―[その判決に異議あり!]―

コロナ給付金の支給対象から性風俗業のみ除外したのは、憲法が保障する「法の下の平等」に反するとして、関西のデリヘル運営会社が訴えた裁判で、最高裁は6月16日、除外は合憲と判断。会社側の上告を棄却した。

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、この「性風俗業のコロナ給付金対象外は合憲」について、独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

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「風俗童貞」の裁判官に市民感覚などわかるわけない

コロナ禍では、営業を自粛した事業者を支援するために給付金制度が創設された。ところが国は、デリヘル業などの性風俗特殊営業をその対象から除外。この理不尽な線引きに、憲法が定める平等原則に違反していると、この業界でマジメに働くフーケンさんが一人立ち上がったが、最高裁は司法の役割を果たさなかった。

最高裁「性風俗業はコロナ給付金対象外」判決。元裁判官「世間知らずの裁判官に市民感覚などわかるわけない」
写真は原告・フーケンさんのSNSアカウント
一審二審に続き最高裁でも、弁護士出身の女性裁判官が唯一反対意見を述べたものの、残り4名の男性裁判官は行政による職業差別をそのまま追認。“性風俗は不健全であるし、風俗嬢の尊厳を害しているから、差別されても仕方がない”と判断したのだ。

この判決にネット上では、「裁判官も風俗くらい行くだろう!」といった声も見られたが、俺はそういう裁判官がいるとはついぞ聞いたことがない。

他方で、裁判所職員は性風俗を利用している。裁判所に限らず、公務員は性風俗を利用しやすい環境にある。5時ピタで仕事が終わり、金銭的にもそこそこの余裕があるからだ。帰宅前にタイパよくストレス発散できれば、職場でも家庭でも理想的な人間像を演じることができる。俺も、裁判所職員から「SMATTA×SMATTA」というお店に行った話を聞かされたことや、また、別の職員らと一緒にソープランドに行ったこともある。実際に風俗店に行くと多くのことを感じる。
店は思いのほかきれいだし、そこで懸命に働いている女性たちがいる。情も湧くし、応援したくなる。俺には、プロ意識をもって働く風俗嬢が尊厳を害されているとは到底思えなかった。

浮世離れした日本の裁判官

しかし、そんな裁判官は俺くらいである。というのは、日本の裁判官は欧米とは異なり、そもそも世間とは隔絶され、官舎と職場を往復するだけの日々を送るよう指導されているからだ。彼らは一般社会とは極力関わろうとしないし、ましてや風俗店に行くなど論外である。

もっとも、裁判官に性欲がないわけではなく、それは性犯罪といういびつな形で露見する。平成の時代に弾劾裁判にかけられた裁判官は、スマホ盗撮や児童買春など、そのすべてが性犯罪であった。それ以外にも、女子トイレの盗撮や強制わいせつ致傷で有罪になった裁判官もいるほどだ。

一方、欧米の裁判官はどれだけ自分が社会と関わっているかをアピールする。市民感覚を理解している裁判官こそ、正しい判断ができると思われているからである。だが、日本はこれとは真逆だ。
とにかくお行儀よく、人目を避けベールの中に包まれようとする。

そんな品行方正で浮世離れした裁判官から見れば、性風俗は汚らわしく、そこで働く女性に尊厳などないとでも思っているのだろう。

弱者と見なすなら手を差し伸べればいいのだが、厄介なことに、現実を知らない彼らは「性風俗は労働に非ず=不健全な世界」という頭の中だけで作られたイメージで凝り固まっており、平等原則違反を是正すべきというリーガルマインドすら麻痺している。

今回の判決は、世間知らずの裁判官は世の中の常識とズレズレの結論を導き出しかねないという証左となった。

風俗店でうっかり目撃されてしまった裁判官のほうが、実は信頼できうるのだ。

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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