日本の伝統的な街並みが残る京都。多くの外国人観光客が訪れるこの地では、実際にトラブルも起きている。
舞妓さんを無断で撮影「明らかに困った様子で…」
高橋敦子さん(仮名)は夕暮れ時に祇園を訪れた。石畳の通りには柔らかな陽光が差し込み、町家や揺れる暖簾に京都ならではの美しさを感じていたという。「通りには多くの観光客が行き交い、着物姿の女性や修学旅行の学生たちがスマートフォンやカメラを手に、思い思いにその情緒を楽しんでいるようでした」
そんな中、ある一角がざわついているのに気づいた高橋さん。目を向けると、そこには舞妓さんがいて、明らかに困った様子だった。
「舞妓さんは、夕方の用事に向かう途中だったのでしょう。細い路地を小走りで進もうとする彼女の背を、外国人観光客がカメラを構えて執拗に追い回していたんです」
外国人観光客たちは英語やその他の言語で何かを叫びながら、舞妓さんの後ろにぴたりとつき、スマートフォンを顔のすぐ近くまで近づけて撮影を試みていた。
舞妓さんは視線を落としたまま歩みを早めていたが、外国人観光客たちはその空気を読もうとせず、楽しげに笑いながらシャッターを切り続けていたという。
「写真を撮っただけだ!」納得がいかない外国人観光客

やがて路地の奥から警備員が小走りでやって来た。舞妓さんと外国人観光客たちの間に入り、毅然とした態度で制止を呼びかけていた。
「最初、外国人観光客たちは驚いた表情を見せつつも、納得がいかずに『写真を撮っただけだ!』と反論する様子も見られました」
しかし警備員は冷静かつ丁寧に、その行為がマナー違反であること、また本人の同意なく無断で撮影することは問題があると英語で説明した。
「いつしか緊張感に包まれ、先ほどまでのにぎやかな空気はすっかり消え去っていたのです」
最終的に、外国人観光客たちは撮影をやめ、少し戸惑ったような顔でその場を後にした。舞妓さんは深く頭を下げ、そっと路地を抜けていったという。
「その姿を見送りながら、私はただ一人の通行人として、あまりにも鮮烈な場面を目撃したなと……」
「撮られた?」後ろを振り返ると…

「千本鳥居を抜けたあたりで背後から『パシャパシャ』と写真を撮る音がしました。私と友人は、もしかして勝手に撮られた? と思って後ろを見ると、ニヤニヤしてスマホの画面を眺めている外国人観光客の男性4人組がいたんです」
丸山さんは不審に思い、「今、写真撮りませんでした?」と声をかけたが、相手は知らぬ顔。4人のうち2人は少し日本語ができたものの、写真を撮ったとされる本人は日本語が通じないか、あるいは面倒くさがっている様子だった。
せっかくの京都旅行で時間も限られていることから、丸山さんたちが諦めかけたとき、状況を見ていた日本人の男性が声をかけてきた。
「その方は自称・検察官で、たまたま京都で観光をしていたようです。『どうしたの?』というので状況を説明したところ、流暢な英語で自分が検察官であること、隠し撮りの確認としてスマホを見せるように伝えてくれました」
態度を一変させて何度も謝罪
すると、隠し撮りをした本人の態度が一変。大いに動揺し、黙り込んでしまったという。「手が震えてまともにスマホを操作できない状態ながら、なんとか写真を見せてくれました。
彼が検察官と聞いて、隠し撮りをした本人は不安を隠せず、「悪ふざけだった」と反省の色を見せた。日本語が少し話せる2人は何度も謝罪してきたという。
「検察官の男性から犯罪として相応の対処をするか聞かれましたが、本人も相当こたえたようで、憔悴しきって体調が悪くなるほどでした。写真も消していたので、許すことにして解決しました」
この出来事について丸山さんは、「もしも検察官の男性が助けてくれなかったら、私の写真が勝手に海外サイトやSNSなどで使われていたかも?と考えると、今でも嫌な気持ちになります」と語る。
——外国人観光客が、文化や風習の違う土地を訪れてテンションが上がってしまうのはわかる。お互いが気持ちよく過ごせるように早くなってほしいものだ。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo