移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。
車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
 今回は、通勤電車で“自分本位なふるまい”に振り回された2人のエピソードを紹介する。

スマホゲームに夢中の男性が無言で肘攻撃


満員電車で大股を広げて座り、スマホゲームに夢中の男性。ヒジま...の画像はこちら >>
 伊藤由香さん(仮名・30代)は、いつものように通勤電車に乗っていた。

「混雑していてぐったりしていたんですが、運よくボックス席(向かい合わせに4人が座れる座席)が空いていたので、ホッとして座りました」

 しかし、安堵したのも束の間……。

 隣に座っていたのは、恰幅のよいスーツ姿の男性。膝には大きなカバン、そして両肘を大胆に広げ、スマートフォンでゲームに没頭していたという。

「イヤホンからはピコピコと効果音が流れていて、指は激しく画面をタップし続けていました。ゲームの世界に入り込んでいる感じでしたね」

 はじめは「ちょっと狭いな」程度にしか思っていなかったが、男性の左肘がだんだんと伊藤さんの右腕に食い込んでくるようになり、不快感が増していった。

「電車の揺れのせいかと思って少し体勢を変えたり、軽く押し返したりもしたんですが、彼はまったく動じません。むしろ、余計に力が入って肘の当たりが強くなったように感じました」

 車内は静まり返っており、周囲の乗客も気づいていない様子。中村さんは葛藤した末、意を決して声をかけた。

思い切って注意したのにノーリアクション


 謝罪や、少なくとも肘を引くなどのリアクションを期待していた中村さんだったが、返ってきたのは予想外の態度だった。

「彼は私を一瞬だけ見て、すぐにスマホに目を戻しました。何ごともなかったように、またゲームに没頭し続けたんです」

 その瞬間、中村さんの胸に込み上げたのは怒りだけでなく、虚しさだった。


「自分さえよければという態度に触れると、朝からすっかり気力がなくなりますよね。小さな思いやりがどれだけ大切かを改めて感じました」

 中村さんはその日、「周囲を見渡す心の余裕だけは、絶対に忘れたくない」と心に誓ったという。

「リュックくらい前に持て!」混雑電車で遭遇した“マイルール男”の横暴


満員電車で大股を広げて座り、スマホゲームに夢中の男性。ヒジまで食い込んできて…注意した結果、“予想外の態度”にア然
電車に乗る男性
 酒井俊介さん(仮名・40代)は、ある朝の通勤時の出来事が、今でも忘れられないという。

「乗車時点ですでにぎゅうぎゅうで、吊り革につかまるのも一苦労でした。そんななか、前に立っていた男性のリュックが何度も私の胸元にぶつかってきたんです」

 男性は、リュックを背負ったままスマートフォンを操作しており、車内の揺れに合わせてリュックの角が酒井さんの体を打ち続けていた。

「混雑しているし、仕方ないとガマンしていました。でも、駅に止まるたびに状況は悪化していって、さすがに限界でした」

 軽く視線を送ってみたものの、男性は気づかないふり。リュックに軽く手を当てて押し返してみると、今度は不機嫌そうな顔で睨みつけてきたそうだ。

「なにも言わないのに睨んでくるって、本当に理不尽でした」

アナウンスも無視して“逆ギレ”、静かな縄張り争いにぐったり


 すると、ちょうど「リュックは前に抱えて持つか、手に持つなどご配慮を」という車内アナウンスが流れてきた。酒井さんは「ようやく伝わったか」と思ったのだが……。

「男性はリュックを前にするどころか、わざとらしく舌打ちしてきました。私が少しでも動けば、自分のスペースを広げようと圧をかけてくるんです」

 次の駅で数人が降り、少しだけスペースができたときのこと。

 酒井さんが吊り革の前に移動しようとすると、男性が腕を伸ばして横から肩をねじ込んできたという。


「完全に“意地のぶつけ合い”でした。言葉はないけど、静かなマウント合戦みたいな空気が漂っていましたね。息苦しさしかなかったです」

 やがて男性は無言で電車を降りていったが、酒井さんのなかには不快感だけが残った。

「満員電車だからこそ、お互いが少しずつ譲り合うのが当たり前ですよね。自分が快適であれば、他人はどうでもいいという態度が腹立たしかったです」

 電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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