも、花粉の時期でもあるのにノーマスク。当然飛沫も飛ぶだろうし、本当に嫌な気分になりました。『生理現象だし、我慢しなければいけないのかな』とも思いましたが、さすがに連発はうるせえしノーガードは汚いし。『せめて口元を押さえろよ』と、文句を言おうと思いました」
注意した乗客が怒鳴られていた
くしゃみのうるさい乗客に文句を言おうとした白石さん。席を立ち上がろうとすると、先に別の乗客が男に声をかけた。「よく聞き取れなかったのですが、おそらく『静かにして』と注意をしたようで、男が『生理現象なんだから仕方ないだろ』と怒鳴る声が聞こえました。ここは私も加勢しなければと思い、『この人の言う通りですよ。あなたはうるさすぎる。公共の場なんだから配慮するべきだ』と、注意したんです。すると男は『これが俺のくしゃみのスタイルだし、変えるつもりはない。嫌なら別の席にいけよ』と開き直っていました」
怒鳴り合いになり、車掌が仲裁に入るも…
結局どうなったのだろうか?「くしゃみを止めるつもりのない男に、私も頭にきて『ふざけるな。これだけ止まらないならマスクくらいしろ』と言うと、怒鳴り合いのような形になってしまいました。しばらくすると車掌がやってきたので、事情を説明しました。けれど、『他のお客様の迷惑になりますので、お静かにお願いします』と、くしゃみはスルーして、私と男が揉めていることがうるさいというような言い草だったんです。呆れましたね。
はらわたを煮え返らせながらも、仕方なく席に戻りましたが、男は今まで以上に大きいくしゃみをするようになり……。結局、我慢させられることになりました。最初に注意した人は別の車両に移ったようで、いつのまにかいなくなっていて。
生理現象とはいえ、最低限の配慮がほしい
白石さんは一連のくしゃみによる騒音騒動についてこう話す。「くしゃみが生理現象なのはわかりますが、出てしまうようならマスクをする、抗アレルギー薬を飲むなど、いくらでも対策はできる。公共の場、それも閉鎖空間に行くなら、そうした配慮は必要であるはず。
大きな音を立てながら飛沫を撒き散らすタイプのくしゃみを連発するのは、私はマナー違反以上の迷惑行為だと思います。鉄道会社側も、もっと真剣に考えてもらいたい」
くしゃみ「そのもの」は生理現象であり、「迷惑行為」に該当しないのは当然である。
だが、今回のように、「マスクやハンカチでガードをせずに」「極端に大きな音を立てる」くしゃみであれば、その限りではないのではないか。「公衆衛生を乱す行為」「騒音を立てる行為」として、糾弾されてやむなしに思える。
以前から“オッサンのうるさいくしゃみ”は鼻をつままれてきたが、くしゃみや咳の飛沫拡散リスクが知られた今や、もう単なる不快行為では済まないだろう。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。