―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

イスラエル・イランの紛争は世界に衝撃を与えている。トランプ大統領が指示した米軍によるイラン核施設への攻撃を経て、6月24日に停戦合意したとはいえ、緊張状態は続いている。
イスラエルとイランの争いはこのあとどのような決着を迎えるのだろうか。混迷を極める世界に“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

イスラエル・イラン戦争はどう決着するのか?

★相談者★時雨(ペンネーム) 会社員 38歳 男性

イスラエルによるイラン攻撃によって中東戦争が本格化しています。イスラエルと交戦中のハマスをイランが支援してきたとニュースで拝見しました。イスラエルとイランが古くから不仲であることは知っておりました。それでも2000㎞も離れたイランにミサイルを撃ち込むとは思ってもみませんでした。同盟国のアメリカまでもイランを攻撃しました。停戦が実現するという報道もありますが、なぜ、このようなかたちで中東戦争が起こり、どのようなかたちで戦争は決着するのでしょうか?

トランプ大統領の反応を予測するのはほぼ不可能!第三次世界大戦...の画像はこちら >>

佐藤優の回答

イランはイスラム世界革命の思想を持った国家です。その第一歩として、イスラム教の聖地である(ユダヤ教、キリスト教にとっても聖地ですが)パレスチナの地にあるユダヤ人国家イスラエルを地図上から抹消しようとしています。ジャーナリストの池上彰氏は、こんな指摘をしています。

〈イランは2015年、欧米などと核開発を制限する代わりに経済制裁を解除する核合意を結びましたが、第1次トランプ政権が2018年に一方的に離脱していました。イランとの間で対立が先鋭化しているイスラエルは、「イランの核施設はかつてないほどの攻撃の脅威にさらされている」と述べ、イランを威嚇しています。〉(『知らないと恥をかく世界の大問題16』200頁)

そして、6月13日にイスラエル軍がイランの核関連施設を空爆し、22日に米軍が、地下深くに設置されたイラン核関連施設を空爆しました。

現在、私たちは第3次世界大戦の瀬戸際に立たされています。
私は、6月23日3時過ぎにテルアヴィヴ郊外に住む元「モサド」(イスラエル諜報特務庁)幹部と通信アプリで会話しました。工作総局の幹部も経験した元幹部の発言をまとめてみます。

「6月22日の米軍によるイラン攻撃は、事前にイスラエルとよく協議して行われたものではない。現在のアメリカ政府は、トランプ大統領による独裁政権と見たほうがいい。我々はトランプ氏のワンマンショーを見せられているのである。トランプ氏はイランの核能力を破壊することができるという機会を利用して、伝説上の人物になりたいのであろう。トランプ氏は第1次政権で北朝鮮の核問題解決に失敗し、第2次政権でもカナダ、グリーンランド、パナマ運河などについて、さまざまな構想を述べたが一つも実現していない。ウクライナに関する約束も履行できていない。イスラエルのイランに対する攻撃が成功した後、トランプ氏は自分の手によって今、解決できる問題を見つけたのだ。問題は、イランが報復した場合、トランプ氏がどう行動するかだが、トランプ氏の反応を予測することはほぼ不可能だ」

 公式には、ネタニヤフ首相やイスラエル政府幹部は米軍によるイラン攻撃を歓迎し、絶賛しています。ただし、本音のところでは、強い不安を覚えているのだと思います。今後の情勢でカギを握るのはトランプ氏の心理状態です。
トランプ氏の受け止め方次第で、歴史は平和にも戦争にも舵を取ることができます。平和のほうに舵を切ってほしいとは思っていますが、見通しはまったく立たないというのが正直なところです。

★今週の教訓……トランプ氏はワンマンショーを見せている

※今週の参考文献『知らないと恥をかく世界の大問題16 トランプの“首領モンロー主義時代”』(池上 彰 角川新書)
トランプ大統領の反応を予測するのはほぼ不可能!第三次世界大戦の瀬戸際に立っている<イスラエル・イラン戦争は決着する?>
第2次トランプ政権が古典的帝国主義の再来を決定づけ、米ロ中による縄張り争いはますます熾烈に。そのなかで日本はどうすべきかをわかりやすく解説。’25年刊


―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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